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第四話 : 芽吹き始める花

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深淵の迷宮、壱界「初心者の竹林」。
青々とした竹が生い茂る中、サクラが突然立ち止まった。

「よし、この辺で良いかな。神籤の怪力全開ー!えっさっ!ほいさっ!」

サクラはキョロキョロしたかと思うと、おもむろに地面を掘り始めた。

「サクラ?何してるの?」
カエデが首を傾げる。

「楽しそう!私もやるー!えっさっ!ほいさっ!久しぶりだねー砂遊びwww」
カエデはサクラを手伝い始めた。

ツバキも怪訝な表情で尋ねる。
「また何か企んでいるのか?」

サクラは作業の手を止めず、にやりと笑う。
「なにって次の戦闘の準備してるんだけど?」

「準備?」
カエデが興味深そうに近づく。

「そう」
サクラが説明する。
「ここに落とし穴を作るの。次に来る妖怪を一網打尽にするわよ」

ツバキはため息をつく。
「まったく...それが求道者の取るべき行動か?求道者としての矜持が...」

「矜持?」
サクラが作業を止め、ツバキを見上げる。
「あら、貴女は矜持でお腹が膨れるんですの?ツバキさん?」

ツバキも穴を掘り始めた。
「ぐ...サクラの言うことにも一理あるな...仕方ない...えっさっ!ほいさっ!」

「ふふふ...」
サクラが不敵に笑う。
「楽しみね。私たちを殺そうと意気揚々と向かってくる妖怪がさ?この落とし穴に落ちてさ?その顔が絶望へと変わる瞬間がさぁー!?」

「「 あ、この人が魔王かな? 」」 
カエデとツバキは身震いした。

そして。
「みてみてー!ほら!」
カエデは掘った土で見事なお城を作った。

「いや、あんたそれでご飯食べれるよ!?」
カエデの作った砂の城が見事すぎてビックリするサクラ。

こうして三人は黙々と落とし穴を掘り、その上を薄い枝と葉で覆った。

作業を終えると、サクラが満足げに言う。
「よし、これで準備オッケー!さて!カエデちゃーん?」

「え!やだよ!絶対やだよ!」
カエデは察した。

「囮に使う気だろ」
ツバキも察した。

「カエデの鋭い五感があれば、妖怪をいち早く察知できるでしょ?さあ!行くのだカエデ!」
サクラが竹林を指差しながら言った。

カエデは耳をピクピクさせながら、ため息をつく。
「もう...分かったよ。でも、危なくなったら助けてよ?」

「任せなさい!絶対に守ってみせるわ!」
サクラが胸を張る。

ツバキも頷く。
「我が魔眼も万全の態勢だ」

「サクラのあの自信に不安しかないよぉ?ツバキ!ほんとお願いだよー?」
カエデは恐る恐る落とし穴から離れ、竹林の中へと進んでいく。
しばらくすると、カエデの鋭い耳が動く。

「い、居た...!」
カエデが声を殺して言うと、深呼吸をしてから石を投げた。

河童がカエデに向かってくる。
カエデは悲鳴を上げながら、落とし穴の方へ全力で走り出す。

「きゃあああっ!助けてー!」

河童はカエデを追いかけ、そのままサクラたちが仕掛けた落とし穴へと...

ドシャーン!

見事に落とし穴に落ちた河童。
河童はオロオロしている。

サクラは落とし穴を覗き込みながら言った。
「ようこそ河童さん。そしてさようなら。さあ行ってらっしゃい...ククク...地獄へなぁ?」
そして竹で作った爪楊枝をふっ!と吐き捨てると、ニヤリと笑った。

「「 いつの間に爪楊枝なんて作ったの! 」」
カエデとツバキが驚いて声を揃えた。

そしてサクラが叫ぶ。
「ちぇりゃあああああー瓦割りぃぃぃっ!」

サクラは落とし穴の河童の皿に全体重+怪力を載せたチョップを叩き込む。

サクラのチョップで河童の皿が砕け散る。

「かっぱっぱーーーーー!」
河童は悲鳴を上げて消滅した。

「「 いーや!断末魔が雑! 」」
カエデとツバキはこの世界の仕組みに不安を覚えた。

すると突然、三人の体が淡く光り始める。

「これは...階梯が上がった...のか…?」
ツバキが驚きの声を上げる。

「「かいてい?」」
サクラとカエデが首を傾げた。

ツバキが説明する。
「階梯とは、我々求道者の力の段階を表すものだ。第一階梯から始まり、力を得るごとに上昇していく。記録によれば、第百階梯を超えた者もいるという...」

