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年下男子に振りまわされたら

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そのままわたしは、りっくんから引き離されるようにユウヤくんに連れて行かれてしまった。



「はぁ~………」

「どうしたの?朝から落ち込むことでもあった?」


教室で深いため息を吐くわたしのところへ、芽依がやってきた。


わたしは、さっきの出来事を話した。


たまたま校門辺りでりっくんに声をかけられ話していたら、ユウヤくんがやってきたこと。


そして、りっくんの前で見せつけるように手を繋いだこと。


あの場にはりっくんだけじゃなく、登校してきた他の生徒だっていた。

わざわざあんな目立つこと…してほしくなかったのに。



わたしの話を聞いて、芽依はふむふむと頷いている。


「それはきっと、“ヤキモチ”だね」

「ヤキモチ?ユウヤくんが?」

「うんっ。絶対そうだよ!ユウヤくん、しずくが律希くんと仲よくしてるのがイヤだったんじゃないかな?」

「…そんなこと言ったって、ただ撮影のお土産を手渡されただけだよ?」


それに、他愛のない話をしただけだけど、どこにヤキモチを焼く要素が…?


「それは、ユウヤくんが焦ってる証拠じゃない?」

「焦ってる?」

「そう。だって、約束の1週間は今日まででしょ?」


芽依の言う通り、お試しのお付き合いは今日まで。

改めて返事をする日だ。


「だからユウヤくんは、どうしてもしずくを自分のものにしたいんじゃないのかな?」


その焦りで、りっくんの前であんなことを?


「でも、カワイイじゃん!ヤキモチ焼いてくれて。それだけ、しずくに本気だってことだよっ」


初めは、遊びかなにかだとも疑ったけど、この1週間でユウヤくんはそんな人じゃないということはわかった。


…だけど。


「ユウヤくんの気持ちはうれしいけど、わたしは…断ろうと思う」


それを聞いて、目を丸くする芽依。


ユウヤくんは、本当にいい子。

愛嬌たっぷりだし、子犬みたいでかわいいし、なにも知らなかった1週間前とは違って、今はユウヤくんのことが好きだ。


でもその“好き”は、ラブではなくてライク。


わたしにとっては、弟のような感覚だ。


だから、おそらくこの気持ちが恋愛に発展することは…ない。



「そっか~。しずくがそう思うなら、ユウヤくんにそう伝えるしかないね」

「…うん。話してみるよ」

「それでユウヤくんが、“素直に”納得すればいいんだけどね」


意味ありげに、ニヤリと口角を上げる芽依。


このときは、芽依のこの言葉と表情の意味がわからなかった。

だけど、それは放課後になってようやく理解するのだった。



「イヤですっ!!」


1週間前、ユウヤくんとお試しで付き合うことになった屋上で、ユウヤくんの声が響き渡る。


わたしは芽依に宣言した通り、ユウヤくんとは付き合えないことを話した。

その理由も話した。


だけどユウヤくんは、頑なにわたしの意見を聞き入れようとはしなかった。


「イヤです!オレは別れません!」


まるでダダをこねる子どものように、そう言ってプイッと突っぱねるだけ。


「ちょ…ちょっとユウヤくん、わたしの話を――」

「それは聞きました!それを聞いて、オレは花岡先輩とは別れたくないんですっ!!」


ちゃんと話をしたらわかってくれると思っていたのに…。

ユウヤくんは、しまいには両手で耳を塞いでしまった。


わたしの話を完全に拒否してる…。


『それでユウヤくんが、“素直に”納得すればいいんだけどね』


あのときの芽依の言葉が思い出される。


芽依の言うとおり、ユウヤくんは『素直に』納得なんてしてくれなかった。


ユウヤくんが、ここまで聞き分けが悪いとは思ってなかったから…。

…非常に困ってしまった。



「花岡先輩は、オレのこと…キライなんですか?」

「そ…そんなことないよ!むしろ、好きだよ!」

「じゃあ、別れる必要なんてないじゃないですかっ。オレのこと好きなら尚更」

「…あっ、違うの!その“好き”って言うのは――」

「どっちにしても、オレは別れるつもりはありませんっ!!」


そ…そんなぁ…。

こんな展開になるなんて…聞いてない。


「きっと1週間じゃ、時間が足りなかっただけですね。もっと付き合えば、オレのよさがわかるはずです!」


グイッとわたしに歩み寄ったユウヤくんは、わたしの手を取る。


まずい…。

また、ユウヤくんのペースに流されている。


このままだと、また1週間前と同じことになる。


…だけど、ユウヤくんの期待に満ちたキラキラとした目。

わたしなら、絶対断らないという自信があるのだろうか。


このまま、ダラダラ付き合っていてもダメっていうのはわかっているのに。


わたしの『OK』の返事を待つユウヤくんに、『NO』を突きつけるのは酷なようにも思えてきた…。



…だれかっ。

この場を切り抜けてくれる…だれかの助けがあったら。


そう思っていた、…そのとき。



「その手、離してもらえるかな」


突然、頭上から声がしたかと思ったら、わたしの手を握るユウヤくんの腕をつかむ手が――。


驚いて顔を上げると、目を細めてユウヤくんに視線を落とす…りっくんだった!


