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乙女ゲーム編
モブとしての兄
しおりを挟む何で今になって色々悩むんだろうか
どう見ても始まってる悪役令嬢がいる乙女ゲームの世界で…
おれは…おれは…
「……………みんな…今からものすごく変な話をする…信じるか信じないかは皆の自由だ…それでも、聞いてくれるか…?
…………おれは…この物語の…乙女ゲームの世界にいた悪役令嬢の兄…モブなんだ…本当は顔すら出ることの無い悪役令嬢と一緒に一家もろとも断罪される運命のただのモブ…
それがぼく、ルディヴィスという男…そして、その中にいるおれは…この世界の人間じゃない…別の世界で死んでルディヴィスに生まれ変わったルディヴィスじゃない誰かなんだ…」
何を言っているんだと、真剣な話に馬鹿げた事をいわないでくれと…そう言われるかもしれないと思ってた…でも…みんなが、静かにおれの話を聞いてくれる
おれがこの世界を思い出した日のことを、この世界がとある乙女ゲームと言われるゲームの世界だと言う事を…
始め、おれは自分がモブとして名前だけ出て死ぬ悪役令嬢の兄である事を知って断罪されたくないと思ったから
でも…実際に出会った義妹のシャルティが可愛くて愛おしくて…こんないい子が悪役令嬢となり破滅する未来を変えて救いたかった
だからこそ、これまで色々動いてきたんだ…
レオンハルト殿下が投げたグラスがシャルティに当たらないように庇った事…変わりに婚約者候補としてシャルティを守れるんじゃないかと考えていた事も
ヘルリが家に迷い込んできた時に可愛がりまくっておれたちを食べたくないと思わせたかった事も…マイズを最初女の子だと思って話しかけてた事も…光に魅入られて狂信者にならないよう誘導した事も…イグニスが本当は最も早い時期に悪役令嬢のシャルティに契約させられる未来を変えてしまって、自宅で辛い思いをしていたと思った事も…
全部、全部話した
今、話さなきゃいけないとそう思ったからだ…
でも、話していく内に胸に広がるのは妹に見せられてきた攻略対象者とヒロインである聖女の幸せなハッピーエンドのスチル…楽しそうに、幸せそうに、心から救われて愛おしそうに聖女と過ごすみんなの顔なんだ…
おれがこれまでしてきた事、それが全て自分が断罪に巻き込まれないようにする為の足掻きなんじゃないのか…?それも本当のルディヴィスだけどルディヴィスじゃない…異物な存在の足掻きなんじゃ?
全部、全部…シャルティを救う為って、みんなの為って思いつつ、聖女との幸せな未来を邪魔しないなんて言って邪魔してたんじゃないのかって
これまで一緒に過ごしてきて、レオンハルト殿下もヘルリもマイズもイグニスも…攻略対象者である筈のみんなは、この乙女ゲームのモブであるおれに優しくて…信頼してくれているのがわかるからこそ迷うんだ
この世界が乙女ゲームと知ってて、みんなの気持を弄んでいるような気持ちになるからこそ…
「………みんな、ごめん
ぼくは…おれは…悪役令嬢の兄なのに…本当はみんなと会話しているような立場でも無いんだ…出しゃばってごめん、ヒロインである聖女様がみんなを救ってくれる未来を邪魔してるのはおれだ…みんなはこっちにいちゃいけないんだ…っ………」
段々と自分が何を言ってるのか分からなくなってきた…なんでここに呼ばれたんだっけ?何の話をしてたんだっけ?
そうだ、シャルティがやってもいない罪で悪役令嬢にさせられそうで…それだって聖女が悪役令嬢が居ないからって困った末にやった事なんじゃないのか?おれが原因なんじゃ…ないのか…………?
理由もわからずごめん、ごめんと言い続けるおれをみんなが冷たい目で見ている気がした
バチンッ!!!
頬に急に痛みが走って…前を向いたら泣いてるシャルティがおれを見ている…手を振り上げてまるで何かを叩いたような…
おれ、シャルティにビンタされたのか…?
「しっかりして下さいまし!お義兄様!!!
先程の聖女様の発言を聞いて居なかったのですか?やってもいない事を人の罪にする、無実の人を邪魔だと排除しようとする、そんな人間が本当に人を幸せにできると思ってるのですか?
お義兄様、私はお義兄様に救われました…あの日、初めてサングイス公爵家に行った日に…私を不義の子と思わず受け入れてくれたお義兄様、貴方に救われたのです
それが例え、話されていたゲームという物語上知っていたことでも、私の巻き添えで断罪される未来から己が逃れる事が目的だったとしても…
あの日、私を受け入れ…確かに可愛い妹として愛して下さったのは本心じゃ無いのですか…?
ここに居る皆さんの笑顔を取り戻したのは…お義兄様なんです…関わっちゃいけないとかではありません!…あなたが皆さんを大切に思ってる心があるから…だから救おうとしたんじゃ………ないんですか………?」
泣きながらおれにしがみつくように項垂れるシャルティを抱き止める…シャルティの言葉が何度も頭の中に響いていく…
「っ……………だ………みんな、大切なんだ…
最初はシャルティに酷いことしないで欲しい…ってついでにおれも断罪されないように友達になって…わかって貰おうって…そう思ったんだ…でも、でも…
道を踏み間違えそうになってるのほっとけなくて…笑顔でいて欲しくて…レオンハルト殿下もヘルリもマイズもイグニスも……みんな辛い過去乗り越える強さがあって、本当はすごくいい奴で…みんなの事大切で大好きなんだ…
これまでおれがみんなにしてきた事も言ったことも…全部嘘じゃない…!本当なんだぁ………!!!」
そう言った瞬間、レオンハルト殿下達が取り囲むように泣きながら抱き合うおれたちを抱きしめてくれる…それが嬉しくて、嬉しくて…
こんなに泣いたのはいつぶりだろう
そう思えるほど涙がどんどん溢れて止まらなかった
マイケルがおじさんを泣かせないで下さいってみんなの頭を撫でてるのも嬉しくて泣いてしまうほどに………
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