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婚約破棄
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ストレスの溜まる貴き者達の社交界。
シャンデリアが放つ眩い輝きが真紅のカーペットに降り注ぐ。
華やかな大広間にて貴族の皆は踊る。
私を含む誰もが豪勢で、煌びやかな衣装に身を包み、容姿、資産、家柄、権力それらを供覧し、徐に誇示する。
貴族達の社交界の場と言えば、貴族同士の交友を深める他にも、我欲を満たすとかそう言った場なのだろう。
さて、今日は何の晩餐会だったろう?
一人椅子に腰をかけると、パートナーと舞踏に勤しむ貴婦人達。酒や軽食に舌鼓をうつ紳士達を、憂鬱な気持ちでやや冷ややかな視線で眺める。
不思議なぐらい、全員が笑顔だ。
はて?今日はそれ程に何かめでたい日だったのだろうか?
直近の記憶を探ると、親友の一人である公爵令嬢レフィーナの顔が浮かんだ。
ああ、そうだった。今日は彼女の結婚報告を兼ねた晩餐会であった。
レフィーナは優しく良き親友だ、その親友が結婚するともなれば、祝福するのが当たり前だろう。
しかし、そうならないのにも理由はあった。
相手の令息にあまりいい噂を聞かないからである。
金の使い方と女癖は特に悪い様で、レフィーナが酷い目に合うかも知れないと思うと憂鬱なのだ。
と、そんな感じで頭の中で妄想を侍らせながら、キラキラとした光景をボーッと眺めている。
すると顔も名前も知らない、温和な表情の貴族の男性が声をかけてきた。
「そこのお嬢さん、如何ですか一曲?」
右手を差し出して爽やかに微笑む男性。
やれやれと一つため息を吐いて、ゆっくりと席を立った。
男性の顔色が変わっていく。
そうして男性を見下ろすと、見上げる彼の顔は恐怖の色で濁り、頬に汗を伝わせ酷く青ざめていた。
相手の姿を見て怯えるとは、何とも失礼な男性だ。
「…あ…ああ…。」
目の前の男性の身長は凡そ160~170センチ程。
ヒールを履いた私と比べると頭二個分程度低い。
側から見れば大人と子供、あるいは熊と子犬、その様に見れるだろうか。
そこらで踊る見目麗しい令嬢達とかけ離れている事に、目の前の男性はさぞ驚いた事だろう。
この身に纏う違和感の無い豪奢なドレスも、私の身長に合わせて作られた特注製の一品物だ。
「私、今は気分が優れないので、申し訳ございませんが、失礼させていただきますわ。」
くるりと背を向けて誰もいないテラスへと歩く。
その場に立ち尽くす男性は怯えた子鹿の様に震えていた。
テラスへと向かう途中だ。
何やら大広間の中央あたりが騒がしい。
その中には幾つか見知った顔がある。
公爵令嬢のレフィーナに詰め寄る男性…。
おや?あれは婚約相手のペルーガ公爵令息ではないだろうか?
騒動は人の輪でギャラリーを作り、まるで古にあったコロセウムの建物を連想させた。
長身のおかげで二人のやり取りを眺められる。
「この嘘吐きのアバズレがッ!!お前との結婚など無効だッ!!」
叫んでいるのはペルーガである。
「オレの目を盗み他の男達と逢瀬しているなど恥を知れ!!」
「ペルーガ様の誤解です!私は決してその様な事などしていません!」
レフィーナは実に献身的で、令嬢の鑑の様な淑女である。彼女がその様な事をするはずもない事は私はよく知っている。
そして、見知る内容によると、少なくとも不義理を働いているのはペルーガだと言う話だ。
ペルーガからレフィーナへとぶつけられる罵詈雑言の数々。
初めはレフィーナも反論をしていたが、ペルーガが心無い非常な言葉で切りつけると、彼女の表情が徐々に暗くなっていた。
そして、涙する親友の姿。私は拳を強く握り締める。
「だから、お前はッ!!」
ペルーガがレフィーナに手を上げる。
そして、気がついた時には人の輪の中へと飛び込み、瞬時に距離を詰めより炸裂音を響かせていた。
「ふぎゃッ!?」
ペルーガは宙を舞っていた。
「…あら?私とした事が。こんなつまらないモノを殴り飛ばしてしまいましたわ」
振り上げた拳は、令息の顔面にクッキリと跡を付けていた。
二回、三回、空中を舞う気絶したペルーガ。
真紅のカーペットへと頭から突き刺さる。
「私、親友への侮辱は許す気がありませんの」
貴族達の視線を一身に集めて笑う。
一番驚いていたのは先程泣いていたレフィーナだ。
「えっ!?メリアベル!!」
その光景を眺め、ざわめく貴族達は口々に呟いていた。
「グランベル家の公爵令嬢!?」
「並の男以上と言っていたがまさかあれ程とは…」
レフィーナは涙で濡れた顔でこちらを見上げている。
その顔が少々可愛らしいと思い、彼女の涙を指で掬って、ふと笑みを浮かべた。
「あら、レフィーナ。如何ですか一曲?」
片膝をついてレフィーナの華奢な手を取った。
シャンデリアが放つ眩い輝きが真紅のカーペットに降り注ぐ。
華やかな大広間にて貴族の皆は踊る。
私を含む誰もが豪勢で、煌びやかな衣装に身を包み、容姿、資産、家柄、権力それらを供覧し、徐に誇示する。
貴族達の社交界の場と言えば、貴族同士の交友を深める他にも、我欲を満たすとかそう言った場なのだろう。
さて、今日は何の晩餐会だったろう?