「…りっくん!」

「遠野先輩?…が、どうしてここに?」


りっくんを少し睨みつけると、その腕を振り払うようにしてユウヤくんが一歩下がった。

すかさず、わたしとユウヤくんとの間にりっくんが割って入る。


「…遠野先輩。オレたち大事な話をしていたので、そこどいてくれますか?」

「大事な話…?お前が、一方的にしずくに詰め寄ってるふうにしか見えなかったけど」

「そんなことありませんよ!だってオレたち、付き合ってるんですからっ」


ユウヤくんのその言葉に、わずかに見えるりっくんの横顔から、目尻がピクッと上がったのがわかった。


「付き合ってる?お前としずくが?」

「そうですよ。彼氏と彼女なんです♪朝にも言ったじゃないで――」

「彼氏だったら、しずくを困らせるようなことするなよ」


いつもよりも低いりっくんの声が、静かな屋上に響く。

それに驚いたユウヤくんが、少し怯えたようにりっくんを見上げる。


「お前にグイグイ迫られて、しずくが言いたいことも言えないのに気づいてたか?彼氏なのに、そんなこともわからないわけ?」

「そ…それは…」

「しずくの気持ちも考えないで、自分の意見ばかり押し通して…。そんなヤツに、しずくを渡してたまるかよ」


りっくんはそうユウヤくんに吐き捨てると、わたしのほうを振り返った。


そして、右手をわたしの右肩に添えたかと思ったら…。


「悪いけど、こいつ、ずっと前から俺のだから」


そう言って、わたしを抱き寄せた…!


りっくんの硬い胸板に、左頬が押し付けられる。


そんなわたしたちを見たユウヤくんは、顔を真っ赤にして泣き出しそうに目を潤ませた。


「そ…そういうことだったんですか、花岡先輩…!」

「え、えっと…。ユウヤくん…?」

「初めから、彼氏がいたならそう言ってくれたっていいのに…!それなのに、オレをもてあそんでっ…」

「ちっ…違うよ?これは…、そのぉ…」


戸惑いながらりっくんを見上げると、りっくんは勝ち誇ったかのように微笑んでいるだけだった。


「…もう勝手にしてください!花岡先輩なんて、好きでもなんでもありせんからーー…!!」


涙声混じりでそう叫ぶと、ユウヤくんは涙を拭って屋上から出ていった。



…一瞬の出来事だった。


あんなに別れたくないとダダをこねていたユウヤくんが、りっくんの登場であっさりと別れてくれるなんて…。

でも、わたしとりっくんが付き合っていると勘違いさせて泣かせてしまったのは、少し申し訳ないような気もするけど。



――ひとまず。


「ありがとう、りっくん。助けに入ってくれて」


りっくんがこなかったら、きっとまたユウヤくんの押しに負けていただろう。


「でも、どうしてりっくんがここへ?屋上に用事でもあったの?」

「ちげぇよ。朝のしずくとあいつの話が気になってて」


それでクラスメイトに聞いてみたら、わたしとユウヤくんが1週間だけ付き合っているという話を聞いたんだそう。


「俺が撮影でいない間に…そんなことになってるとは思わなかった」

「ごめんね。ユウヤくんの押しが強くて、なかなか断れなくて…」

「だと思った」

「りっくんにも相談しようと思ったんだけど、撮影で忙しそうだから言えなくて…」


1人じゃ断れなかった自分が恥ずかしくて、手をもじもじさせていた。


…すると。


「俺は、それでも相談してほしかった」


りっくんがわたしのあごをクイッと持ち上げ、腕から視線を落とした。


「しずくの話なら、どんなに忙しくたって時間作るから」

「で…でも、わたしがだれかとお試しで付き合うなんて話、聞いてもおもしろくないでしょ…?」

「おもしろいかどうかじゃなくて、あとから聞かされた俺の身にもなれよ…」

「え…?」


わたしが首を傾げると、りっくんは力が抜けたようにその場にしゃがみ込んだ。


そして、深いため息をつく。


「しずくが、だれかのものになるかもって思ったら…。頭ぐちゃぐちゃで、どうにかなりそうだった」


…りっくん。


「だから居ても立っても居られなくて、ここにきたんだ。しずくを取り返すために」


りっくんの言葉ひとつひとつが、わたしの胸に響く。


幼いときから優しいりっくん。

今は話したりすることも減ったけど、それでも幼なじみのわたしを大切にしてくれてるんだと、改めて実感した。


「今日は、しずくの家まで送るから」

「…えっ?でも、それじゃありっくんが遠回りになるよ?」

「そんなこといいんだよ。俺がしずくを送りたいんだ」


そう言うと、りっくんはわたしの手を握って引っ張っていった。



『悪いけど、こいつ、ずっと前から俺のだから』

『俺は、それでも相談してほしかった』

『しずくの話なら、どんなに忙しくたって時間作るから』

『しずくが、だれかのものになるかもって思ったら…。頭ぐちゃぐちゃで、どうにかなりそうだった』


あんな言葉、きっと彼女だったら惚れ直しちゃうよ。


でも、わたしとりっくんはただの幼なじみ。

だからりっくんは、ユウヤくんからわたしを助けるために、ああ言ってくれただけ…だよね?
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