悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ

文字の大きさ
上 下
35 / 171
学園編

再会と境遇

しおりを挟む





イグニスに初めてあって泣いたあの日から数日後、貴族科と騎士科は第一校舎、第二校舎みたいに別になっているらしいと聞き、ヘルリに騎士科について調べてもらいイグニスに再び会いに行くことにした


同年代の国中の貴族、魔力保持が高い特待生、そして他国からの留学生も多く通うこの学園は、おれが想像しているよりもマンモス校だったのだ


乙女ゲームの舞台になる、自分が通う貴族科しかちゃんと見ていなかった事に気付いた瞬間でもある
ヘルリやマイズに知らなかったのかと驚かれ、言われたのは…この人数だもの、科が違えば一度も顔を合わせることなく卒業する事も多いというすごい事実

そうだよな…貴族科だけで校舎1つ使ってるって事に今、初めて気づいたよ…やっぱり乙女ゲームの世界かもって固定概念が良くなかった
ここは現実、周りをこれからはもっと見ていこう
学校案内…そう言えば父様と母様が見せてくれたのにほとんど読んでなかったわ…ごめん


「ルディヴィス様、依頼されていたイグニス様のクラスですが騎士科1年3組ですね
貴族科とは鍛錬場を含む共有スペースで、一応同じ敷地内にはありますが、偶然出会うのは難しそうです
鍛錬場で再会はと言われてましたが、先日のイグニス様が倒れた件を保険医の先生始め、教員でも重く見ているようで生徒のみでの鍛錬場使用は騎士科で現在中止されたと聞きました
なのでとりあえずイグニス様本人とコンタクトを取り、今日昼食にお時間を貰ってます」


「お、お……うん、ありがとうヘルリ
え、仕事早くない?ぼく今朝頼んだのにまだ1限終わった直後だよ…?うちのこすごい…」


まじでうちのこすごい…アポ取ってくるの早くない?凄くない?おれが色々学園のこと知らなかったわ、やばいわしてる間に…なんて優秀なんだろう…!

最近、完全に全身獣化も出来るようになったヘルリを今夜は全身ブラッシングして褒めてあげようと心に決めた
おれより年上なのに身長も大きいのにブラッシングされるの好きなのは、やっぱり人狼化魔法が肉体に定着してしまっているからなのだろうか…?




とりあえず、昼にはイグニスに会える…!









…………………
……………
………



昼食の時間、ヘルリが気を利かせて学園内にある小規模な個室を借りてきてくれた
ここなら他人を気にせず話ができると…ありがたい
室内に入ると既にイグニスはおれを待っていて目が合ったら少し笑ってくれた…
怒ってはない…のか…?


「この前は助かった…あ、違うか…
この前は助かりました、応急処置までして頂きありがとうございますルディヴィス様」


「えっと、ルディヴィスでいいよ?話し方も…同い年だし、ここ学園だし…
それより!身体なんとも無さそうでよかった…ごめんねあの日、逃げたりして…」



なんて切り出せばいいのかわからなかったおれに、あの日のたぶん経口補水液とかの事についてお礼を言ってくれるイグニス…

改めて自己紹介して、しっかりと知り合いになれた
確かイグニスは伯爵家だったと思うけどここは学園、自分が良ければ呼ばれ方や話し方に身分は関係ない
互いに名前で呼び合うように、話し方もそのままでいいと伝えてから、あの日…おれが立ち去ってからの話と家での話を聞いてみた



「保険医の先生からあの後聞いたんだ、まさかおれに水飲ませてくれたり、サングイス公爵子息が兄に立ち向かってくれるなんて思ってなくて…
今回の事、学園からも話が家に行ったんだ…
それで兄は今、身内でも暴力に値するって謹慎してる…父さんは軟弱なおれが悪いって怒ってたけど…

おれ、役立たずって言われて兄の影響で友達も居なくてさ…誰かに庇われるの初めてで…
ほんとに嬉しかったんだ…ありがとうルディヴィス」



ちょっと落ち込んだ様子であの日の事を、気になって聞いてみたら、これまでの事も話してくれた
イグニスは前世のおれと所々境遇が被る事がある悲しい男だった


バイゼル伯爵家の現当主、近衛騎士団長である彼の父は相当仕事は出来るけど家族愛が薄い人で、更にイグニスの母は既に儚くなっていて、幼い頃から今とあまり変わらない、鍛錬!鍛錬!な軍人のような思考回路の脳筋の父と、同じ思想に染まった脳筋の兄…そして多くの脳筋使用人に騎士団の部下も転がり込むとんでもない家で育ったのだと



男らしく強くあれが家訓の家で、まずは体作り、そして訓練、訓練…
家族の優しさにも触れられず、魔力の質は良いのに騎士としての才能が薄かったイグニスはずっと話も聞いてもらないまま、罵倒され、日々訓練を強要されて過ごしてきたのだと…

今回の件は騎士科で流れた側近の噂を本気にして酷くなりすぎた結果だったのか
イグニスの方がつらい目にはあってるけど、強要って部分と人の話を聞かないやばい家族がおれの生前とリンクしてしまって悲しかった


伯爵家だが近衛騎士団長にこれまでも歴代で何度も就任している武家であるバイゼル家は、家という名の軍部だったのかもしれない
乙女ゲームの世界でイグニスは脳筋だと思ってたけど家庭環境で脳筋もどきになってしまったんだな…可哀想過ぎる…





おれはここまでの話を聞いて、どうしても確認したいことを聞いてみた
「なぁ…イグニス…その、家にいるの辛くないのか…?お前の現状どう考えても虐待になってる気がして…心配で」


「………虐待…?ってなんだかわかんねぇけど、辛いのかな…泣きそうになる事多いから、辛いのかも…?」




虐待って言葉知らない…のか?いやそれより…
辛いのかもって…そんな…ブラック企業の社畜がよそを知らないからこれはブラックな職場じゃないと思ってるみたいな返答を返さないでほしい

あまりにも可哀想になってきておれは気持ちが押されられなくなっていた





    
しおりを挟む
感想 188

あなたにおすすめの小説

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...