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第九話:その花は何を映すか
しおりを挟む川で獲った魚を焼いていると、サクラが突然、真剣な表情になった。
「ねえ?ちょっと聞いて二人とも。こんな力を手に入れたんだから、このまま上の界に戻るのはもったいなくない?」
ツバキが眉をひそめる。
「どういうことだ?」
サクラは熱心に説明を始める。
「私たち、もっと下の界に行ってみない?新しい力を試せるし、もっと強くなれるかもしれない。というか強くなれる。」
カエデは少し不安そうな表情を浮かべる。
「でも...下の界って、もっと危険じゃない?ここでさえあんなに強い百々目鬼がいたんだよ?」
ツバキも慎重な様子で言う。
「確かに危険は増すだろうな。『良い子の迷宮百科事典』によると、下の界にはさらに強力な妖怪が存在するらしい。例えば...」
ツバキは本をパラパラとめくる。
「四十界には『骨食いの大蛇』、五十界には『影喰らいの化け猫』...そして六十界には『血の池の鬼女』といった恐ろしい妖怪が潜んでいるそうだ。どこの界かも分からぬが、竜が居るという噂もあると書いてあるな。」
カエデの顔が青ざめる。
「竜!?う、うわぁ...怖い...」
サクラは腕を組んで考え込む。
「確かに危険は大きいわね。でもさ?考えてみて。このまま地上に戻っても借金返済の為にちまちまと上の界で戦うだけだよ?」
その時、カエデの耳がピクリと動いた。
彼女の表情が一瞬で緊張に満ちる。
「あっ!二人とも気をつけて!何か来る!」
三人が振り返ると、百々目鬼が接近してくるのが見えた。
全身に無数の目玉がついており、それぞれが三人を不気味に見つめている。
サクラは百々目鬼をチラッと見ると、冷静に状況を判断する。
「ふん。良い相手が現れたわね。私たちの新しい力、試してみるかなぁ!?」
サクラは瞬時に鬼化する。
赤い肌と角が現れ、体から力が溢れ出す。
そして百々目鬼に向かって跳躍し、強烈なドロップキックを放つ。
「喰らえ!天狗落とし!」
ドガッ!!!!!
「どっっっっっ!?」
百々目鬼が吹っ飛び岩に叩きつけられる。
カエデも動き出す。
「私の番!サクラ、ツバキ、カバーして!」
カエデは周囲の石を拾うと高速で投げ始める。
石は不自然な軌道を描きながら、百々目鬼の全身の目玉を次々と直撃する。
「えいっ!やーっ!それっ!」
「どっ、どっ、どっ!?」
百々目鬼は次々と飛んでくる石にダメージを受ける。
ツバキも両目を見開き、魔眼の力を解放する。
「我が番だ!二人とも、下がれ!」
ツバキは両目を大きく見開き、左手で左目を覆いながら、右手を前方に突き出す。
「我が左目に宿りし漆黒の闇よ、右目に宿りし紅蓮の炎よ...」
彼女の周りに紫色のオーラが立ち込め始める。
「今こそ覚醒の時!二つの力、交わりて一つとなれ!」
ツバキは両手を大きく広げ、天を仰ぐような姿勢をとる。
「魔眼奥義...」
彼女の両目から強烈な光が放たれ始める。
左目からは青白い光線、右目からは赤い光線が絡み合いながら、渦を巻くように前方へ進む。
「煉獄双魔破 (れんごくそうまは)!!!」
「「 うるせー!もっと早く撃てるだろ! 」」
ツバキの叫びと二人のツッコミと共に、ビームは百々目鬼に直撃する。
「どどーーーーー!」
轟音と共に、百々目鬼の周りに煙が立ち込める。
ツバキは息を切らしながらも、満足げに微笑む。
「ふふ...これぞ、我が真の力...」
三人の連携攻撃により、百々目鬼はあっけなく倒れてしまった。
「どっどどー!」
百々目鬼が断末魔をあげた。
「「「 ..........。 」」」
三人は呆然と立ち尽くす。
戦いが終わったことを実感できないほどの圧倒的な勝利だった。
サクラが驚いた様子で言う。
「あれ?こんな簡単に?」
カエデも目を丸くして言う。
「うわぁ...私たち、こんなに強くなってたの?信じられない...」
ツバキは冷静に分析しようとするが、声には興奮が滲む。
「驚くべきことだ。これほど容易く倒せるとは...我々の力の成長は想像以上だ」
サクラが興奮気味に言う。
「ねえ、これって神籤の進化もそうだけど、私たちの階梯もかなり上がってるってことだよね!?」
カエデとツバキが頷く。
「うんうん!」
「そうだな。我々の力が大きく向上したようだ」
サクラは自分の手を見つめながら言う。
「この新しい力...私の場合は、鬼化っていうのかな。力を込めると...」
サクラは再び力を込める。
すると、彼女の肌が赤みを帯び、頭の角も赤くなる。
