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現実編

癒しを拒む者

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魔力暴走のような症状を見せていたシャルティが他の誰かを傷付けること無く、なんとか救うことに成功した
完全に鎮火を確認した所で野次馬になっている生徒が大勢いる中、人混みをかき分けてレオンハルト殿下が先生を連れてきてくれたのが見えてホッとする

よかった、そんな気持ちが込み上げてくる
でも、この現場で起きた全部の状況を知らないおれがなんて説明したらいいか…
どう説明しよう…

そんな事を考えつつ、気絶したシャルティを抱え直し、聖女の方を見ると知らない間に怯えて泣きじゃくるような感じの姿になっているのが見えた

何してんだよ、泣きたいのはこっちなんだけどな…?




「先生、こっちです!ルディヴィス!!連れてきたぞ!大丈夫か!?って………お前…それ………っ、」


「シャルティが大変だと聞いたが、一体何があった!?………おい、ルディヴィス…その顔と腕…!?」



2人が何かを見て真っ青な顔になってる
視線の先にはおれの顔と腕…
顔と腕?その部分になんかあっただろうか…?シャルティを救うのにどうしても近寄らなきゃいけないから熱いの我慢して行ったけど…
そう言えば顔と腕だけえらくズキズキする…なんでだろうな…?確認したくてシャルティを抱きしめてる腕を見ると、手先から服を着ていた腕部分まで真っ赤に焼けただれていた
所々立派な水ぶくれもできてて痛い


うわぁ……普通に結構火傷してたのか…
流石シャルティ、常時消火する気持ちで触れたし、水の膜に熱が籠もらないようにしてたのにここまでこんがり焼くとは…相変わらず、すげぇ火力高いな…流石おれの義妹天才だわ



「レオンハルト殿下……先生……おれはただ痛いだけなんで、なんとか大丈夫です…たぶん」



なんて考えてる場合じゃない、本気で痛いはずのに、痛みは何故か他人事にしか思えなくて…

頭に浮かぶのは、おれの後ろで泣きじゃくる見た目の聖女がシャルティに何をしたのか…そればかり
その事のほうが気になってどうしようもないんだ…


おれの顔とか手なんてどうでもいい…こんな人目につく場所に聖女とシャルティが居ることが嫌だ…
火傷がどうこうって、そんな事よりもシャルティを早くこの場から連れ出して欲しかった



「ルディヴィス…!一人にしてごめん…ごめんな…つっ」


レオンハルト殿下がすごく苦しそうな表情でおれを見て、側に駆け寄ってきてくれる…そのまま一緒にシャルティを支えてくれるのが嬉しい…
大丈夫だよって、レオンハルト殿下のお陰で先生が来てくれてるんだとちゃんと伝えたら、男前な顔で若干涙目になってた


ざわざわと周囲が何かを話すのが聞こえる…「これはどういう状況なんだ?」「シャルティ嬢が叫んで、暴走して…」「聖女様はなんで泣いているんだ…?」

「どちらが問題を起こしたんだ…?」
そんな声が聞こえる…………野次馬と化した生徒にこの現場を見ていられる状況
場で起きた事実を想像と空想で可哀想に見える方が正義になる、そんな感じに捻じ曲げられそうで嫌だ………


今直ぐに大声でおれが聖女が悪いって叫べればいい…でも確実な証拠を含めて状況がわからない今叫んで事態が収束するか?…いや、しない
おそらく聖女がなんかした、それだけでは弱いんだ…
変な噂を立てられたくない、聖女に有利な話が生まれればシャルティが傷付く可能性がある…確実な証拠を集めているこの段階で不確かな事を起こしたくない…てか野次馬連中、この状況を見ないで欲しい…




そんなおれの気持ちに気づいたのか、先生が声を上げてくれた




「全員!!!、今は授業終了までの待機時間だ!各自チームへ戻れ!!!見世物なんてここには無い!!!何が起きたか調査するのは教師の仕事だ!
わかったか!!!
さっさと戻れ!減点対象にするぞ!

…………はぁ、全く大丈夫じゃないのはわかった…だが話を聞くにも移動するにも…その大怪我のままでは何かとあれだ…そのレベルの火傷ってなると保険医でも楽に治癒できるもんでもない…聖女ルチア、お前応急処置程度に治せるか?」



先生の言葉にビクリと怯え、おれとシャルティ、そして聖女に、近しい存在であるもの以外がわらわらと各々のチームに戻っていく…良かった…流石です先生っていいたかったのに
全然別方向に先生はとんでもないことを聖女に言った


先生は善意で言ってくれたのかもしれない、聖光魔法は奇跡を起こす力、唯一の強い治癒の光だから

けど…聖女の顔見えてます?
先生は知らないだろうけど、どう考えても自分がヒロインである、乙女ゲームの進行を妨げてる存在を救えって要望に聖女から答えは中々返って来るはずがない
むしろ火傷してその顔でレオンハルト殿下の婚約者できるわけないじゃない!ざまぁみろ!とか思ってるかもしれない…これはおれの想像だが




「え、………その……あたしの力………じゃ………」


って感じにキョロキョロ目を動かしながら…
さっきまで俯いていた顔を上げれば、泣いたフリってバレそうなくらい何も流れてない瞳でおれと先生を交互にみている…そんな風に見えた
そんなに救いたくないなら救わなきゃいい…無理って言っていいんだよ?
レオンハルト殿下も頼むとか聖女に言わないのはヘルリの事、これまでの情報収集で彼女に違和感を持ってくれてるからだろう

というかシャルティを悪役にする聖女に治癒されるくらいなら、火傷のままでいい…触れないで欲しい
そんな気持ちになる



何もはっきりとした返答が返ってこず、先生がもう一度聖女に治癒を頼もうとした時、その言葉を止めながらマイズが来てくれた







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