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第五話 クラスメイトと先輩
しおりを挟む中須賀は、今度こそ俺との話を打ち切って問題集ごと自分の席に戻ってしまった。せっかく教えてもらおうと思ってた問題も手付かずのままだった。俺の自業自得ではあるけど。
ほっとため息を吐いて、もう一度机に頭を預ける。目を閉じれば、先輩の顔と言葉が蘇る。連絡先を交換するの、嫌だとは言ってなかった。後で教えてほしいと言えば、きっと先輩は教えてくれるだろう。
なんだかんだ中須賀のおかげで、先輩の連絡先を手に入れることが出来そうなので、あとで缶ジュースでも奢ってやろう。なんて、思っていると、俺の近くの席で女子がヒソヒソ話をしているのに気付いた。
耳をすませば、声の主は斜め前の席の女の子、保科茉莉だった。彼女は、生粋の真白先輩ファンだ。今も、先輩が教室に顔を出したことで、色めき立って友達と話しているんだろう。
「あのさ、保科」
何となく、会話に混じりたくなった。保科と仲のいい友達の、月島のぞみが俺に気付いて、パッと顔を赤らめて席を立とうとする。彼女が俺に気があるのは、結構前から気付いてる。けど、それについては気付かないふりをして保科に話しかけた。
「もしかして、真白先輩の話?」
「うん、そうだよ」
「あ、じゃあ私自分の席に戻るから」
「なんでよ、のぞみ。まだ話の途中でしょ」
「……でも、」
ちらりと、月島が俺の顔色を伺った。俺はにこりと笑って、その場に残るように促した。おずおずと、その場に座って、顔を赤らめている姿は純粋に可愛いと思う。
真白先輩に出会わなかったら、きっと月島みたいな子を彼女に選んでいたかもしれない。いや、そもそも陸上以外にはやっぱり興味なかったかもしれない。今となっては分からない。真白先輩が高校にいる間は、彼女を作ろうとも思わないだろうから。
「で、何の話してたの?」
「小嵐はいいよねー。先輩に構ってもらえるんだから。今更先輩について知らないこととかないでしょ」
「そんなことないよ。今だって先輩の連絡先知らないし」
「噂だと、校内でも黒野先輩の連絡先知ってる人って殆どいないらしいよ」
「あ、やっぱりそうなの?」
「やっぱりモテすぎると嫌になるのかな。連絡先聞かれるのって。小嵐だってしょっちゅう女の子から連絡先聞かれてるじゃん。嫌なわけ?」
保科が、それとなく月島に目配せしたのに気付いた。何となく、意図を察したので俺はそれを否定する。
「いや、全然。可愛い女の子から連絡先聞かれたら普通は嬉しいだろ。先輩はその……先輩の方が大抵の人間より綺麗だし」
「まあ……そうね。ってことはあんたは可愛い女の子から連絡先聞かれたら喜ぶのよね」
「うん、まあそうかも」
「じゃあ、可愛い私の連絡先教えてあげる。ついでにのぞみのも。嬉しい?」
「……あー、嬉しい嬉しい」
明らかに場に乗せられた感じはあるけど、保科も月島も嬉しそうだから別に良かった。鞄からスマホを取り出して、順番にIDを交換していると、保科が思い出したように呟いた。
「あ……そういえば最近、黒野先輩の様子がおかしいんだって?何かあったの?」
保科が、興味深げに俺の目を覗き込んでくる。何だそれ、先輩の様子がおかしいって。さっきの先輩も、ここ一週間ほど部活で会った先輩もいつも通りだったはず。
「何それ、なんのこと?」
「へえ、小嵐も知らないんだ」
「何をだよ」
「───最近、先輩人が変わったみたいになるんだって」
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