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第十四話:花鳥風月
しおりを挟む「寒っ!」
三十一界に足を踏み入れた瞬間、サクラは思わず声を上げた。
辺りは一面の氷と霜に覆われ、息が白く凍る。
「寒いよぉ...寒いよぉ...」
カエデの耳がペタンと閉じる。
「ふむ。ここからは環境も厳しくなる。妖怪たちも...」
ツバキが『良い子の迷宮百科事典』を開く。
その時、氷壁の向こうから戦いの音が聞こえてきた。
巨大な氷の妖怪と向き合う四人の少女たち。
「花園様!右からまいります!」
「鷹宮、援護を!」
「風林、陽動を!」
「月城が守ります!」
流麗な剣術と正確な弓撃、素早い身のこなしと堅固な守りが噛み合い、氷獣は瞬く間に倒される。
「へぇ...」
サクラが目を細める。
「あら?」
扇子を持つ少女が口元を隠しながら言う。
「まさか...一界で『風雲!落とし穴の怪事件』を起こした噂の方々...ですわね?」
「「っ!」」
サクラとカエデの表情が強張る。
「事件のネーミングセンス!?」
ツバキが違うとこで反応した。
「ふふ...社まで呼び出されたりの社会問題になったと聞きましたわ」
少女が続ける。
「私、花園詩織と申します。噂の『百花繚乱』の皆様...ここまでよく来られましたね」
「あーはいはい。」
サクラが遮る。
「私たち『花鳥風月』は貴方達とは違い正々堂々と戦いますの。」
花園詩織の後ろで、鷹宮澪が弓を構える。
「へぇ...」
サクラがニヤリと笑う。
「まさか、貴方達も私たちと同じく五十界を目指してるなんて言わないでしょうね?」
「ええ、その通りよ」
詩織が扇子を広げる。
「深層に眠る伝説の武器...それを求めて」
「「「んえ?」」」
百花繚乱の三人が息を呑む。
「へぇ...『うな重』って言うんだ。その伝説の武器。美味し...面白そうじゃない?」
サクラの目が輝く。
「「あ、売る気だこの人。」」
カエデとツバキが察した。
「確かに私たちにとって、うな重なんて伝説...ねぇねぇツバキ!」
「うん?」
「そんな伝説の武器を売ったら、いくらぐらい...?」
カエデの尻尾が期待に合わせて揺れる。
「ふむ...」
ツバキが本を確認する。
「図鑑にも掲載されてないな...でも伝説級の武器となると、とんでもないのでは?」
「ちょっと!私たちは崇高な目的のために...」
詩織が扇子を強く閉じる。
「うわぁ...海老の天麩羅何本食べれるのよ...?さらに伝説とまで言われたうな重まで!?」
サクラが頬を染める。
「お寿司も食べ放題できるかも!」
カエデが跳ねる。
「和牛のすき焼きも望めるのか...」
ツバキまでもが左目を輝かせる。
「あなたたち!」
詩織の声が氷の洞窟に響く。
その横で鷹宮澪が呆れたため息をつく。
「聞きなさい!その武器は単なる換金アイテムではなく...」
「ねぇねぇ源じいに持ってったら...」
「高値で買い取ってくれるかなぁ」
「我が魔眼が試算するに...」
バシッ!!!
詩織の扇子が氷の床を叩く音が響いた。
「もう許しませんわ!伝説の武器をそんな下世話な...!」
詩織の瞳が氷のように冷たく輝く。
「へぇ?やる気?」
サクラが鬼化する。
赤い肌が氷の洞窟で妖しく輝く。
「私たちが下世話?そうね...私たちは下世話よ?子供の頃から三人で這い回って生きてきたの。だけどさ?だからさ?クスクスクス...下世話だからこそ輝くのよ。」
サクラは上を見上げてから勢いよく花鳥風月を睨んだ。
「サクラ......?」
カエデの尻尾が不安げに揺れる。
「サクラ...カッコいい雰囲気だけでマウント取ろうとするのやめろ...」
ツバキがため息をつく。
「はッ!?あ!危ない!まったく意味が分からないのに妙な説得力がありましたわ!?」
「確かに意味不明なのに...なんかカッコよかったな...」
「あぁ...」
「恐ろしいヤツ...」
花鳥風月がザワつく。
サクラが続ける。
「この世界は結果が全てでしょ?私たちには借金があるの。夢もある。彼氏...いえ!カレピッピを作って!ち!ちちちちちち、チューしてみたい!きゃー恥じゅかちぃ!」
「「もうお前は喋んな?うちのバカがなんかサーセン!」」
カエデとツバキが花鳥風月の皆様に頭を下げる。
「サクラさん...この方...実はヤベーヤツなんじゃ...」
「なんかキメてるのかな...」
「ダメだ、この人を好きになってきた...」
「百花繚乱...楽しそう...」
花鳥風月が再びザワつく。
「こ!こんな連中には...伝説の武器を渡せませんわ!」
花園詩織が剣を構える。
「ふふ。良いのかしら?...あ...ほらぁ。後ろから妖怪が...」
サクラが花鳥風月の皆様の後ろに視線を移す。
「「「「なッ!?」」」」
花鳥風月の皆様が後ろを向く。
「...いないわよ?クスクスクス...」
そう言うとサクラが詩織の背後を取った。
「カエデ、ツバキ。」
サクラが二人に目配せをする。
「うん!」「あぁ!」
カエデとツバキが他の花鳥風月の三人を牽制する。
「「「詩織!...くっ...」」」
二人に牽制され動けずに悔しがる花鳥風月の皆様。
「はい。詩織さん...でしたっけ?...これであなたは一回死んだの。ふふふ。そう。下・世・話な?私の手によって。」
サクラが詩織の後頭部から腕を回して頬を撫でる。
片手では詩織の腰に手を回し、剣を抑え込んでいる。
そして耳に息を吹きかけながら囁く。
「あ...あぁ...」
詩織は震えている。
「「.........。」」 ((サクラ...味方で良かった...))
カエデとツバキは心の底から思った。
「さてと。『花鳥風月』の皆様?私たち『特上鰻重』の勝ちって事で良いかしら?」
サクラは詩織を解放しながら言った。
「また一座名が食べ物に...」
「もうなんでも良いな。」
カエデとツバキはサクラを諦めた。
「うッうッ...うッ...怖かった...怖かったよぉ...」
詩織は泣き崩れている。
絶対にアイツらに伝説の武器を渡してはならないと、花鳥風月は決意した。
こうして深淵の迷宮に、二つの一座の戦いの火蓋が切って落とされた。
(つづく)
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