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学園編
変わらない運命
しおりを挟む「バイゼル近衛騎士団長は仕事が出来る男ではあったが…先日の鍛錬の場での話と、自宅でのこの話が本当なら放ってはおけないね…こちらで契約という形で保護するのも障害は少ないはずだ
本当に、ルディヴィスの行動力はどこからくるのかな?とりあえず、イグニスくんの事は任せなさい
何故だろうね…ヘルリが家に来た時の事を思い出したよ」
「父様…ご迷惑を掛けてしまいごめんなさい…でも、イグニスのことありがとうございます…」
放課後、イグニスをサングイス家に招待し、父様に事情を説明する
大見得を切ったけど、おれはまだ未成年…自分だけで解決するには難しい事ばかり…また頼ることになってごめんなさい父様…
謝るおれの頭を撫でる父様…この年になっても父様に頭を撫でられるのは安心する…
おれの話を聞いて助けてくれる父様は本当に尊敬出来る素晴らしい人だ
ゲームでの父様はどんな人だったのだろう…おれと同じで、ほとんど話に出てこなかった事はなかったと思うが…上手く思い出せない…ペトラ母様の事も…
こんなにも素晴らしい人たちの別の姿が想像できなかった
おれがイグニスの件について父様と話をしている間、応接室からはシャルティの楽しそうな声が聞こえる
学園の先輩になる存在が遊びにきてくれたのだから気になるのも仕方ない、イグニスを友と紹介してよかったな…あの声からするに、仲良く慣れたみたいだ
「ルディヴィスが人を守ろうとする気持ちが強い子なのはわかっている、大丈夫だよ
貴族として各々信念がある、他人の家庭に踏み込む事は余り良くないとされているが…そんな事を言っていられない状況があるのも確かだ
未来を担う子を守る法の充実…それが現実に出来ないか陛下や貴族員で話してもいる、各貴族の家々での風習が邪魔をして実現まであと数年はかかるだろうが…しかし、その足掛かりを作ったのはルディヴィス、お前なんだよ」
父様の言葉に胸が熱くなるのを感じた
子を守る法の整備、これは乙女ゲームの世界じゃ聞かなかった言葉だ…その足掛かりを作ったのはおれ…
おれの行動は何かを変えるキッカケになれている事が嬉しかった
…………………
…………
……
その数日後、バイゼル近衛騎士団長がサングイス公爵家に呼ばれ、話し合いがあった
イグニスには商人としての資質が高いと、公爵家でその才能を活かし開花させてみてはどうかと父様が提案する
その提案にバイゼル近衛騎士団長は多少渋りはしたが、公爵家とのある意味深い繋がりを持てる機会を棒に振る判断はせずイグニスを任せてくれた
乙女ゲームとは違い悪役令嬢の騎士としてでは無く、悪役令嬢の兄であるおれと契約し、幼い頃から石の研磨に魔力使ったりと、魔力の使い方斜め上と褒められているおれと一緒に公爵領で特産品開発を行うと売買に関わる事になったのだ
勿論住む家もとりあえず公爵家にある、使用人の部屋に引っ越し、あの訓練と鍛錬を強制される生活からイグニスを物理的に救い出すことに成功した
実の子に過激な訓練の強制…それについてバイゼル近衛騎士団長が何か処分を受けたわけではない…その家の家訓、教育方針と言われてしまえばそうだからだ…
細かいメンタル部分は来年入学してくる聖女に任せよう、考え方を変えると攻略対象者を救うために奮闘する聖女もまた被害者なのか…いや、イケメンと楽しく過ごしながら恋をするんだら別にそうじゃない?
今だと悪役令嬢いないし…なんの苦労も無く学園生活送るんだから普通に幸せなんじゃないか…?
とりあえずイグニスは自分の夢を掴めるスタートラインに立てたし、悲惨な訓練祭り生活から脱出出来て喜んでたし、これでよかったと思う
「ルディヴィス様、嬉しそうですね?」
「ん?わかる?色々落ち込んだりしたけどイグニスを辛い状況から助け出せてよかったなーってしみじみ思ってたんだ
ヘルリ、色々ありがとうね…あと心配かけてごめん…もう大丈夫だから」
本当にもう大丈夫、そうそう何があってもおれは動じない…迷わずに生きていけると思う
おれの言葉にヘルリは微笑み、休憩してくださいと紅茶を用意してくれる
ヘルリの淹れてくれる紅茶はなんだか優しい味がしてすごく好きだ…
この紅茶を飲めるのもあと少し…来年には…
そう、聖女に恋したヘルリがサングイス公爵家を出ていくって日が来ると思うと良くないことを考えてしまいそうになった
もしも、このまま聖女が現れなくて…乙女ゲームの世界じゃなかったら良いのに
ヘルリがおれの従者で、レオンハルト殿下とマイズとお茶会できて…イグニスがおれと商売をするような…そんな未来
皆と…さよならしなくて、シャルティが笑って過ごせる日がずっと続いたら幸せなんだろうな…
クソ妹が自慢気に見せてきた乙女ゲームのスチル…攻略対象と聖女の幸せそうな笑顔が脳裏を過る
あの笑顔を、心から攻略対象のみんなを救えるのは聖女である彼女だ…ある筈の幸せを奪うような考えは良くない…けれど…
おれは想像以上に皆を失うのが怖いほど友として好きになってしまっているんだ
考えちゃいけない
悪役令嬢サイドである、おれたちに出来ることは聖女に救われるみんなを見守り、その前から消えること…
それがシャルティを確実に救い、おれも家族も死ぬあの悲劇を生む可能性をゼロにする方法でもある
なのに、どうしてこんなにも苦しいのだろう…
ここが乙女ゲームの世界でありませんように
そう、心の中だけで日々祈り続けてしまうおれを許してほしい
しかし、運命はそう変わらない
イグニスが我が家に来てから1ヶ月後…レルム伯爵家が今代の聖女を保護したと教会より発表があった
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