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本編・アリスティアの新学期
不穏
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アリスティアとジークハルトは、ボロボロのヴァルハイトと共に学生寮の方へと戻ってきた。
「…凄い、酷い目にあった…」
「…それにしてもヴァルハイトは魔法も得意だとは…恐れ入りました。」
「そんなこと言っても、僕は"斬る"魔法と"貫く"魔法しか使えないんですけどね…。」
「それでも凄いことですよ」
ヴァルハイトはこっ酷くバーンに絞られたらしく、魔法訓練と称したシゴキに遭った様だ。だいぶげっそりとしていて、その姿にアリスティアとジークハルトは少し心配になっていた。
「…大丈夫ですか?」
「ヴァルハイト、歩けない様なら私が背負いますが?」
アリスティアとジークハルトが心配そうにヴァルハイトに尋ねた。するとヴァルハイトはすぐに顔を上げて慌てている様子であった。
「あ、いや、本当に大丈夫ですよ、僕にお構いなく!それじゃまた学園で!」
そう言って、そそくさと逃げていくヴァルハイト。アリスティアとジークハルトは珍妙な彼の行動に呆気に取られていた。
「彼があれだけ元気なら大丈夫ですね」
「ええ、そうですね」
アリスティアとジークハルトの二人が同棲寮へと戻った束の間の事であった。
二人がゆっくりとくつろいでいると、外から二人の名を呼ぶ声がする。
何事かと思い、窓から外へジークハルトが顔を出すと、視線の先にはアナスタシア、アトラ、そしてフィルと、なんとも珍しい組み合わせであった。
彼等は困っている様な、あるいは混乱している様な表情でジークハルトを見上げていた。
ジークハルトとアリスティアは何事かと思い外へ出ると、皆の表情がいつもと違う。
少なくとも普段の穏やかな表情はそこにはなかった。
「兄上、大変です!」
「アナスタシア…一体、何があった?」
「ともかくこれを見て下さい。」
アナスタシアはジークハルトに一枚のチラシの様な紙を手渡した。アリスティアも彼の隣で内容を覗き込む。紙にはこう書かれていた。
『衝撃の事実!王子ジークハルトと王子妃アリスティアの不仲説!!巷で流れる王子と王子妃ダブルで浮気の噂、真相を確認したい生徒は中級生十三組教室へ!先着十名にまで真実をお伝えします!』
目を疑う様なゴシップ記事である。
「これは一体…?」
ジークハルトもアリスティアも文面に不快感を示していた。四六時中共に居る二人がその様な事があり得ない事を互いに理解しているからだ。
「アナスタシア、何処でこれを見つけたのですか?」
「女子寮の掲示板に大量に貼られていました、フィルに調べてもらったら男子寮でも同じ事が起きている様です…。」
「ええ、同じ様に大量に貼られていました。イタズラ…にしては悪質、と言うより命知らずですね、この様な事で王子やアリスティア様に不敬を働く事は、即ち国家を転覆すると判断されてもおかしくないですね。」
「でも、そんな生徒いますか…?少なくとも此処にいる生徒はその様な事をすれば、家名に傷が付いたり、強制退学も有りうるでしょう?」
「王子とアリス様の事、新入生でも知らない人は居ませんよ、在校生なら尚更です。」
この行為はフィルの言う様に、イスト王族への侮辱にあたる、少なくともイストの騎士団に捕らえられて裁判にかけられる。下手をすれば国家転覆を企んだとして国家反逆罪に該当し極刑もあり得るだろう。
また、アナスタシアとアトラが言う様に、混乱を起こす内容としては、いささか腑に落ちない点が多い。
ジークハルトは顎に手を当てて何かを考えている様に、アリスティアには見えた。
「おかしいですね」
「ジーク、どうしたのですか?」
「ここです。」
ジークハルトは十三の数字を指で示す、アリスティアにはそれがどう言う意味かよくわからなかったが、アトラは気が付いた様だ。
「あ…エチュード学園には全ての学年、十三組も有りません、十二組です」
「ええ、正解ですアトラ。」
そう言われてアリスティアとアナスタシアも気が付いた。新入生も最上級生ももちろん中級生も、この学園には一学年十二組しかないのだ。毎年入学する人数は固定されている。
「これは…一体どう言う事なのでしょうか…」
アリスティアは急に不安になっていた。
得体の知れない違和感、それが彼女の背筋を冷たくさせている。
「これはもしかすると、内容自体には意味が無いのか…?」
「先着順というのも気になりますね…ジーク」
「ええ、おかしな文言を記載する目的は…人集め。あるいは、私とアリス…或いはそのどちらかを誘き出すのが目的なのでは…?」
「何の為に…?」
ジークハルトは俯き考えていた。
「それは、分かりませんが…正直嫌な感じがします。」
ジークハルトは身支度を整えると、アリスティアに微笑んだ。
「フィルは護衛者達に警戒する様伝えて下さい。アナスタシアとアトラは新入生に混乱が起きない様にして下さい、私はレオンやローゼリア、中級生に伝えてきます。」
「あの、ジーク…私は…?」
ジークハルトはアリスティアを抱擁しながら耳元で囁く。いきなりの出来事で彼女は頬と耳元を赤く染めていた。
「アリス、私の帰りを待っていて下さい。すぐに帰ってきますからどうか心配なさらず。」