一人椅子に腰をかけると、パートナーと舞踏に勤しむ貴婦人達。酒や軽食に舌鼓をうつ紳士達を、憂鬱な気持ちでやや冷ややかな視線で眺める。
不思議なぐらい、全員が笑顔だ。
はて?今日はそれ程に何かめでたい日だったのだろうか?
直近の記憶を探ると、親友の一人である公爵令嬢レフィーナの顔が浮かんだ。
ああ、そうだった。今日は彼女の結婚報告を兼ねた晩餐会であった。
レフィーナは優しく良き親友だ、その親友が結婚するともなれば、祝福するのが当たり前だろう。
しかし、そうならないのにも理由はあった。
相手の令息にあまりいい噂を聞かないからである。
金の使い方と女癖は特に悪い様で、レフィーナが酷い目に合うかも知れないと思うと憂鬱なのだ。
と、そんな感じで頭の中で妄想を侍らせながら、キラキラとした光景をボーッと眺めている。
すると顔も名前も知らない、温和な表情の貴族の男性が声をかけてきた。
「そこのお嬢さん、如何ですか一曲?」
右手を差し出して爽やかに微笑む男性。
やれやれと一つため息を吐いて、ゆっくりと席を立った。
男性の顔色が変わっていく。
そうして男性を見下ろすと、見上げる彼の顔は恐怖の色で濁り、頬に汗を伝わせ酷く青ざめていた。
相手の姿を見て怯えるとは、何とも失礼な男性だ。
「…あ…ああ…。」
目の前の男性の身長は凡そ160~170センチ程。
ヒールを履いた私と比べると頭二個分程度低い。
側から見れば大人と子供、あるいは熊と子犬、その様に見れるだろうか。
そこらで踊る見目麗しい令嬢達とかけ離れている事に、目の前の男性はさぞ驚いた事だろう。
この身に纏う違和感の無い豪奢なドレスも、私の身長に合わせて作られた特注製の一品物だ。
「私、今は気分が優れないので、申し訳ございませんが、失礼させていただきますわ。」
くるりと背を向けて誰もいないテラスへと歩く。
その場に立ち尽くす男性は怯えた子鹿の様に震えていた。
テラスへと向かう途中だ。
何やら大広間の中央あたりが騒がしい。
その中には幾つか見知った顔がある。
公爵令嬢のレフィーナに詰め寄る男性…。
おや?あれは婚約相手のペルーガ公爵令息ではないだろうか?
騒動は人の輪でギャラリーを作り、まるで古にあったコロセウムの建物を連想させた。
長身のおかげで二人のやり取りを眺められる。
「この嘘吐きのアバズレがッ!!お前との結婚など無効だッ!!」
叫んでいるのはペルーガである。
「オレの目を盗み他の男達と逢瀬しているなど恥を知れ!!」
「ペルーガ様の誤解です!私は決してその様な事などしていません!」
レフィーナは実に献身的で、令嬢の鑑の様な淑女である。彼女がその様な事をするはずもない事は私はよく知っている。
そして、見知る内容によると、少なくとも不義理を働いているのはペルーガだと言う話だ。
ペルーガからレフィーナへとぶつけられる罵詈雑言の数々。
初めはレフィーナも反論をしていたが、ペルーガが心無い非常な言葉で切りつけると、彼女の表情が徐々に暗くなっていた。
そして、涙する親友の姿。私は拳を強く握り締める。
「だから、お前はッ!!」
ペルーガがレフィーナに手を上げる。
そして、気がついた時には人の輪の中へと飛び込み、瞬時に距離を詰めより炸裂音を響かせていた。
「ふぎゃッ!?」
ペルーガは宙を舞っていた。
「…あら?私とした事が。こんなつまらないモノを殴り飛ばしてしまいましたわ」
振り上げた拳は、令息の顔面にクッキリと跡を付けていた。
二回、三回、空中を舞う気絶したペルーガ。
真紅のカーペットへと頭から突き刺さる。
「私、親友への侮辱は許す気がありませんの」
貴族達の視線を一身に集めて笑う。
一番驚いていたのは先程泣いていたレフィーナだ。
「えっ!?メリアベル!!」
その光景を眺め、ざわめく貴族達は口々に呟いていた。
「グランベル家の公爵令嬢!?」
「並の男以上と言っていたがまさかあれ程とは…」
レフィーナは涙で濡れた顔でこちらを見上げている。
その顔が少々可愛らしいと思い、彼女の涙を指で掬って、ふと笑みを浮かべた。
「あら、レフィーナ。如何ですか一曲?」
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