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第七話 : 希望という名の種

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川の対岸には百々目鬼がウロウロしている。

「よ、よし!」
カエデは震える手で石を握りしめると、深呼吸をして集中する。
そして、渾身の力で石を投げた。

「えいっ!」

コツン!

石は見事に百々目鬼の顔面に命中した。

「ぐ?ぐおおおおっ!」
百々目鬼がカエデの姿を捉えると、凄い勢いで川を渡ってくる。

「ひぃいいいいい!」
カエデが全力で逃げ出す。

「カエデ!こっちよ!」
サクラが腕組みをして立っている。

その先には ──。

そしてカエデが落とし穴を飛び越え、サクラとすれ違う。

「ぐおおーっ!?」
カエデを追っていた百々目鬼は見事に落とし穴に落ちた。

「ぐおっ!?ぐおっ!?」
百々目鬼は穴から抜け出そうともがいている。

そんな百々目鬼をサクラが見下ろす。
「こんにちは。百々目鬼さん。無駄よ。そこからは出してあげれないの。ごめんなさいね?だからせいぜい良い声で哭いてくれよぉーッラァー!」
──そして赤唐辛子の目潰しを放った!

「ぐぉおおおおおー!」
唐辛子を全身に浴びた百々目鬼は悶絶している。

「痛い?痛いよねぇ?でもお前は私たちを殺そうとしたんだよねえ?ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!」
サクラの笑い声が三十界に響き渡る。

「「 あれ?妖怪はどっちかな? 」」
カエデとツバキは「いや、ちょっと待て!サクラを退治するべきなのでは?」と思った。

「今よ!」
三人は力を合わせ、百々目鬼に襲いかかる。
サクラの怪力の闘魂相撲プロレス技、カエデの正確な石投げ、ツバキの鋭いビーム。

ボカスカボカスカ!

三人の息の合った攻撃に、百々目鬼はなすすべもないが、所詮は上層界レベルの三人。倒すのに時間がかる。

ボカスカボカスカ!

しばらくボカスカしていると百々目鬼は倒れた。
最後に百々目鬼は苦しそうな声をあげた。

「どっどどー!」

「「「 断末魔それ!? 」」」

その時、倒れた百々目鬼の体が溶け始め、迷宮に吸収されていく。

やっとのことで百々目鬼を倒した三人は喜びの声を上げる。
「や、やった!」

──すると三人の体が強く光り始める。

「わっ!私たち、光ってる!」
カエデが驚いて声を上げる。

「これは...河童を倒した時とは違う強さの光だな」
ツバキが冷静に観察する。

「すごい...なんか力が溢れてくる感じ!」
サクラは両手を見つめ、興奮した様子だ。

「でも、どうしてこんなに強く光るの?」
「おそらく、百々目鬼を倒したことで一気に階梯が上がったんだろう」
「ふふん、私の作戦大成功ってわけね」
サクラはニヤリと笑う。

「サクラ。そういえば、その目潰し...まだ残ってるのか?」
ツバキが気になったように尋ねる。

「もちろん!あと50個くらいあるわよ」
「50個も!?なんでそんなに隠し持ってるんだ?」
「備えあれば憂いなしってね!」

「いやホント凄いぞサクラ!胸を張って良いぞ!私は卑怯ですって!」
「私サクラ大好きだよ!サクラこそ卑怯者の中の卑怯者だよ!」

「ぁ、ぁ...うん。ありがと...ぅ...」
この時サクラは自分の人生を省みたと言う。



「ね、ねえ、それよりこれからどうするの?」
カエデが不安そうに言う。

ツバキが腕を組んで考え込む。
「そうだな...今の経験から考えると、百々目鬼を倒すことで大幅に階梯を上げられる可能性が高い。我々が生きて戻るには...」

「百々目鬼狩りをして強くなっていけばいいってことね」
サクラが言葉を継ぐ。

「じゃあ、さっきの作戦を続行ってことかな?」
カエデの目に希望が宿る。

「そうよ!この調子でどんどん強くなって、絶対に地上に戻らないとね!」

...

