氷の令嬢は花を愛でる

華奈PON

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フランシアのお見合い

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女に貢がせ、女を抱いて飽きたら
女を使い捨てる、その繰り返し
馬鹿な女や焦る女は少し
優しくしてやって
結婚をちらつかせりゃ
すぐに騙された
まあ、それもこれも安定した地位と環境
そして整った顔が有ればの話、
この様に産んでくれた両親には
心の底から感謝してる、本当だよ
遊ぶ金が欲しけりゃ女に貢がせりゃ良い
それもこの顔と男爵令息の肩書が
あれば好き放題、ヤリたい放題なのさ
全てはオレを中心にして廻っている

その日、フリージア家の屋敷に
ルーベンス男爵家の使いが
やって来たのは、昼食が終わって
間も無くしてからの事だった
ルーベンス家の執事である
老齢の男性が、フリージア家の
執事長ヌールと何やら会話をしている
私、ノエル・グレイシアは
フリージア家の当主代理である
レティシアとその妹フランシアに伴い
ヌールとルーベンス家の執事の
やり取りを少し離れて見ていた
ヌールは執事との話のやり取りで
何やら悩んでいた様だ
するとレティシアの方へとやって来て
彼女へ周囲に聞こえない様に
耳元で何かを伝えている、すごく気になる
レティシアはうんうんと頷き
少し考えた後で鋭い視線を此方に向ける
レティシアはフランシアを
まっすぐに見据えてはっきりと言った。

「…フランシア、お見合をしなさい」

私とフランシアはレティシアの
その一言に驚きを隠せず
私達は狼狽え動揺してしまう

「え?えっ!?お姉様!?今、何と…?」
「聞こえなかったの?フランシア
もう一度言います、お見合いをしなさい
ルーベンス男爵令息と本日中に
顔合わせをします」

唐突すぎて私も耳を疑ったが
レティシアの目と鋭い顔は本気だった
フランシアは怯えながら恐る恐る
恐ろしい表情のレティシアに尋ねる

「あの…本気ですか…?お姉様?」
「冗談を言う顔に見えますか?」
「…レティシア様…それは…
考え直された方が
よろしいのではないですか…」
「お黙りなさいノエル…フランシアの
お見合い、これは決定事項です」

どうにか考え直す様、説得を試みるも
レティシアには取り付くしまもない
貴族の政略結婚と言うものはよく聞くが
私はフランシアの気持ちを蔑ろにする様な
レティシアの行為に今一納得が出来ない

「…これも社会勉強の一つです
フランシアがルーベンス男爵令息を
気にいるのならばそれはそれで良し
仮にその気がなくてもフランシアが
男性と言うものを知る勉強になりましょう」
「それにしても…いきなりすぎでは…」
「…こう言ったものは時に
勢いも必要なのですよ
わたくしはこれから外出の準備をします
フランシアもその間に覚悟を決めなさい
ノエル、フランシアを全力で
サポートするのですよ
二人とも分かりましたね」

そう言って私とフランシアを
その場に残してレティシアは
速足で何処かへと行ってしまった

「…あの…ノエルは…私の…
お見合いの事をどう思いますか?」

少し不安そうな表情のフランシア
私は彼女の不安を払拭したいが
どの様な言葉で話しかけたら良いのか
正直な所、思い付かない

「…フランシア様が、ルーベンス男爵令息を
良いと…伴侶に迎えたいと、仰るのならば
…私はそれに従うまでです」

私は愛想笑いでそう言う
あくまでもフランシアの
使用人なのだから
主人であるフランシアが望むならば
それも仕方のない事なのだろうと

「…ノエル…私は…」
「…私の望みは…フランシア様が
幸せになる事…私の望みは…
ただ、それだけの事なのです」
「…ノエル…ですが…私は…」

フランシアは何か言いたげな表情だった
何処からともなく外出の準備を終えた
レティシアが私達二人の元に現れた
その表情は冷たく鋭く、まるで狩人の様だ

「…フランシア、時間よ準備なさい
ノエルと問答してても、何も覆らないわ」
「…はい…お姉様…」
「…ノエル、貴女も一緒に来るのよ」
「かしこまりました、レティシア様」

私とフランシアの押し問答に
レティシアは割って入る
俯く私とフランシアを他所目に
レティシアはいつも通りの表情だ

「今回は顔合わせだけで、お見合いは
後日都合の良い日を改めて決めるわ
早く着替えて外出の準備をなさい」
「はい、お姉様…」

とぼとぼと、外出用のドレスに着替える為に
フランシアは自室へと向かう
私は彼女のその姿を見ていられなかったが
レティシアは不敵に笑う

「レティシア様…フランシア様に
お見合いをさせて良いのですか?
…そのまま結婚なんて事も…」
「ノエル…貴女の思う様な状況には
天地がひっくり返っても決してならないわ
あの愚息には今迄の己の行いを
徹底的に思い知らせてあげるから…」
「…え…?どう言う事ですか…?」
「…お見合いまでのお楽しみよ
…フランシア達には内緒にしなさい」
「はい…よくわかりませんが
レティシア様の言う通りにします」

