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第四話 自習時間と先輩
しおりを挟む夏休みが終わってから、もう一週間が経っていた。部活の強豪校である我が校は、勉学にも力を入れている。俺も中学までは陸上一筋でやっていたが、最近では将来を見越して少しずつ普段から勉強に身を入れるようにしていた。
何よりも、日頃の勉強態度が大事だ。私語厳禁。居眠りなんて以ての外。───と言っても今は自習時間なので、とりあえず中須賀と一緒に数学の問題集を解きながら、無駄話に花を咲かせていた。
「なあ、中須賀」
「なんだよ、黙って問題解けよ」
「俺と真白先輩ってもう友達だと思う?」
この前の玄関先での先輩とのやりとりは、中須賀も見ていた。側から見た俺達がどう見えるのか、実は最近ずっと気になっていることだった。
問題集を捲って俺よりも一個先の問題に取り掛かると、中須賀は本当にどうでもいいことのように、俺の喜ぶ答えを言った。
「………………知らねえよ。友達なんじゃねえの」
「だよな。明らかに他の先輩とか後輩よりも、俺との方が仲良いよな?」
「心底どうでもいい」
「聞けって。でもさ、驚くことに俺まだ先輩の連絡先知らないんだよ」
「普通に教えてくれって聞けばいいだろ」
「聞いてもはぐらかされるんだよ」
そこで初めて、中須賀は笑った。鼻で。
「じゃあお前には教えたくないってことだろ」
「なんで」
「実は好きじゃないから」
「つまり、中須賀くんは俺に連絡先教えてくれたってことは、俺のことが好きってこと?嬉しいきゅるん!」
「お前の連絡先消すわ」
「うそうそうそ、ごめんって!」
本気でスマホを操作し出す中須賀の手からスマホを奪い取った。そして、ぎゅっと握り締める。中須賀の言葉に、俺は少なからずショックを受けていた。
「……まじで、先輩俺のこと嫌いなのかな」
「嫌いとまでは言ってない。面倒くさいんじゃねえの。あの先輩かなりモテるし、誰か一人に連絡先教えて別の奴に勝手に流される可能性もあるから慎重になってるとか」
「あー…………なるほど。さすが中須賀くん。経験がお有りで」
中須賀は、実は結構モテる。ぶっきらぼうな態度も、顔がいいので女子からしたら特に問題はないらしい。
顔の綺麗な真白先輩みたいに男女両方からモテるタイプじゃないが、きっと過去に連絡先のあれこれでトラブルがあったのだろう。珍しく苦い顔を浮かべている。
「お前だって、勝手に連絡先流されたら嫌だろ」
「え、俺だったら友達になっちゃうかも。嫌なら返信しなきゃいいだけだし」
「先輩がお前に連絡先教えたくない理由が分かった」
「え、いやいやいや?俺は勝手に先輩の連絡先他の人に教えたりしないよ。するわけないじゃん」
「信用できねえ」
「ええ…………うそだろ」
俺は問題集の上に寝そべると、そのまま目を閉じた。こんな気持ちのまま、数学の問題なんて解ける訳がない。信用がないなんて、先輩から思われてたらショックだ。
今日こそ先輩の連絡先を聞きたい。本当は、夏休み中に先輩を遊びに誘いたかったんだ。先輩の顔を見て、一緒に笑って、部活以外でも同じ時間を過ごしたかった。
早く先輩のいるグラウンドに行きたい。誤解だと言ってほしい。連絡先を聞くタイミングが悪かっただけなんだって言ってほしい。
「………………はぁ~真白先輩」
「なに?」
幻聴が聞こえる。柔らかい、ずっと聞きたくなるような声だ。その声を掻き消すように、近くから女子がきゃあと声をあげた。自習監督中の先生がいないせいで、さっきまで静かだった教室が、一気に騒がしくなった。
「おい、小嵐」
「うるさいな。不貞腐れてるから放っておいて」
「おい」
問題集を解いていた中須賀に、頭をペンで叩かれている。なんなんだよ、と眉間に皺を寄せて目を開けた。
中須賀は、ペンで横を差し示した。───窓の向こうに、真白先輩がいた。
「まっ……真白先輩!?」
「こんにちは。今、グラウンドでサッカーしてたところだったんだ。休憩してたら、司の教室が見えたから覗いてみたんだけど、もしかして今は自習?」
「はい、数学の担当の益子先生が体調不良で休みになって。一応、自習中です」
「ふふ、一応?ダメだよ。勉強しないと」
「やってますよー」
先輩は、そういうと隣で我関せずと問題集を進めている中須賀に顔を向けた。
「ね、中須賀。司ってちゃんと勉強していた?」
「いや、全く進んでないっすね。無駄口ばっかりで」
「ふうん。なんの?」
ちら、と中須賀は俺を見た。おい、言うなよ。と止める前に、中須賀は先輩を見て口端をクッと歪めた。
「いつも通り、黒野先輩の話すね」
「そうなの?」
「お、おい!中須賀」
「こいつが、先輩の連絡先教えてもらえなくて拗ねててうるさいんです。面倒なんで教えてやってもらえません?」
「おいバカ、なんで言うんだよ!」
中須賀はしてやったり、と珍しくニヒルに笑っている。最悪だ。これでもし先輩に断られたら、一生中須賀のことを呪ってやりたい。
先輩は、珍しく口元に手を持っていって、どうやら少し悩んでいるみたいだった。薄い唇を先輩の細い指がなぞる。気付かないうちに、俺の視線は先輩の唇に釘付けだった。
「あ、あの……先輩無理にって訳じゃなくて。気が向いたら教えてほしいなーって。誰にも絶対に教えたりしないですし」
「いや、教えるのは全然構わないよ。……ただ、」
「ただ、なんです?」
「君に連絡先を教えたら、携帯が手放せなくなっちゃうかもしれないから」
「え、あのっ!それってどういう……?」
「あ、集合かかったみたいだ。ごめん、司。また後でね」
ちゃんと勉強もするように、と言い残して先輩はクラスの輪に入っていった。体操服姿で颯爽と駆けていく先輩の後ろ姿は、いつもグラウンドで見る先輩とは違う一面を見たようで得をした気分だった。
「中須賀、俺に連絡先教えたら携帯手放せなくなるってどういう意味だと思う?」
「お前がしつこく連絡送ってきそうだから返信が大変そうって意味だと思う」
「よし分かった。今まで用事以外でお前に連絡したことなかったけど、家帰ったら数分毎に連絡入れるわ」
「通知切っとくから別にいいけど」
「…………着拒じゃない辺り優しい。そういうとこ好き」
「殺すぞ」
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