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第十話:大樹の眼差し
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薄暗い洞窟の奥から、重々しい呼吸音が響いていた。
『百花繚乱』の三人は岩陰に身を潜め、広場を覗き込んでいる。
──広場には界主の巨大な影が佇んでいた。
「間違いない。牛鬼だ。」
ツバキは手に持った『良い子の迷宮大百科』を静かに閉じる。
その瞬間、カエデの耳がピクリと動いた。
「つ、強そうだね...」
サクラは相変わらず強気だ。
「ふふーん。牛鬼ね。」
緊張した空気が漂う中、サクラはニヤリと笑みを浮かべた。
そしてカエデの両肩に手をバン!と置いた。
「よし。カエデ!作戦はこうよ。まずはカエデが一人で牛鬼と対峙して石を投げる。突進してきたところをカウンターパンチ一閃で倒す。おーけー?」
そう言いながら、サクラはカエデに向かってウインクを送った。
「の、のののーだよぉ!」
カエデは牛鬼に見つからないように声を殺して全力で否定した。
サクラは首を傾げ、まるで子供に教えるように丁寧に説明し直す。
「あぁ...今の説明じゃ理解できなかったか。ごめんねカエデ。」
「ううん。私こそごめんねサクラ。」
「私の言い方が悪かったわね。まずはカエデが一人で牛鬼と対峙して石を投げる。ここまでは良いよね?」
「うん。」
「そしたら牛鬼がカエデ目掛けて突進してくるってわけ。ここも良いよね?」
「う...ん...。」
「で、突進してきたところをカエデの反射神経でカウンターパンチを放つわけ。わかるよね?牛鬼は自分の全体重とカエデの体重を乗せたダメージを負うわけ。」
「う、うん?」
「もちろん、私とツバキの想いもカエデの拳には宿ってるわけ。だからカエデには私たちを信じて拳を振り抜いて欲しいわけ。迷いのある拳では牛は倒せないわけ。」
「う、ううん!ううん!」
カエデが必死に首を横に振る。
「おーけー?」
説明を終えたサクラは、再びウインクをしてニヤリと笑った。
「の、のののーだよぉぉぉ!」
カエデの耳と尻尾が下がり、目から涙が溢れそうになる。
「からかうなっての!」
パシッ!という音と共に、ツバキの手刀がサクラの頭を直撃した。
「あてっ!」
サクラは頭を撫でながらも、作戦会議を続ける。
洞窟の壁に映る三人の影が揺らめく。
「冗談は置いといて作戦はこうよ。まずはカエデが一人で牛鬼と対峙して石を投げて逃げ回る。カエデの反射神経なら余裕だと思う。その隙に私とツバキは牛鬼の背後に回り込む。そこで私は牛鬼の後頭部に強力な一撃を入れて動けなくする。良い子はマジで真似しちゃダメなやつよ。最後にツバキが動かなくなった牛鬼にビームを放つ。何故ならツバキはビームを出してる時は前が見えないから動いてない敵にしか狙いを...」
サクラの説明は途中で笑いに変わる。
「ぶはッ!ちょ!ちょっとツバキこんな時に笑わせないでwww前がwww見えないwwwからwww」
「ちょっとサクラ!やめwwwぶはッwww」
カエデも笑いを堪えきれない。
「焚(ふん)...ッ (怒) 」
その時、青白い光が洞窟を走った。
「「ギ!ギャーーース!!」」
ケタケタ笑っている二人に向けて放たれたツバキのビームが二人を襲った。
...
