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現実編

温度差

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マイズの優しい治癒魔法はおれ以外も感動させていた
やり方はみな知っていても、ある程度はできても…知識と技量が無ければひどい火傷を完治させることはできないから
多くの蝶が美しく舞う中で大丈夫だと、微笑み…治癒魔法を施してくれるマイズは誰が見ても生きる女神にしか見えなくて…レオンハルト殿下もラッジ先生もその美しさと奇跡の光景に言葉を失って…イグニスなんて途中から拝んでたな…


マイズの宣言通りおれの火傷はまるでなかったかのようにその場で治癒された
先ほどまで感じていた激痛が嘘のように、痕の一つも残らず治癒してくれたのだ


「何これ、天才すぎるっ…!ありがとうマイズ!」
「わっ…!?ちょっと大げさですよ?ルディヴィス…!!無事治癒できてよかった…痛みも無さそうですね…?」


思わず感動のあまりマイズを抱き締めてしまったが、それでも全然痛くない…凄すぎる
シャルティが心配する危険すら無いほど痛くも痒くもない…素晴らしいとしか言えない

暫く美しい奇跡の感動に浸りつつ、レオンハルト殿下に抱えられていたシャルティの唸る様な小さな声を聞いて、聖女の事を忘れていたとみんな思い出した
聖女が何かをしてシャルティを暴走させた可能性がある…それを聞き出さないといけない


他の生徒は既に各自教室に戻っており、ラッジ先生も同伴しおれたちも保健室に向かった






………………
…………
……


「…のに!ぐずっ……あたしは何もしてないの…シャルティ様が…ううっ………急に…………わかってよ………じゃない!」

「それ………にならないんだよ?正直に何………してくれ…………」


保健室へ着くと、部屋に入る前から聖女の泣き声が響いてくる…まるでヘルリに何をしたか事情を確認した時と同じような声だ
授業中は従者控室にいるマイケル、ヘルリも合流し、保健室の前でラッジ先生と現状の確認をする

まだ気絶しているシャルティは話せないためマイケルとマイズに付き添いを任せ、当時近くにいたレオンハルト殿下と、聖女と同じ班だったイグニス…そしておれが室内に入る
聖女と接触を拒否しているヘルリにはサングイス公爵家に向かってもらう事にした


「いいか、当事者からの確認の意味も込めて同伴はさせるがあまり事を荒立てるな…前のルディヴィスの従者に対する事もあったからな…
その時は教員で対応していたが、2度も同じ様な…魔力暴走のような事が起こるのはおかしい
だからこそ、お前たちの同伴を許す…わかったな?」

「もちろんです…直接聖女様の言い分を聞いてみたいんで…静かにしてます」


前回ヘルリが暴走した時も対応してくれたラッジ先生の言葉には、聖女を信じていると言うより何か疑っている…そんな雰囲気があった
保険医の先生は乙女ゲームサポーターとしての登場人物、ラッジ先生はおれと同じ名前も出ないモブ…
それが関係しているかはわからない…でも、合同魔法演習と言うストーリーでこんな展開になる事は決して無かった

あの乙女ゲームではシャルティが意図的に暴力を振るったと謹慎を言い渡されるがそれを肩力で捻じ曲げて有耶無耶にする、それで終わりの筈だから



ラッジ先生がおれたちを見て頷き、保健室の扉をノックする、その直後「どうぞ」と声を掛けられ室内に入室した

中には椅子に腰掛け聖女に向かい合う保険医の先生と…壁際になんとも言えない顔をして立ち尽くすネオイグニスくん…そして、ベッドに寝た状態で震えながら涙を流す聖女がいた…レオンハルト殿下達の顔をみた瞬間嬉しそうな顔をした聖女が………



「レオンハルトくん!イグニスくん!お見舞いにきてくれたの…!?」


急にガハッと起き上がり、そんな言葉を平然と言える聖女がいた





まさかの聖女の反応に誰もが半歩後ろに下がり引き返したかったのか、おれを含め歩行が一瞬止まる
聖女の言葉にレオンハルト殿下達は何も答えず、ラッジ先生が前に出てくれた



「ルチア、その様子だと怪我は無かったようだな?先程も別の先生に事情を聞かれたとは思うが、俺の方でも聞きたい、早速だが何が起きたか話してくれるか?
ああ、後ろの3人は気にするな…とりあえず先ほど何があったか、正直に話せ」


「………え、…はい…怪我は無いです…大丈夫です…
…………っ、あの時…さっき…は……えっと………うっ……うう………シャルティ様が、あたしに火炎魔法を使おうとしたんです…下賤な庶民って言って…」


「……………それが本当なら大事だ
然るべき対応の為に詳しく聞かなければいけない…ルチア、シャルティから攻撃されそうになる状況…何故そうなった?」



先生の然るべき対応をしてくれる、その言葉に気を良くしたのかヘルリの時と違い、泣きじゃくりながらも聖女は説明を始めた
聖女が涙を零しながら説明する姿をみんな誰も口を挟まず聞く…



「………っひっく………シャルティ様はあたしが憎いんです…たぶん…っううっ……あの時、シャルティ様が急にあたしを睨んで…そして、近づいてきて…
つっうう、耳元で下賤な庶民が高貴な方に近付くなって…言われて…それで、それで………

皆とただ仲良くなりたいだけなのにって、ひっく、いったら、うううっ………急に火炎魔法を放とうとしてきて…咄嗟に防御魔法を唱えたらあんな事に……っ!!うわぁああんんんこわかったよぉおおおおーーーー!!!」


聖女がベッドに伏せるように泣きじゃくり始めた、その光景を見て保険医の先生は大丈夫です、良く話してくれましたと背中を擦る
でも、おれを含め他のみんなは一歩も動かない
何故だろう、おれもラッジ先生も現場を見ていない…レオンハルト殿下達も実際の現場をどこまで見ていたかはわからない…

けど、聖女を可哀想、哀れだと思っているのは保険医以外いないような…異様とも言える温度差を感じていた






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