サクラは目を輝かせる。
「ふふーん!ちょっと強くなったってことかな?」

三人は喜びを分かち合いながら、お互いをハイタッチする。

「でも」
カエデが不安そうに言う。
「私たちはまだ神籤をうまく使いこなせてないよね...」

サクラが拳を握る。
「うーん。もっと練習が必要かな。」

ツバキが頷く。
「うむ。ならば提案がある。この辺りには河童が多く生息しているようだ。奴らを相手に神籤の特訓をしてはどうだろうか」

「おお!」
サクラの目が輝く。
「それいいわね!河童千番勝負ってわけ!」

こうして、三人の河童千番勝負の特訓が始まった。

サクラ、カエデ、ツバキの三人は、河童との戦いを繰り返していた。

「てい!」
サクラが河童を投げちぎる。

「はっ!」
カエデが石を投げ、河童の急所を的確に狙う。

「闇よ、我に力を...」
ツバキの左目から放たれたビームが河童を貫く。

戦いを重ねるごとに、三人の動きは洗練されていく。

── 数時間後 ──

「ふう...だいぶ慣れてきたわね」
サクラが息を整える。

カエデが頷く。
「うん、石を投げるのがだんだん自然になってきたよ」

「我が魔眼も、より自在に操れるようになったようだ」
ツバキも満足げだ。

そのとき、地面が大きく揺れ始めた。

「な、何かヤバい気がするよ!」
カエデがただならぬ気配を感じ取ったようだ。驚いて叫ぶ。

竹を押し分けるようにして、巨大な河童が姿を現した。
その体は普通の河童の三倍はあり、頭の皿が不気味に光っている。

ツバキが息を呑む。
「あ、あれは河童の王か!?」

「へぇ、面白そうなのが出てきたじゃない」
サクラが身構える。

河童王は無言で三人を見下ろし、突如、頭の皿から強力なビームを放った。

「きゃあっ!」
カエデが悲鳴を上げる。

「させるか!」
ツバキの左目が光り、対抗するようにビームを放つ。
「我が魔眼よ、更なる力を...闇の深淵より力をぉおおおおお!」

二つのビームがぶつかり合い、均衡を保つ。

「くっ...強い...!」
ツバキが苦しそうに言う。

「皿と目からビームが...この人たち...何してるの?」
サクラが息を飲んで見守る。

「おい!サクラ!助けろ!」
ツバキが叫ぶ。

カエデは素早く周囲の石を集め、次々と河童王に向かって投げ始める。
しかし、石は河丈の硬い皮膚に跳ね返されるだけだった。

「ダメだ!効かない...!」
カエデが焦る。

「今のうちに...」
サクラがこっそりと河童王の背後に回り込む。

「えっと!これと、あれと、それと!」
カエデは必死に周囲の石を集めている。

河童王の後ろに回り込んだサクラはニヤリと笑った。

そして河童王に向かって走り出した。
「闘魂相撲(プロレス)観戦で覚えた見よう見真似の...」

サクラはジャンプして叫んだ。
「天狗落としぃぃいいいいい!」

サクラは高速でのドロップキックを河童王にお見舞いした。

ドガァァン!

激しい衝撃と共に、河童王が飛んでいく。
河童王は数十メートル飛んだかと思うと地面に叩きつけられた。

「かっぱっぱーーーーー!」
河童王は悲鳴を上げて消滅した。

「「 王でも断末魔それなの!? 」」
カエデとツバキのツッコミもなかなか良くなってきた。

「やった...!」
三人は息を切らしながら、勝利を噛みしめた。

しかし、すぐにサクラの表情が曇る。
「あれ?お皿?」

「どうしたの?」
カエデが首を傾げる。

ツバキが説明する。
「河童王が皿を落とさなかったな。きっと希少で、高値で取引できたはず...」

サクラが頭を抱える。
「ううう...天ぷらが食べられたかもしれないのに...」

カエデが慰める。
「まあまあ、命あっての物種だよ?」

「まぁそうなんだけどね...」
サクラが深呼吸する。
「でも、なんだか強くなった気がする」

ツバキが頷く。
「うむ。これほどの強敵を倒したのだ。きっと我らの力は大きく成長したはずだ」

「ねえ」
カエデが言う。
「私たち、今どのくらい強くなったのかな?」

「ねえ」
サクラが目を輝かせる。
「私たち世界征服できるんじゃない?」

「「 まさかそんな野望が!? 」」
カエデとツバキはサクラを二度見した。

ツバキが言った。
「ふむ。今日はこれくらいにして、階梯を確認しつつ帰ろうか。」

三人は意気揚々と、大宮の中心部にある
「求道者の社(やしろ)」へと向かった。

社の前には多くの求道者たちが列をなしている。
三人も列に並び、自分たちの番を待つ。

ようやく順番が回ってきた。
「階梯査定をお願いします」サクラが社の巫女に声をかける。

巫女は三人の体に御幣を翳す。
御幣が淡く光り、巫女の額に朱色の文字が浮かび上がる。

「はい出ました。」
巫女が御幣を見つめながら言う。
「あなたたちは第十階梯です。」

「「「ん?それってどうなの?」」」
三人が顔を見合わせて言った。

巫女が続ける。
「第十階梯は雑魚よりちょっと強い感じの雑魚ですかね。」

「「「 言い方! 」」」
三人が同時にツッコミを入れた。

サクラが拳を突き上げる。
「まぁなんでもいいや!成長してるってことね!」

三人は顔を見合わせ、頷く。
新たな力と自信を胸に、彼女たちは深淵の迷宮のさらなる深みへと歩みを進める決意を固めた。

「さて帰って寝よー!」
サクラが叫ぶ。

「うん!」
カエデが元気よく答える。

「我らが紡ぎし物語は、まだ序章に過ぎぬ...」
「普通に喋れ!」
「あははw」
ツバキが厨二病全開で締めくくろうとしたが、サクラが茶々を入れ、カエデが笑う。

今日は疲れているはずだが、三人の足取りは軽かった。

(つづく)​​​​​​​​​​​​​​​​
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