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26 王子たちの噂
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夜会まであと半月という時に、その噂がフィリアの耳に入ってきた。
社交をマメにこなしていればもっと早く噂を知れたのだろうが、ついこの間まで第三王子に冷遇されていて、気弱で将来性の薄い第二王子の婚約者をしているフィリアへは夜会もお茶会も招待がほとんど無い。
それは父に頼まれて参加した茶会で耳にした噂だった。
近々ポナー家の資金提供で始まる大聖堂の改修、その事業で指揮を取る侯爵の夫人が開催した茶会は、年齢の高い女性の参加が多かった。
フィリアは自分と同世代の女性には良い思い出が無いので、落ち着いて参加が出来ると思っていた茶会だった。
席に着くと、同じテーブルに座った年配の婦人達がフィリアを見てヒソヒソと何事かを話している。
(婦人の集まりだからと言われて来たけれど、嫌な感じの茶会に来てしまったわ)
そう思いつつも表情を崩さずにフィリアはお茶を頂く。
「―――王太子殿下の……でも皆が話しているわ。――だから……ではないかしら?」
「第二王子殿下は……けれど……あの方は……元が、ねぇ」
(王太子殿下とクリフ様の事を話しているのね。あのご婦人方はワザと私に聞かせて反応を見たいのかしら?)
そこへ主催者の侯爵夫人がテーブルにやってきてフィリアに声を掛けた。
「ご機嫌よう、ポナー様。伯爵には幾度も我が家で主催した夜会にお招きしていたのですが、お忙しいようで残念に思っていましたの。けれども本日はご令嬢が私のお茶会に来て下さってとても嬉しいですわ」
伯爵である父親が上位の侯爵の誘いを何度も袖にしている事が、夫人はお気に召さないようだ。もしかしたら、今日は少しイビられるかもしれない。
「恐れ入ります。父が不義理をしてしまったようで、大変申し訳ありません」
フィリアは素直に侯爵夫人に謝った。
「その事は気になさらないで。……ポナー様は今度の王家主催の夜会には参加をされますの?」
侯爵夫人が扇子の間から、好奇心を隠し切れない目を光らせながらフィリアを見る。
「ええ、もちろん参加をさせて頂きますわ」
「そうでございますの。王子殿下の事を皆が心配していますでしょう?お元気なお姿をお見せ頂きたいと思っておりますのよ」
(王太子殿下を心配?さっきの婦人達の会話といい、何かあったのかしら?それともこれが前にクリフ様が話されていた噂なのかしら?)
「申し訳ございません、私は存じ上げていないのですが、殿下のお身に何かおありなのでしょうか?」
すると侯爵夫人はとても驚いたように声を上げた。
「まあ!ポナー様はご存知ではないのですか?皆がこんなにも心配をしていますのに!」
同じテーブルに座った婦人達がまたヒソヒソと話を始めた。
「夫人、私は本当に何も存じ上げませんの。意地悪をなさらないで教えて頂けないでしょうか。きっとこの事は私の父も知りたいと思いますわ」
父の名前を出したら、ようやく侯爵夫人はフィリアに近付き、扇子を耳元に当てて話してくれた。
「貴族の間では、王太子殿下が偽物だという噂で持ちきりですわ。第二王子殿下もお体がお弱いですし、次の夜会では第三王子殿下が新しい王太子に任命されると話している者もいますのよ」
「まあ!そんな事が!」
フィリアは何も知らない風を装った。クリフォードが言っていた色々な噂が流れるというのはこの事に違いない。
何も知らないフィリアからは新しい情報が得られないと判断した婦人たちは波が引くようにフィリアへの興味を無くしていった。
元婚約者にまともに相手にされなかったフィリアは、きっと第二王子とも政略での冷えた関係での婚約だと思われている。
婚約して半年経とうとしているのに、一度も共に社交の場に立った事が無いから無理もないし、枯葉令嬢と病弱な王子なのだから、吹けば簡単に飛んでしまうような存在と軽く思われているのかもしれない。
お茶会の後、フィリアは父親に頼んで噂のことを調べてもらった。