同時に、彼女の周りに薄い赤い霧のようなものが立ち込める。
「...こうなるの。この状態だと、普段の何倍もの力が出せるわ。でも、維持するのは結構疲れるんだよね」
サクラは力を抜き、元の姿に戻る。
「子供の頃はあんなに嫌だった鬼の血がさ...ふふ。まさかこんなところで役にたつなんてね。」
「でもさ!その血のおかげで私たちは家族になれたんだしw」
「はは。カエデの言う通りだな。」
「!!.....そうだね。」
サクラは二人にそっと抱きついた。
カエデは手の中の良い形の石を見つめながら言う。
「私は、石を投げる力が強くなったみたい。でも、それだけじゃないの」
カエデは石を軽く投げ上げる。
すると、石が空中でゆっくりと回転し始め、まるで生き物のように動いた。
「投げた石を、ある程度操れるようになったんだ。距離や速度、軌道まで...全部頭の中でコントロールできるの」
「だからもう野球やれよ。」
サクラがツッコミを入れた。
「それからこのコントロールは多用出来ないかも。肘に違和感が出るんだ。」
カエデは肘をさすりながら言った。
「野球肘かよ。」
サクラがツッコミを入れた。
ツバキは両目を見開きながら言う。
「私の場合は、両目からビームが出せるようになった。左目は青白い光線で、右目は赤い光線だ」
「だから目からビームってなんなんだよ。」
サクラがツッコミを入れた。
ツバキは試しに両目からビームを放つ。
二つの光線が絡み合いながら飛んでいき、遠くの岩を粉砕する。
「威力は確かに増したが...」
ツバキは言葉を詰まらせる。サクラとカエデは気づいて、心配そうに近づく。
「ツバキどした?なんかあった?」
「お腹痛いの?」
「サクラは疲労、カエデは肘の痛み...私は......なるほど。これらの力は『死への覚悟とリスクと引き換え』...か...。」
ツバキが突然真剣な表情になった。
「あ、あぁ...二人とも聞いてくれ。これは我々の行く末を左右するかもしれない内容だから言っておく。じ、実は私のリスクは...」
「「…ん?」」
サクラとカエデは顔を見合わせ、ツバキに注目する。
ツバキは少し躊躇いながら続ける。
「...い、言うのは恥ずかしいんだけど...絶対に笑わないで聞いてほしい!」
「もちろん!何を言ってるのツバキ!私たちは家族でしょ?」
サクラが真剣な表情で答える。
「うん、私たちがツバキのことを笑うわけないよ。大丈夫だよ。ツバキ。」
カエデも優しく頷く。
ツバキは深呼吸をして、ゆっくりと話し始める。
「二人ともありがとう。じゃあ言うぞ...じ、実は...両目からビームを出している間は...何も...何も見えないんだ...」
サクラとカエデはキョトンとしている。
「「 ……。 」」
そして、一瞬の沈黙の後...サクラとカエデが顔を見合わせた。
「「 ……ッ!! 」」
二人のほっぺが徐々に膨らみ爆発した。
「「...ぶはッwww」」
「あ!あはははははははは!」
サクラがお腹を抱えて笑い転げた。
「ツバキ!..ごめん...あはははははは!」
カエデも笑いを堪えきれず、お腹を抱えて転げ回る。
ツバキの顔が真っ赤になる。
「お!お前たち!だ!だから笑わないでって...」
サクラは涙を拭いながら言う。
「ごめんごめん...でも、それって...ひーひーふー!ひーひーふー!あ、あんなに強い技なのに...ひーひーふー!敵が動いたらさ!見えなくてさ!狙えなくない?あははははは!」
カエデも息を整えながら付け加える。
「ツバキ...ごめんね。あはは!で、でも、想像したら...あははははは!」
ツバキはますます赤面しながら抗議する。
「わ!笑うな!も、もう!約束しただろう!」
しかし、サクラとカエデの笑いは止まらない。
「「あはははははは!」」
ツバキは俯いて震えていた。
「......ふ...ふはは...」
そして、最終的には二人の笑いに加わった。
「「「あははははは!腹筋が腹筋が!あははははは!ひーひーふー!ひーひーふー!」」」
サクラが笑いながらツバキの肩を軽く叩いた。
「はぁはぁ...だ、大丈夫よ、ツバキ!私たちがちゃんとサポートするからさ。あははははは!」
カエデも頷く。
「はぁはぁ...そ、そうだよ!私の耳で敵の位置を教えるね!あははははは!」
ツバキは少し安心したように微笑む。
「はぁはぁ...あ、ありがとう!二人とも!あははははは!」
──このあと三人は気絶するまで笑ってた。
(つづく)
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