影が降り立つレティシアの表情に
私の背筋は凍りつく様な思いであった
数刻後、外出用の軽めのドレスに着替えた
フランシアが憂鬱そうな表情で戻って来た

「行きましょう」
「はい…」

表情の変わらないレティシアと
俯きながら暗い表情のフランシア
レティシアの言葉に疑問を抱きながら
私達はルーベンス家の屋敷へと
向かう為に魔導馬車へと乗り込む
石で作られた道路を馬車の
金属製の車輪がカラコロと音を立てて
馬車はゆっくり目的地に向かって走り出す
私達を運ぶ馬車に揺られながら
窓の外から景色を見つめるレティシアと
これからの事を不安そうな表情で
身構えるフランシア
私はただ静かに二人を見守る



それ程時間が掛かることも無く
馬車はルーベンス家の屋敷へと辿り着いた
私は先に馬車から降りて
レティシアとフランシアが
馬車から降りるのをサポートした
フリージア家程ではないにせよ
それなりに豪奢な建物を目の当たりにする
私達がルーベンスの屋敷の
門の前まで来ると屋敷の中から
先程フリージアを訪れた
ルーベンス家の執事と
何故かフリージア家の執事長
ヌールの姿があった、彼の姿を見て
私は物凄く嫌な予感がした
ルーベンス家の執事とヌールは
終始穏やかに会話をしながら
そして、微笑み合いながら
私達を屋敷に招き入れる為に門を開ける

「お待ちしておりましたレティシア様
中でロロス坊ちゃまがお待ちです」
「フランシア、行きますわよ」
「…はい…」
「…いつもの様に笑ったらどうなの?」
「…」

フランシアは嫌がっていると言うより
何処か落ち込んでいる、私の目には
彼女の表情がその様に映っていた

「…令息に対して粗相の無い様にね」
「はい…」

レティシアも必要な事だけを
フランシアに伝えて余り深くは
追及しなかった、フランシアの心境を
理解していたのだろう、レティシアなら
表情を見ただけでフランシアが
何を思っているのか即座に
理解してしまうだろうから
レティシアは私の耳元で小さく呟く

「…ノエル、令息がフランシアに
極端に近づかない様に気を付けなさい」
「…わかりました」
「…ヌールもサポートに付きます
令息とフランシアを絶対に
二人きりにしない事、わかりましたね」
「全力を尽くします」

私とヌールはフランシアに
付き添う様な形でルーベンス家の
執事に屋敷の中へと案内された
レティシアは私達から
少し距離を空けて歩いている

「フランシア、私はこれから
ルーベンス男爵に挨拶して来ます
ノエルとヌールがと一緒に
ロロス男爵令息に挨拶するのですよ」
「わかりました、お姉様」

フランシアの表情は少し不安な様だ
私はヌールと顔を見合わせて
お互い無言で静かに頷く
私達は客間の一室に案内されると
そこにはスラリとした体型の
容姿端麗な金髪の男性が微笑みを湛え
窓の外を見ていた

「お待ちしておりました、フランシア様
私がロロス・ルーベンスです」
「…フランシア・フリージアです」

フランシアは丁寧にお辞儀をする
それに合わせて私とヌールも頭を下げた

「花咲く令嬢は噂通りお美しい方だ
まずはお見合いの件、了承して下さり
ありがとうございます」

優しく微笑むロロス、しかし
フランシアの表情は何処かぎこちない

「…私の伴侶になって頂ければ
フランシア様を必ず幸せに致しますよ」
「あの…ロロス様、今日は顔見せの
挨拶だけに来たのですが…」
「…おっと気が早かったですか?
私としては今夜からでもフランシア様と
親交を深めたいと思っているのですが?」

ロロスがフランシアとの距離を
一気に詰めて近づくと
その分フランシアは後ろへ後退する
私はレティシアの言い付け通り
ロロスとフランシアの間に割って入る

「…何かな?」
「…貴方をフランシア様に必要以上に
近付けるなと命令を受けておりまして」
「…成る程」

私を睨むロロスの目はつい先程の様な
フランシアに対して見せた甘いマスクなど
微塵も感じられなかった
この男…何かを隠している?
私の脳裏にレティシアの言葉が浮かぶ

「私は、ひと目見てフランシア様に
とても興味が湧き、もっと貴女の事を
深くじっくりと知りたくなりました
フランシア様、宜しければ私と二人きりで
気兼ねなくお話ししませんか?」
「…私は…」

フランシアは静かに首を横に振る
その姿にロロスは少し悲しんで居る様な
哀愁漂わせた表情をしたが
私は彼の眼光の鋭さが酷く気になった
フランシアの反応でロロスは
毎回、一喜一憂して見せるものの
フランシアを見る目は、まるで
まるでこれから狩猟する獲物を
見ている、その様な気分にさせられた
私はフランシアを見るロロスの視線が
とても不快なものに思えていたのだ

「…誠に残念です、フランシア様と
じっくりと愛を語るのはお見合いの日まで
お預けと言う事なのですね」
「…その日までごきげんよう、ロロス様」
「…楽しみにしてますよ、フランシア様」

私達は客間を後にする
フランシアに付き添い
部屋を出る、部屋を出る間際
私は冷たい視線がこちらを見ている事に
気が付いた、私達を見送るロロスの
視線はとても鋭く、まるで外敵でも
見ている様な視線だった
これが、あの男の本性なのだろうか
私はロロス・ルーベンスと言う男から
フランシアを護らねばならないと
心の中で硬く決心したのだった。
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