深淵に咲く花の名は

さくらんぼん🍒

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第十一話:勿忘草

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深淵の迷宮、三十界主の牛鬼と『百花繚乱』の戦いは続いていた。
洞窟の薄暗がりの中、牛鬼の叫び声と三人の必死な声が叢雲の志士たちがいる高台まで響く。

「んもぉおおおおお!」
「牛さんこっちだよー!」
カエデは牛鬼を引きつけ逃げ回る。
そして同時に良い形の石を選び、拾い、投げる。
石は直進、時には大きな弧を描き、牛鬼を完全に翻弄する。
ストレートとカーブだ。

「だから野球やれよ。」
サクラは移動しながら呟いた。

カエデの作った隙を突いて、サクラが牛鬼の背後に回り込む。

「なるほど」
蔵人が腕を組み、その瞳に興味の色が浮かぶ。
「石を使って相手の動きを制限し、死角から攻撃するのか。戦術的だな。」

「だっしゃー!」
サクラの天狗落とし(ドロップキック)が閃光のように放たれ、牛鬼の後頭部に完璧なクリーンヒットした。

ドガッ!!!!!

「もぉおおお!」
ズドン!!!!!
牛鬼の巨体が宙を舞い、空気を切り裂き、広場の壁に激突した。

彩芽が目を見張る。
「ほう。あれは闘魂相撲(プロレス)の技か?」

暁の口元に感心したような笑みが浮かぶ。
「はは!あんな荒技を実戦で使うとはな。おもしれーヤツじゃねーか!」

遠目から観戦している暁の声が聞こえたかのようにサクラはガッツポーズと共に、歓喜の声をあげる。
「ッしゃー!んなろー!」
その声は洞窟中にこだまする。

巴が眉をひそめ、その姿を見つめる。
「卑怯な...戦い方ね」

蔵人の静かな声が叢雲の志士たちの耳に届く。
「いや、あれは知恵だ。己の力の限界を知り、それを補うための策を練り、実践しているんだ。」

「んもぉおおおおお!」
牛鬼が轟音と共に立ち上がると、大地を揺るがしながらサクラに向かって突進する。

しかしサクラは避けようとしない。
「ふふ。」
むしろ、その表情には不適な笑みが浮かび、瞳が輝いている。

「きゃあ!サクラ怖いー♪」
サクラはそう呟くと同時に白い袋を牛鬼にぶつけた。
袋からは赤い粉が宙を舞い、牛鬼の目を焼いた。
──サクラの十八番、目潰しである。

「も!もぉおおおおお!もぉおおおおお!」
牛鬼の悲鳴が響き渡る中、サクラの狂気じみた笑い声が洞窟に木霊する。
「ゲラゲラゲラゲラゲラ!どうしたぁ?足が止まっているぞぉ?早くこっちに来てくれよぉ?」

「「や!やりやがった!」」
カエデとツバキの声には呆れと感心が入り混じっている。

叢雲の志士のメンバーたちも一瞬、目を疑った。
理解するのに時間がかかる光景が広がっていた。

「...め、目潰し?まさか...常備してるの...?」
彩芽の声が震える。その口元が引き攣る。

「な...なんだ、あの子は...あれ?どっちが敵なんだ」
暁が思わず一歩後ずさる。

「あ、あの子...サイコパスじゃ...?」
巴の声には純粋な心配が滲む。

「...知......恵...?」
蔵人も言葉を失う。

サクラはもがき苦しむ牛鬼の背後に回り込み腰に手を回した。
「さぁて、キメるわよ!」

牛鬼の巨体が宙を舞う。
「闘魂相撲!投げっぱなし鬼落としぃ! (投げっぱなしジャーマン) 」

ドガッ!!!!!
「ぐもぉッ!」
衝撃波が走る。牛鬼は音速で壁に激突し、岩盤にまで食い込んだ。

「サクラ任せろ!ここからは我が番だ!」
ツバキが一歩前に出る。
彼女の両目が不気味な光を放つ。

「我が闇の魔眼より放たれし禁忌の力よ!幾星霜の時を超え、今こそ覚醒の時!漆黒の深淵より立ち昇る混沌の炎をその身に宿しせ。」
ツバキの声が洞窟に響き渡ると同時に彼女の周りに紫色の霧のような物が立ち込めていく。

「「だからなげーよ!詠唱無しでビーム出せるだろ!」」
サクラとカエデがツッコミを入れる。

「万象を焼き尽くせ!闇炎覇・魔眼神滅砲!」
ツバキの両目から青と赤のビームが放たれる!

シュバッ!!!!!