主な噂は、王太子が偽物で、似た人間を身代わりにしている。
体調が思わしくなかった第二王子は自分の足で立てなくなり、車椅子が必要なほど体調が悪くなっている。
兄二人の状態を考えると、第三王子が王太子になるだろう。
この三つの噂が主に広まっているものだった。
(この噂は全て合わせると、クリフ様たちが隠していた真実の一部と、今まで偽装していた事、それと全くの嘘とが混ざっているわ)
フィリアは改めて報告書に書かれた、たくさんの噂を読み返してみる。
(でも王太子殿下に成りすましていたのがクリフ様という事だけは、どの噂にも無いのね)
そして噂の中には尾ヒレが付いていて、王太子は既に死亡しているのではないかという王太子の死亡説と、王太子・第二王子が共に暗殺されたという王太子と第二王子の死亡説まであった。
さらに第三王子は優秀だ、隣国の王女との婚約は第三王子に変わってしまうのではないかといった第三王子の評判を上げるものも多くあった。
フィリアは報告書を机に置く。
(噂の広まるスピードが速いわね。それに王太子殿下やクリフ様が死亡したなんて、噂の段階でもよく平気で話せるわね)
伯爵邸で会って以来、クリフォードとは会えないどころか、クリフォードからの手紙も送られてこない。
フィリアからは何度か当たり障りの無い内容の手紙を送ったが、手紙への返事は無かった。
そして夜会の一週間前になると、贈り主の記載が無いドレスがフィリア宛てに届いた。
クリフォードの瞳によく似た濃い青色のドレスで、裾には銀糸で繊細な花模様の刺繍が施され、腰には濃い茶色のリボンがアクセントとして付けられていた。
(ウエストのリボンは、クリフ様の髪のお色にそっくりだわ)
ドレスには淡い黄色のメッセージカードが添えられてあって『愛しい貴女へ、当日お会いできる事を待ち遠しく感じています』と青いインクで書かれていた。
社交をマメにこなしていればもっと早く噂を知れたのだろうが、ついこの間まで第三王子に冷遇されていて、気弱で将来性の薄い第二王子の婚約者をしているフィリアへは夜会もお茶会も招待がほとんど無い。
それは父に頼まれて参加した茶会で耳にした噂だった。
近々ポナー家の資金提供で始まる大聖堂の改修、その事業で指揮を取る侯爵の夫人が開催した茶会は、年齢の高い女性の参加が多かった。
フィリアは自分と同世代の女性には良い思い出が無いので、落ち着いて参加が出来ると思っていた茶会だった。
席に着くと、同じテーブルに座った年配の婦人達がフィリアを見てヒソヒソと何事かを話している。
(婦人の集まりだからと言われて来たけれど、嫌な感じの茶会に来てしまったわ)
そう思いつつも表情を崩さずにフィリアはお茶を頂く。
「―――王太子殿下の……でも皆が話しているわ。――だから……ではないかしら?」
「第二王子殿下は……けれど……あの方は……元が、ねぇ」
(王太子殿下とクリフ様の事を話しているのね。あのご婦人方はワザと私に聞かせて反応を見たいのかしら?)
そこへ主催者の侯爵夫人がテーブルにやってきてフィリアに声を掛けた。
「ご機嫌よう、ポナー様。伯爵には幾度も我が家で主催した夜会にお招きしていたのですが、お忙しいようで残念に思っていましたの。けれども本日はご令嬢が私のお茶会に来て下さってとても嬉しいですわ」
伯爵である父親が上位の侯爵の誘いを何度も袖にしている事が、夫人はお気に召さないようだ。もしかしたら、今日は少しイビられるかもしれない。
「恐れ入ります。父が不義理をしてしまったようで、大変申し訳ありません」
フィリアは素直に侯爵夫人に謝った。
「その事は気になさらないで。……ポナー様は今度の王家主催の夜会には参加をされますの?」
侯爵夫人が扇子の間から、好奇心を隠し切れない目を光らせながらフィリアを見る。
「ええ、もちろん参加をさせて頂きますわ」
「そうでございますの。王子殿下の事を皆が心配していますでしょう?お元気なお姿をお見せ頂きたいと思っておりますのよ」
(王太子殿下を心配?さっきの婦人達の会話といい、何かあったのかしら?それともこれが前にクリフ様が話されていた噂なのかしら?)
