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第十二話 幕間と先輩※
しおりを挟む昨晩ベッドの上に放ったスマホから、アラームが鳴り響いている。寝ぼけ眼のまま、ウェアに着替えて顔を洗った。冷蔵庫から水を取り出して喉を潤し、テレビを付ければ本日は快晴だとお天気キャスターが笑顔を浮かべている。
「よっし、行くか」
日課にしている早朝ランニング。休日の朝は結構早い時間から人が走っているので、案外楽しい。
顔見知りのサラリーマンや、最近始めたばかりという小太りのおじさんだったり。走っている人に挨拶を交わしては、それを抜き去って自分のペースで思い切り走り込む。俺にとってのストレス解消法といえば、やはり走ることだった。
昨晩は、よくなかった。あれから、寝よう寝ようとベッドの上で何度も寝返りを打った。しかし、眠気が襲ってくるどころかむしろ反対だった。伏せた瞼の裏では、俺の背中に腕を回して俺に好きかと問いただしてくる照れた真白先輩の顔。それが浮かんでは消えていくからだ。実際に照れていたかどうかは分からないので、それは完全なる俺の妄想だったのだが、どんな表情をしていたにせよ、それは絶対に俺以外の他の人には見せたい顔ではなかったはずだ。
じわり、と何故か下腹部が熱くなった。気付かないふりをしてもう一度寝返りを打つ。更に、もう一度。
「あー。くそ、抜いて寝よ」
仕方ない。と、スマホで今日のおかずを検索する。一瞬、SNSを開いて真白先輩のトーク画面のやり取りを見て、閉じる。
「いや、いやいや違う。そうじゃなくて、おかず……」
性意識が芽生えた頃から、俺のタイプは決まっていた。色白で、スレンダーでスタイルがいい。顔は、美人だけど強すぎない控えめな子がいい。そんな子が、俺だけに甘えてくれるのは正直、クる。
今日の動画は当たりだった。よくある初恋が、性愛に変わっていく瞬間を切り取った映画だ。電車で乗り合わたヒロインを痴漢から救う主人公。
モブ男に痴漢されて感じているヒロインにも熱は上がってくるが、一番はやはり初めて主人公と心を通わせてエッチをするところだ。映画なので、山あり谷ありたまに間延びをしてしまうところはスクロールバーで飛ばしたりもしたが、ラストは良かった。痴漢に泣いて怯えて、あんなにも控えめだったヒロインが、淫らに主人公を求めて迫ってくるのだ。
そして、最後───主人公によってとろとろにされた顔は堪らなかった。
『……ンあっ、気持ちい……っ』
『はっ……は。俺も、………!』
『アッアッ……!ん、あ…好き、私のこと……好き?』
どくり、と右手に握った熱が、更に脈を打った。
(───僕のこと、好きなんでしょ?)
「……あっ、今は……まず……っ」
溜まっていく熱を放ちたくて、上下する右手は止められない。だけど、今この瞬間にその顔を浮かべるのはまずいのは分かっていた。俺は食い入るようにスマホ画面に目を向けた。
色白で、可愛くて、主人公のことが大好きなエッチなヒロイン。まさに、その子が飛ぶ瞬間を目にする。
『……あっアン…イクッ…!』
「……………………っく」
画面の中の男優がイクが瞬間に合わせて俺も手の中に精を放った。倦怠感と共に、罪悪感が押し寄せてくる。
最後の最後、ヒロインが果てる瞬間に過ぎったのは、他でもない真白先輩の顔だった。
「あー………………はぁ、寝よ」
今日は思考がバカになっていたとしか思えない。きっと部活で思った以上に疲れていたんだろう。まして、校内一美形の真白先輩に冗談でも抱きつかれたのだ。愚かな男子学生なら一瞬の気の迷いなど、笑い話にも出来るはず。とりあえず、出すものは出してスッキリした数分後には、俺は眠りについていた。
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