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学園編
再会と境遇
しおりを挟むイグニスに初めてあって泣いたあの日から数日後、貴族科と騎士科は第一校舎、第二校舎みたいに別になっているらしいと聞き、ヘルリに騎士科について調べてもらいイグニスに再び会いに行くことにした
同年代の国中の貴族、魔力保持が高い特待生、そして他国からの留学生も多く通うこの学園は、おれが想像しているよりもマンモス校だったのだ
乙女ゲームの舞台になる、自分が通う貴族科しかちゃんと見ていなかった事に気付いた瞬間でもある
ヘルリやマイズに知らなかったのかと驚かれ、言われたのは…この人数だもの、科が違えば一度も顔を合わせることなく卒業する事も多いというすごい事実
そうだよな…貴族科だけで校舎1つ使ってるって事に今、初めて気づいたよ…やっぱり乙女ゲームの世界かもって固定概念が良くなかった
ここは現実、周りをこれからはもっと見ていこう
学校案内…そう言えば父様と母様が見せてくれたのにほとんど読んでなかったわ…ごめん
「ルディヴィス様、依頼されていたイグニス様のクラスですが騎士科1年3組ですね
貴族科とは鍛錬場を含む共有スペースで、一応同じ敷地内にはありますが、偶然出会うのは難しそうです
鍛錬場で再会はと言われてましたが、先日のイグニス様が倒れた件を保険医の先生始め、教員でも重く見ているようで生徒のみでの鍛錬場使用は騎士科で現在中止されたと聞きました
なのでとりあえずイグニス様本人とコンタクトを取り、今日昼食にお時間を貰ってます」
「お、お……うん、ありがとうヘルリ
え、仕事早くない?ぼく今朝頼んだのにまだ1限終わった直後だよ…?うちのこすごい…」
まじでうちのこすごい…アポ取ってくるの早くない?凄くない?おれが色々学園のこと知らなかったわ、やばいわしてる間に…なんて優秀なんだろう…!
最近、完全に全身獣化も出来るようになったヘルリを今夜は全身ブラッシングして褒めてあげようと心に決めた
おれより年上なのに身長も大きいのにブラッシングされるの好きなのは、やっぱり人狼化魔法が肉体に定着してしまっているからなのだろうか…?
とりあえず、昼にはイグニスに会える…!
…………………
……………
………
昼食の時間、ヘルリが気を利かせて学園内にある小規模な個室を借りてきてくれた
ここなら他人を気にせず話ができると…ありがたい
室内に入ると既にイグニスはおれを待っていて目が合ったら少し笑ってくれた…
怒ってはない…のか…?
「この前は助かった…あ、違うか…
この前は助かりました、応急処置までして頂きありがとうございますルディヴィス様」
「えっと、ルディヴィスでいいよ?話し方も…同い年だし、ここ学園だし…
それより!身体なんとも無さそうでよかった…ごめんねあの日、逃げたりして…」
なんて切り出せばいいのかわからなかったおれに、あの日のたぶん経口補水液とかの事についてお礼を言ってくれるイグニス…
改めて自己紹介して、しっかりと知り合いになれた
確かイグニスは伯爵家だったと思うけどここは学園、自分が良ければ呼ばれ方や話し方に身分は関係ない
互いに名前で呼び合うように、話し方もそのままでいいと伝えてから、あの日…おれが立ち去ってからの話と家での話を聞いてみた
「保険医の先生からあの後聞いたんだ、まさかおれに水飲ませてくれたり、サングイス公爵子息が兄に立ち向かってくれるなんて思ってなくて…
今回の事、学園からも話が家に行ったんだ…
それで兄は今、身内でも暴力に値するって謹慎してる…父さんは軟弱なおれが悪いって怒ってたけど…
おれ、役立たずって言われて兄の影響で友達も居なくてさ…誰かに庇われるの初めてで…
ほんとに嬉しかったんだ…ありがとうルディヴィス」
ちょっと落ち込んだ様子であの日の事を、気になって聞いてみたら、これまでの事も話してくれた
イグニスは前世のおれと所々境遇が被る事がある悲しい男だった
バイゼル伯爵家の現当主、近衛騎士団長である彼の父は相当仕事は出来るけど家族愛が薄い人で、更にイグニスの母は既に儚くなっていて、幼い頃から今とあまり変わらない、鍛錬!鍛錬!な軍人のような思考回路の脳筋の父と、同じ思想に染まった脳筋の兄…そして多くの脳筋使用人に騎士団の部下も転がり込むとんでもない家で育ったのだと
男らしく強くあれが家訓の家で、まずは体作り、そして訓練、訓練…
家族の優しさにも触れられず、魔力の質は良いのに騎士としての才能が薄かったイグニスはずっと話も聞いてもらないまま、罵倒され、日々訓練を強要されて過ごしてきたのだと…
今回の件は騎士科で流れた側近の噂を本気にして酷くなりすぎた結果だったのか
イグニスの方がつらい目にはあってるけど、強要って部分と人の話を聞かないやばい家族がおれの生前とリンクしてしまって悲しかった
伯爵家だが近衛騎士団長にこれまでも歴代で何度も就任している武家であるバイゼル家は、家という名の軍部だったのかもしれない
乙女ゲームの世界でイグニスは脳筋だと思ってたけど家庭環境で脳筋もどきになってしまったんだな…可哀想過ぎる…
おれはここまでの話を聞いて、どうしても確認したいことを聞いてみた
「なぁ…イグニス…その、家にいるの辛くないのか…?お前の現状どう考えても虐待になってる気がして…心配で」
「………虐待…?ってなんだかわかんねぇけど、辛いのかな…泣きそうになる事多いから、辛いのかも…?」
虐待って言葉知らない…のか?いやそれより…
辛いのかもって…そんな…ブラック企業の社畜がよそを知らないからこれはブラックな職場じゃないと思ってるみたいな返答を返さないでほしい
あまりにも可哀想になってきておれは気持ちが押されられなくなっていた
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