「申し訳ございません、私は存じ上げていないのですが、殿下のお身に何かおありなのでしょうか?」
すると侯爵夫人はとても驚いたように声を上げた。
「まあ!ポナー様はご存知ではないのですか?皆がこんなにも心配をしていますのに!」
同じテーブルに座った婦人達がまたヒソヒソと話を始めた。
「夫人、私は本当に何も存じ上げませんの。意地悪をなさらないで教えて頂けないでしょうか。きっとこの事は私の父も知りたいと思いますわ」
父の名前を出したら、ようやく侯爵夫人はフィリアに近付き、扇子を耳元に当てて話してくれた。
「貴族の間では、王太子殿下が偽物だという噂で持ちきりですわ。第二王子殿下もお体がお弱いですし、次の夜会では第三王子殿下が新しい王太子に任命されると話している者もいますのよ」
「まあ!そんな事が!」
フィリアは何も知らない風を装った。クリフォードが言っていた色々な噂が流れるというのはこの事に違いない。
何も知らないフィリアからは新しい情報が得られないと判断した婦人たちは波が引くようにフィリアへの興味を無くしていった。
元婚約者にまともに相手にされなかったフィリアは、きっと第二王子とも政略での冷えた関係での婚約だと思われている。
婚約して半年経とうとしているのに、一度も共に社交の場に立った事が無いから無理もないし、枯葉令嬢と病弱な王子なのだから、吹けば簡単に飛んでしまうような存在と軽く思われているのかもしれない。
お茶会の後、フィリアは父親に頼んで噂のことを調べてもらった。
主な噂は、王太子が偽物で、似た人間を身代わりにしている。
体調が思わしくなかった第二王子は自分の足で立てなくなり、車椅子が必要なほど体調が悪くなっている。
兄二人の状態を考えると、第三王子が王太子になるだろう。
この三つの噂が主に広まっているものだった。
(この噂は全て合わせると、クリフ様たちが隠していた真実の一部と、今まで偽装していた事、それと全くの嘘とが混ざっているわ)
フィリアは改めて報告書に書かれた、たくさんの噂を読み返してみる。
(でも王太子殿下に成りすましていたのがクリフ様という事だけは、どの噂にも無いのね)
そして噂の中には尾ヒレが付いていて、王太子は既に死亡しているのではないかという王太子の死亡説と、王太子・第二王子が共に暗殺されたという王太子と第二王子の死亡説まであった。
さらに第三王子は優秀だ、隣国の王女との婚約は第三王子に変わってしまうのではないかといった第三王子の評判を上げるものも多くあった。
フィリアは報告書を机に置く。
(噂の広まるスピードが速いわね。それに王太子殿下やクリフ様が死亡したなんて、噂の段階でもよく平気で話せるわね)
伯爵邸で会って以来、クリフォードとは会えないどころか、クリフォードからの手紙も送られてこない。
フィリアからは何度か当たり障りの無い内容の手紙を送ったが、手紙への返事は無かった。
そして夜会の一週間前になると、贈り主の記載が無いドレスがフィリア宛てに届いた。
クリフォードの瞳によく似た濃い青色のドレスで、裾には銀糸で繊細な花模様の刺繍が施され、腰には濃い茶色のリボンがアクセントとして付けられていた。
(ウエストのリボンは、クリフ様の髪のお色にそっくりだわ)
ドレスには淡い黄色のメッセージカードが添えられてあって『愛しい貴女へ、当日お会いできる事を待ち遠しく感じています』と青いインクで書かれていた。
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