そうして微笑むと、アリスティアは真っ赤な顔を伏せて小さく「はい」と呟いた。
「…凄い、酷い目にあった…」
「…それにしてもヴァルハイトは魔法も得意だとは…恐れ入りました。」
「そんなこと言っても、僕は"斬る"魔法と"貫く"魔法しか使えないんですけどね…。」
「それでも凄いことですよ」
ヴァルハイトはこっ酷くバーンに絞られたらしく、魔法訓練と称したシゴキに遭った様だ。だいぶげっそりとしていて、その姿にアリスティアとジークハルトは少し心配になっていた。
「…大丈夫ですか?」
「ヴァルハイト、歩けない様なら私が背負いますが?」
アリスティアとジークハルトが心配そうにヴァルハイトに尋ねた。するとヴァルハイトはすぐに顔を上げて慌てている様子であった。
「あ、いや、本当に大丈夫ですよ、僕にお構いなく!それじゃまた学園で!」
そう言って、そそくさと逃げていくヴァルハイト。アリスティアとジークハルトは珍妙な彼の行動に呆気に取られていた。
「彼があれだけ元気なら大丈夫ですね」
「ええ、そうですね」
アリスティアとジークハルトの二人が同棲寮へと戻った束の間の事であった。
二人がゆっくりとくつろいでいると、外から二人の名を呼ぶ声がする。
何事かと思い、窓から外へジークハルトが顔を出すと、視線の先にはアナスタシア、アトラ、そしてフィルと、なんとも珍しい組み合わせであった。
彼等は困っている様な、あるいは混乱している様な表情でジークハルトを見上げていた。
ジークハルトとアリスティアは何事かと思い外へ出ると、皆の表情がいつもと違う。
少なくとも普段の穏やかな表情はそこにはなかった。
「兄上、大変です!」
「アナスタシア…一体、何があった?」
「ともかくこれを見て下さい。」
アナスタシアはジークハルトに一枚のチラシの様な紙を手渡した。アリスティアも彼の隣で内容を覗き込む。紙にはこう書かれていた。
『衝撃の事実!王子ジークハルトと王子妃アリスティアの不仲説!!巷で流れる王子と王子妃ダブルで浮気の噂、真相を確認したい生徒は中級生十三組教室へ!先着十名にまで真実をお伝えします!』
目を疑う様なゴシップ記事である。
「これは一体…?」
ジークハルトもアリスティアも文面に不快感を示していた。四六時中共に居る二人がその様な事があり得ない事を互いに理解しているからだ。
「アナスタシア、何処でこれを見つけたのですか?」
「女子寮の掲示板に大量に貼られていました、フィルに調べてもらったら男子寮でも同じ事が起きている様です…。」
「ええ、同じ様に大量に貼られていました。イタズラ…にしては悪質、と言うより命知らずですね、この様な事で王子やアリスティア様に不敬を働く事は、即ち国家を転覆すると判断されてもおかしくないですね。」
「でも、そんな生徒いますか…?少なくとも此処にいる生徒はその様な事をすれば、家名に傷が付いたり、強制退学も有りうるでしょう?」
「王子とアリス様の事、新入生でも知らない人は居ませんよ、在校生なら尚更です。」
この行為はフィルの言う様に、イスト王族への侮辱にあたる、少なくともイストの騎士団に捕らえられて裁判にかけられる。下手をすれば国家転覆を企んだとして国家反逆罪に該当し極刑もあり得るだろう。
また、アナスタシアとアトラが言う様に、混乱を起こす内容としては、いささか腑に落ちない点が多い。
ジークハルトは顎に手を当てて何かを考えている様に、アリスティアには見えた。
「おかしいですね」
「ジーク、どうしたのですか?」
「ここです。」
ジークハルトは十三の数字を指で示す、アリスティアにはそれがどう言う意味かよくわからなかったが、アトラは気が付いた様だ。
「あ…エチュード学園には全ての学年、十三組も有りません、十二組です」
「ええ、正解ですアトラ。」
そう言われてアリスティアとアナスタシアも気が付いた。新入生も最上級生ももちろん中級生も、この学園には一学年十二組しかないのだ。毎年入学する人数は固定されている。
「これは…一体どう言う事なのでしょうか…」
アリスティアは急に不安になっていた。
得体の知れない違和感、それが彼女の背筋を冷たくさせている。
「これはもしかすると、内容自体には意味が無いのか…?」
「先着順というのも気になりますね…ジーク」
「ええ、おかしな文言を記載する目的は…人集め。あるいは、私とアリス…或いはそのどちらかを誘き出すのが目的なのでは…?」
「何の為に…?」
ジークハルトは俯き考えていた。
「それは、分かりませんが…正直嫌な感じがします。」
ジークハルトは身支度を整えると、アリスティアに微笑んだ。
「フィルは護衛者達に警戒する様伝えて下さい。アナスタシアとアトラは新入生に混乱が起きない様にして下さい、私はレオンやローゼリア、中級生に伝えてきます。」
「あの、ジーク…私は…?」
ジークハルトはアリスティアを抱擁しながら耳元で囁く。いきなりの出来事で彼女は頬と耳元を赤く染めていた。
「アリス、私の帰りを待っていて下さい。すぐに帰ってきますからどうか心配なさらず。」
そうして微笑むと、アリスティアは真っ赤な顔を伏せて小さく「はい」と呟いた。
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