作戦の準備が整い、三人は再び岩陰から広場を覗き込んだ。
中央には巨大な牛鬼が佇んでいる。
筋骨隆々とした体格に、角の生えた獰猛な顔つき。
まさに三十界の主に相応しい威圧感を放っていた。
「「「...ごくり。」」」
三人は目を合わせる頷いた。
「よし、作戦通りに行くわよ。」
岩陰から牛鬼を観察するサクラの瞳に、決意の色が宿る。
「みんな、準備はいい?」
小声で確認を取るサクラに、カエデが震える声で応じた。
「う、うん...私、ちゃんと囮になれるかな...」
ツバキも静かに頷く。
薄暗い洞窟に、三人の呼吸だけが響いている。
「大丈夫だ。カエデのズバ抜けた反射神経なら牛鬼の攻撃は避けられるはずだ」
カエデは深呼吸をすると頷いた。
サクラはカエデの覚悟の確認を終えると、合図を送った。
「じゃあ、行くわよ!」
カエデはゆっくりと立ち上がり、震える足で牛鬼の前へと歩み出た。
「ね、ねえ!こっちだよー!」
巨大な体を揺らしながら、牛鬼がゆっくりと振り向く。
「んも?...ほほう?求道者か?」
低く響く声に、カエデの尻尾が一瞬ピンと立つ。
「ひぃ!」
手の中の石を強く握りしめ、カエデは投げた。
「...え、えいッ!」 ガツン!!!
石は牛鬼の真横からまるで生きているかのように軌道を変え、牛鬼の角に命中する。
「んもッ!」
怒りの声が広場に響き渡る。
「ひッ!」
カエデは咄嗟に逃げの体勢をとった。
…
カエデが決死の鬼ごっこを開始した頃、三十界の広場を見下ろす高所に、数人の人影が浮かび上がった。
── その影はサクラの目標とする『叢雲の志士』だった。
その中の銀灰色の髪をした男性──蔵人 (くらうど) が目を細めた。
「あれは...おお!居た居た!やっと見つけた!」
隣には侍の装いをした彩芽が立っている。
「蔵人。あれ、あの時の三人だよね。彼女らが噂の『百花繚乱』だったのね」
「あぁ、つい先日河童から助けた子達だな。」
蔵人は顎に手を当て、三人の動きを注視している。
槍を抱えた暁が驚きの声を上げる。
「おいおい。全然居ないと思ったらまさかこんなところまで来てたのかよ!」
「大変!牛鬼に追われてるじゃない!すぐに助けに!」
巴が札を両手に用意して駆け出そうとするが、蔵人の静かな声が彼女を止めた。
「いや...巴、ちょっと待て。どうやら彼女らなりに勝算がありそうだ。」
蔵人は三人の動きを観察し続けている。
カエデが牛鬼に追いかけられているが、サクラとツバキが左右からコソコソと動いていた。
(つづく)
『百花繚乱』の三人は岩陰に身を潜め、広場を覗き込んでいる。
──広場には界主の巨大な影が佇んでいた。
「間違いない。牛鬼だ。」
ツバキは手に持った『良い子の迷宮大百科』を静かに閉じる。
その瞬間、カエデの耳がピクリと動いた。
「つ、強そうだね...」
サクラは相変わらず強気だ。
「ふふーん。牛鬼ね。」
緊張した空気が漂う中、サクラはニヤリと笑みを浮かべた。
そしてカエデの両肩に手をバン!と置いた。
「よし。カエデ!作戦はこうよ。まずはカエデが一人で牛鬼と対峙して石を投げる。突進してきたところをカウンターパンチ一閃で倒す。おーけー?」
そう言いながら、サクラはカエデに向かってウインクを送った。
「の、のののーだよぉ!」
カエデは牛鬼に見つからないように声を殺して全力で否定した。
サクラは首を傾げ、まるで子供に教えるように丁寧に説明し直す。
「あぁ...今の説明じゃ理解できなかったか。ごめんねカエデ。」
「ううん。私こそごめんねサクラ。」
「私の言い方が悪かったわね。まずはカエデが一人で牛鬼と対峙して石を投げる。ここまでは良いよね?」
「うん。」
「そしたら牛鬼がカエデ目掛けて突進してくるってわけ。ここも良いよね?」
「う...ん...。」
「で、突進してきたところをカエデの反射神経でカウンターパンチを放つわけ。わかるよね?牛鬼は自分の全体重とカエデの体重を乗せたダメージを負うわけ。」
「う、うん?」
「もちろん、私とツバキの想いもカエデの拳には宿ってるわけ。だからカエデには私たちを信じて拳を振り抜いて欲しいわけ。迷いのある拳では牛は倒せないわけ。」
