ショートショート集「どうしてこうなった高校」

子どもが喜ぶ毛虫

　公園を通ると、その一角に子どもの人だかりができていた。
　彼らの間隙をぬってみると、そこには虹色の毛虫がたたずんでいる。
　体はつるつるしていて、虫らしい気持ち悪さはなぜか感じられない。

「これを見ると、幸せになれるんだって」
「僕、これを見た次の日に算数のテストを受けたら、100点だったんだよ」
「僕はサッカーの試合で初めてゴールできた」
　子どもたちは口々に毛虫を見たあとの幸せ体験を語っていた。

　1カ月後、僕は大学模試の結果判定の紙を手に、同じ公園にやってきた。
　第一志望校がA判定だったので、毛虫に報告しようと思ったのだ。
　しかしあの日子どもたちが集まっていた場所では、清掃員のおじさんが何もないところを見下ろしていた。
「どうしました？」
「悪い高校生が、ここで虹色の毛虫を踏みつぶしちまってね。そしたら次の日そいつは、バイクで事故っちまって……」
　肩を落とすおじさんの姿から、ただならぬ陰を感じた。