青と赤のビームが交差し、螺旋を描きながら牛鬼を貫く。
そのビームは次第に強さを増していく。
閃光は叢雲の志士達の立つ高台まで届き、一瞬、洞窟全体が昼のように明るくなった。

「うしおにぃっ!?ぎゅうきぃ!?」
牛鬼の断末魔が響き渡る。

「「「自分でもなんて読むか知らないっぽい!」」」
三人の少女たちからの容赦ないツッコミが、高台にまで届く。

その光景を見ていた叢雲の志士のメンバーたちは、言葉を失っていた。

「お、おい...今のはなんだ...?」
暁が息を呑む。

「両目から...ビームが...出た?」
彩芽の声が震える。

「あの子、ビームが出てる間...前、見えてるのかしら...?」
巴が心配そうに囁く。

「...いったい何が起きているんだ...?」
蔵人も驚きを隠せなかった。

「「「やったー!倒したー!」」」
「「「わーい!また階梯上がったー!」」」
三人の喜ぶ声が聞こえる。

「...そ、それにしても!数日前に河童に負けそうだった三人が…こんなに成長するなんて...」
彩芽は驚きを隠せなかった。

「いやいや、いくらなんでも急成長しすぎだろ...」
暁は遠くの三人を見つめながら言った。

「...異常だと思う。色々な意味で...」
巴が呆然としている。

「ああ。かなり面白い三人だな」
蔵人はゆっくりと立ち上がる。

「さて、じゃあ声をかけるとするか」​​​​​​​​​​​​​​​​
蔵人は崖から飛び降りた。
叢雲の志士の三人も蔵人に続いた。

...

ざっざっざっ!

叢雲の志士達の岩を踏む足音が、戦いの余韻が残る広場に響く。

カエデがいち早く気配を察知した。
「サクラ!ツバキ!誰か来るよ!気をつけて!」

「「 !! 」」
サクラは懐の目潰しに手をかけ、ツバキは左目を手で押さえる。

「やぁ!」
蔵人たち『叢雲の志士』が三人に近づいてきた。

「っ!...蔵人様...」
サクラの体が一瞬強張る。
胸が締め付けられるような感覚と共に、顔が熱くなるのを感じた。
(また...この感覚...!こいつを見るたびに胸が苦しくなる...許せない!)

「また蔵人様って言ってるwww」
カエデが嬉しそうにツバキを見るとツバキもサクラを見てニヤニヤしていた。

「な、なんですか!今日は助けてもらう必要なんてないけど!」
サクラは敵意を剥き出しにする。その声は少し裏返っていた。

「叢雲の皆さんはどうしてこんなところに?お散歩ですか?」
カエデがキョトンとしている。

「...。」
ツバキは冷戦に状況を見守る。

「とても卑きょ...ど、独特な戦い方だったね」
蔵人の穏やかな微笑みに、サクラの顔がさらに赤くなる。

「う、うるさい!私たちの戦い方がなんだっていうの!?蔵人様!」
サクラは噛みつくように言い返す。

その言葉を聞いた途端、カエデの顔が真っ赤になる。
「ま、まさか今の戦い全部見てたんですか!?」

「我が魔眼の...あ、いえ...その...」
ツバキも言葉に詰まり、左目を手で隠すような仕草をする。

そんな三人のやりとりを見守りながら、彩芽が一歩前に出た。
「求道者の杜から君たちの捜索依頼が出ているんだ。あなた達が迷宮から数日戻って来ないとね。」

「...ん?捜索...依頼?」
サクラの表情が曇る。

「そうだ。まさか三十界まで来ているとは思わなかったがな」
暁が槍を肩に担ぎながら言う。

巴が心配そうに三人を見つめる。
「あのさ...三十界主を倒せるくらいなら地上に戻れたよね?」

サクラの声が洞窟に響く。
「そうね。私たちはこのまま修行しながら下の界を目指す予定だったのよ。」

蔵人は静かに
「それはやめた方がいい。まだ求道者になったばかりの君たちには、さすがに危険すぎる。一度、地上に戻ろう」

「う、うるさい!あんたなんかに心配されなくても平気よ!」
サクラの怒鳴り声が洞窟に響き渡る。

「サクラ...」
カエデが心配そうにサクラの袖を掴む。

「我らには進むべき道が...」
ツバキも珍しく厨二病抜きの真摯な声で言う。

洞窟に沈黙が降りる。

それを破ったのは、蔵人の静かな声だった。
「あ、ちなみに君たちが借金を踏み倒して逃げたという疑いも出ているよ。」

「「「...ん?」」」
三人は顔を見合わせた。

「「「...あッ!!」」」
三人は借金を思い出した。

「そ!そそそそそ!そうだった!」
「た!たたたたた!確か求道者の杜で返済の手続きしないとだったよね?」
「す!すすすすす!すぐに戻らないと!」
ダバダバと慌てる三人。

そしてサクラが走り出した。
「急いで帰るわよ!二人とも!」

「待ってよサクラ!」
「二人とも待て待て!」
二人も慌てて追いかけた。

残された叢雲の志士たちはポカンとしていた。

「あ...」彩芽が手を伸ばしかける。
「おいおい...」暁が担いでいた槍を地面に刺す。
「...。」巴は黙って見つめる。
「…あれ?迎えに来たんだけどな...」蔵人が苦笑いをする。

百花繚乱の喧騒が迷宮に響き渡っていた。

(つづく)​​​​​​​​​​​​​​​​
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