カエデが先頭に立ち、慎重に周囲の気配を探る。
サクラとツバキはその後ろで、いつでも戦えるよう準備している。

しばらく歩くと、カエデが突然立ち止まった。

「いるよ...百々目鬼...近くにいる」
カエデが小声で言う。

サクラが頷く。
「よし。カエデ!階梯も上がったんだしちょっとタイマン張ってきてみて!」

「えっ?」

「あー伝わらなかったかな。ごめんね。言い直すね。さっきカエデの階梯が上がった。つまりね。カエデは強くなった。ここまではオッケー?うん。だからカエデ一人で百々目鬼と戦ってみよう?」

「えっ?」
「サクラ!カエデをからかうな!」 スパン! 「いて!」

「と、まぁ冗談は置いといて、落とし穴を掘るからちょっと待って。うおおおおおー!」

数分で立派な落とし穴が完成した。

「「 階梯上がったからなの?すごくない!? 」」
カエデとツバキは驚きを隠せなかった。

カエデは慎重に前進し、百々目鬼の気配を追う。
やがて、遠くに百々目鬼の姿が見えた。

カエデは深呼吸をすると、石を投げ、百々目鬼の注意を引く。「こっちよ!」

百々目鬼がカエデを追いかけ、見事に落とし穴に落ちる。

カエデは落とし穴に落ちた百々目鬼を視線で追いながら叫ぶ。
「今よ、サクラ!」

サクラがゆっくりと落とし穴の中の百々目鬼を見下ろした。
洞窟の薄暗い光の中、百々目鬼の無数の目が不気味に光っていた。

百々目鬼がサクラを睨みつけている。
「くくく。おぃい?今どんな気分だ?怖いか?怖いよなぁ?ん?なにその目は?」

サクラは首を傾げながら言った。
「お前、もしかしてまだ自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」
そう言うとサクラは赤唐辛子の目潰しを放った。

百々目鬼の悲鳴が三十界に響き渡る。
「ぐぉおおおー!」

サクラの笑い声が三十界に響き渡る。
「おぃ?おぃい?さっきまで私を睨んでたよなぁ?どうしたよ?睨んでくれよぉ?なぁ?ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!」

「「 この人はいつか人類の敵になると思う。 」」
カエデとツバキは震えた。

サクラが叫ぶ。
「今だ、みんな!」

百々目鬼が悲鳴を上げ、目をこする間に、ツバキが隠れていた場所から姿を現す。
左目を押さえながら、低く唸るような声で呟く。

「我が魔眼よ、覚醒せよ...漆黒の炎をその身に宿し、禁忌の力を解き放て!」

そして、強烈な光を放つ左目から、強力なビームが発射される。
「魔眼炎波!邪なる者を焼き尽くせ!」

「「お前!もっと簡単にビーム出せるだろ!」」
サクラとカエデは我慢できなかった。

カエデは周囲を警戒しながら、石を投げ続ける。
「えい!えい!」

混乱した百々目鬼に、三人で一斉に攻撃を仕掛ける。

ボカスカボカスカ!

三人の攻撃で百々目鬼は倒れた。

「どっどどー!」
百々目鬼が断末魔をあげた。

「「「 いーや!緊張感っ! 」」」

三人の連携攻撃により、百々目鬼はさっきよりも速く倒せた。
同時に三人が光に包まれる。
また階梯が上がったのだ。

「ま、また!」
「凄いな!これ!」
「くくく...どんどん来いよぉ?」

倒れた百々目鬼の体が溶け始め、迷宮に吸収されていく。
そして、その場所に何かが残った。

カエデが首を傾げる。
「あれは...なに?」

サクラが近づいて拾う。
「これは...」

ツバキが『良い子の迷宮百科事典』をパラパラめくる。
「百々目鬼の目玉だな。珍しい妖術の素材として高値で取引されているみたいだ。」

サクラの目が輝く。
「へぇ!じゃあこれ、お金に換えられるってこと?」

カエデも興奮気味に言う。
「わぁ!じゃあこれを集めれば、借金返済の足しになるね!」

ツバキが不安そうに頷く。
「そうだな...だが、油断は禁物だ。まだまだ危険はある。無事に地上に戻...」

ツバキの不安をサクラが消し飛ばすように言葉を被せた。
「やったー!借金返済どころか天麩羅いや!お寿司もいけるかもね!」

ツバキはそんなサクラをキョトンと見つめていた。
「ふふふ。まったく...サクラが居て良かったよ。鬼畜だよ。鬼畜の所業だよ。」

「うん!サクラは鬼畜鬼畜!」
カエデも希望を感じたのか嬉しそうに飛び跳ねている。

「ぇ...ぅん...みんな元気が出て...良かった...のかな...」
サクラはこの時、泣かなかったと後に言った。

──こうして、百花繚乱の三十界侵攻が本格的に始まった。

(つづく)
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