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学園編
光の聖女
しおりを挟むついにこの世界に聖女が現れてしまった
本来嬉しいことの筈なのに、おれは素直に喜べなかった
皆との別れがまた一歩近づいた事を受け入れたくなかったからだ
国も街も現代の聖女の出現に沸いている
光の聖女とは、この乙女ゲームのヒロインはそれだけこの国にとって大きな存在
乙女ゲームでの聖女の知識しか持ち合わせていなかったおれは、昔、父様と母様に聖女様とは何か聞いたことがある…今…その答えを聞いた時の衝撃を思い出した
光属性の魔力のさらに上、聖光と呼ばれる魔力を持った人間が聖女と呼ばれる
この国の何処かに現れるその人は、女神の祝福を受け生まれてくるのだと、見た目も髪色もその時々で様々だが皆美しい空色の瞳をしているらしい
そして、魔力を生まれたばかりの赤ん坊にまで危険なく付与できる唯一の存在…それが聖女
本来自分の魔力が馴染む10歳を超えるまで、他人の魔力を受けると副作用しか生まないが…光の聖女と呼ばれる存在が使う聖光という魔力はその副作用が無い
幼く死にゆく可能性がある子に外科的処置に合わせて魔力による治癒も行える唯一無二
そして強い光の魔法は国を明るく照らし祝福を与えるのだという…だからこそ貴族に保護され、最終的に教会で聖女として崇められるか又は王家に入り国母として国を照らすかそのどちらかになる方が多い
先代の聖女が役目を全うするとその数年後新たな聖女が生まれる、それはこの国でずっと続いてきたサイクル…変わらない流れなのだと父様は言っていた
あと3年、せめて2年聖女が現れなければここは乙女ゲームの世界で無かったのに…新たな聖女の出現に沸き立つ周囲と裏腹におれは内心そんな事を考えてしまう
聖女と攻略対象の恋を邪魔するつもりなんてないのに…今の楽しいこの時間が続いてほしいと思ってしまう…素直に喜ぶことが出来ないおれは確かに悪役令嬢の兄だった
現代の聖女様は噂によると直ぐに教会には入らず、保護されたレルム伯爵家で過ごすことを希望しているのだと言う
ペトラさんの実家…忘れた頃に不義の子という話題を未だに引きずる執着の強いペトラさんの弟が当主を務める場所に聖女はいる
レルム伯爵家が何を言うかで、少しだけ面倒なことになりそうだなと…そう思ってしまうのはしょうがないと思う…
おれと一つ違い、聖女もおれの一つしたと言うことは聖女はシャルティと同じ学年になる
その事を考えるとシャルティには少しだけ忠告した方がいいと思った
何かを考えるおれをヘルリがじっと見ていたことなど知ら無かった、シャルティを呼んで欲しいと伝えると直ぐに対応してくれる
暫しの間が空き、見慣れた可愛い義妹がおれの部屋に入ってくると思わず笑顔になってしまう
乙女ゲームで見たことがある姿と随分違って優しく美しく成長したシャルティの笑顔は本当に見ていて癒されるのだから
「お義兄様、ご用事があると聞きましたわ、どうされたの?」
「忙しい時にごめんねルティ、こちらにおいで…
ヘルリ、ごめんちょっと2人で話したい内容なんだ…席を外してもらえるかな…?」
攻略対象者であるヘルリには言えない、そう思い退席を願うと何かあれば呼んで欲しいと言い疑う事なく退室してくれた
二人きりになった室内でシャルティを手招きし、おれが座るソファの隣を促す
女性としては大きめでスタイルのいいシャルティは、一見するとおれと双子の様に見えそうなほど似通った顔をしている事にこの時改めて気付いた
父様の弟の子…それでもここまで似ることもあるんだな…それを踏まえてもちゃんとシャルティにあるかもしれない未来を伝えておかないといけない
「お義兄様…今日は難しい顔をされてますのね?大丈夫ですか?」
「大丈夫、ねぇ…ルティ…これから大切な話をしたい、もしかしたら受け入れられないかもしれない…でも聞いてほしいんだ」
おれの意味深な言葉に少しだけ眉をひそめるが、しっかりと頷き、シャルティはおれと向かい合う
よく考えたらおれだけじゃない、シャルティにとっても辛い未来がこれから訪れる…その時互いを支え合えるのはおれたち義兄妹しかいない
ゆっくりと深呼吸し、シャルティの美しい赤い瞳を見る、見た目は随分と違うのにその瞳は確かに乙女ゲームの悪役令嬢そのもので少しだけ悲しくなってしまった
「シャルティ、来年学園に入学するだろう…?そこに聖女様も来られる、もしかしたら心優しい聖女様はレオンハルト殿下をマイズをヘルリを…イグニスさえも傷付いた心を救ってくださる可能性がある
皆がもしかしたら聖女様に恋をする可能性があるんだ…
だから…だから…………来年、皆が心から救われる幸せの為にぼく達の前から居なくなるかもしれない…これまでのように一緒にお茶会したり、交流したりする事が無くなるかもしれない
もし、そんな未来が来たとしても静かに受け入れてほしい…深入りせずに皆の幸せを願って身を引いて欲しいんだ
レルム伯爵の事もある…だから…だから…………」
ふわりと優しい花の匂いがおれを包んだ
それがシャルティに抱き締められたからだと気付いたのは背中を擦られたから…
おれは、それすら気付くのが遅くなるほど、知らない間に泣いていた…目の前が歪んで見えなくなるほど涙が溢れていたんだ…
「大丈夫、大丈夫ですわ…お義兄様…ルティはお義兄様の気持ち、ちゃんと分かっています
お義兄様が皆と一定の線引きをして接していた事も気づいています、誰よりも皆の幸せを願ってたこと分かっています…
未だに私を疑うお母様の実家がどんな手を使うか分からない中リスクを犯してまで、幸せになる皆を引き止めるなんてこと、ルティはしません
皆と離れ離れになるのは悲しい…でもそれ以上に皆の幸せを願ってるのは私も一緒です」
年下の筈のシャルティはおれよりも大人だったのかな?情けない義兄は妹の胸を借りて久々に大泣きしたのは言うまでも無い…
聖女様、おれ達義兄妹は乙女ゲームを邪魔しない、だからおれ達を巻き込まないで欲しい
攻略対象者を本当に幸せにできるのはあなただと分かっているから…
そして、シャルティが断罪される未来だけは可能性すらも潰して、優しいシャルティには幸せな未来を歩ませてあげたいんだ
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