「う、ううん!ううん!」
カエデが必死に首を横に振る。
「おーけー?」
説明を終えたサクラは、再びウインクをしてニヤリと笑った。
「の、のののーだよぉぉぉ!」
カエデの耳と尻尾が下がり、目から涙が溢れそうになる。
「からかうなっての!」
パシッ!という音と共に、ツバキの手刀がサクラの頭を直撃した。
「あてっ!」
サクラは頭を撫でながらも、作戦会議を続ける。
洞窟の壁に映る三人の影が揺らめく。
「冗談は置いといて作戦はこうよ。まずはカエデが一人で牛鬼と対峙して石を投げて逃げ回る。カエデの反射神経なら余裕だと思う。その隙に私とツバキは牛鬼の背後に回り込む。そこで私は牛鬼の後頭部に強力な一撃を入れて動けなくする。良い子はマジで真似しちゃダメなやつよ。最後にツバキが動かなくなった牛鬼にビームを放つ。何故ならツバキはビームを出してる時は前が見えないから動いてない敵にしか狙いを...」
サクラの説明は途中で笑いに変わる。
「ぶはッ!ちょ!ちょっとツバキこんな時に笑わせないでwww前がwww見えないwwwからwww」
「ちょっとサクラ!やめwwwぶはッwww」
カエデも笑いを堪えきれない。
「焚(ふん)...ッ (怒) 」
その時、青白い光が洞窟を走った。
「「ギ!ギャーーース!!」」
ケタケタ笑っている二人に向けて放たれたツバキのビームが二人を襲った。
...
作戦の準備が整い、三人は再び岩陰から広場を覗き込んだ。
中央には巨大な牛鬼が佇んでいる。
筋骨隆々とした体格に、角の生えた獰猛な顔つき。
まさに三十界の主に相応しい威圧感を放っていた。
「「「...ごくり。」」」
三人は目を合わせる頷いた。
「よし、作戦通りに行くわよ。」
岩陰から牛鬼を観察するサクラの瞳に、決意の色が宿る。
「みんな、準備はいい?」
小声で確認を取るサクラに、カエデが震える声で応じた。
「う、うん...私、ちゃんと囮になれるかな...」
ツバキも静かに頷く。
薄暗い洞窟に、三人の呼吸だけが響いている。
「大丈夫だ。カエデのズバ抜けた反射神経なら牛鬼の攻撃は避けられるはずだ」
カエデは深呼吸をすると頷いた。
サクラはカエデの覚悟の確認を終えると、合図を送った。
「じゃあ、行くわよ!」
カエデはゆっくりと立ち上がり、震える足で牛鬼の前へと歩み出た。
「ね、ねえ!こっちだよー!」
巨大な体を揺らしながら、牛鬼がゆっくりと振り向く。
「んも?...ほほう?求道者か?」
低く響く声に、カエデの尻尾が一瞬ピンと立つ。
「ひぃ!」
手の中の石を強く握りしめ、カエデは投げた。
「...え、えいッ!」 ガツン!!!
石は牛鬼の真横からまるで生きているかのように軌道を変え、牛鬼の角に命中する。
「んもッ!」
怒りの声が広場に響き渡る。
「ひッ!」
カエデは咄嗟に逃げの体勢をとった。
…
カエデが決死の鬼ごっこを開始した頃、三十界の広場を見下ろす高所に、数人の人影が浮かび上がった。
── その影はサクラの目標とする『叢雲の志士』だった。
その中の銀灰色の髪をした男性──蔵人 (くらうど) が目を細めた。
「あれは...おお!居た居た!やっと見つけた!」
隣には侍の装いをした彩芽が立っている。
「蔵人。あれ、あの時の三人だよね。彼女らが噂の『百花繚乱』だったのね」
「あぁ、つい先日河童から助けた子達だな。」
蔵人は顎に手を当て、三人の動きを注視している。
槍を抱えた暁が驚きの声を上げる。
「おいおい。全然居ないと思ったらまさかこんなところまで来てたのかよ!」
「大変!牛鬼に追われてるじゃない!すぐに助けに!」
巴が札を両手に用意して駆け出そうとするが、蔵人の静かな声が彼女を止めた。
「いや...巴、ちょっと待て。どうやら彼女らなりに勝算がありそうだ。」
蔵人は三人の動きを観察し続けている。
カエデが牛鬼に追いかけられているが、サクラとツバキが左右からコソコソと動いていた。
(つづく)
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