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幼少期編

閑話 王妃の心情

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side リジャール王妃





この国の王妃として、陛下に望まれ両国の架け橋として嫁いで早10年

隣国では普通の事となってきたが、男性である私が妻となる事はこの国ではまだ珍しい
なぜ男がこの国の王妃なのだと、よく思わない者達もある程度現在もいる、たが、それを抜きにしても私達を祝福し、慕ってくれる者達が多いのもまた現実…


同性での婚姻、陛下を巡る色々な闇も見てきた…王妃が男性だけでは不安だと、陛下にあらゆる理由を付け、無理矢理娘を嫁がせた家々こそ同性での婚姻をよく思わない貴族の派閥そのものと言っていい

それを否定することはこの国の歴史を否定する事にも繋がり、陛下は私の他に3人側室の妻を得ている
この環境の中で、陛下は確かに私を愛して下さっている、だからこそ初夜で気を失うほど愛され、子を望まれた
二人の愛の結晶…男性の私が魔術により子を宿し産んだのがレオンハルトだ


陛下と私の特徴を色濃く受け継いだ可愛い我が子…可愛い可愛い我が子…
けれど幼い頃のレオンハルトにはつらい思いをさせてしまったと、今となっては母として失格であったと思う


思い返せば、神童と呼ばれた私達が一度で覚えたことをレオンハルトは覚えられない…そんな些細な出来事からあの子は壊れ始めたのだろう…
ある日から突然幼い幼児のように問題を起こす、嘘を付く、人を蔑む…
私や陛下に叱られる時だけ良い息子の顔をする我が子にどう接していいのか、解らなかった…



未来の王への不安、第二王子や第三王子を押す輩も現れていた
男の私を王妃と認めたくない派閥がひしめく王宮は想像以上にレオンハルトにとっても過ごしにくい世界だったのだろう

けれど…あの日、あの中庭でのお茶会でレオンハルトは救われた…それだけじゃない、私も一人の子に救われたのだ



ルディヴィス.サングイス


この国の宰相の息子である彼は、昔の私達のように子供らしからぬ子なのかもしれない…
レオンハルトに不敬と解っていながら真実を教え、我が子に正しい事をみる目を思い出させてくれた彼はあの日、何を考えていたのだろう



「母上、人の心の痛みがわからない俺は…良き王になれないのですか…?」



お茶会の日、ルディヴィスにグラスをぶつけ怪我をさせた日、レオンハルトは自分が何を言われたのか理解してはいなかった
けれど夜、私の私室を訪れたレオンハルトはルディヴィスに言われたことを振り返り、人の心の痛みについて聞いてきたのだ


我が子が自らの過ちに気付いた日、学ばないといけない大切な事に気付いた日…
母であるが男の私にはレオンハルトを抱き締め、人の心を傷つける事の恐ろしさを教えてあげる事しかできなかった…




二度目の面会でレオンハルトはルディヴィスを見て、声を聞き、現実と向き合うことで死の恐怖と暴力が与える恐ろしさ、そして大切な物を見つけたのだろう

レオンハルトを変えたのはルディヴィスという存在だ、父でも母でもなく、レオンハルトより一つ年上の子共
幼い頃子供が、誰よりも他人の気持ちを尊重し、思いやれる…この素晴らしい事実にこの国の未来は明るいと素直に嬉しい気持ちになった


ルディヴィスを婚約者にしたいと言い出したのはレオンハルト、それを押したのは私だ
私と学園で交際を考えていた頃の陛下によく似た決意の瞳でルディヴィスを求めていたから…
サングイス公爵からは候補と言う形で留められてしまっているが、私の判断は間違っていない


9歳となったレオンハルトはルディヴィスを婚約者候補に据え、私の想像を超える程、賢く優しく、素晴らしい存在へと日々成長している
レオンハルトに必要だったのは父や母ではない、互いに思い合える存在なのだと言い切れる



しかし、やはり男同士の婚約者候補、さらには婚姻は如何なものかと言ってくる者がいる…それが解決するまでは婚約を確定させる事が出来ない

何より大切な跡継ぎを家族想いのサングイス公爵が手放さない…
レオンハルト、お前が望むものは大きな壁の先にある事を理解しなさい、私は母としてこの国の王妃として…お前が努力を続けるなら出来る限り手を貸して上げましょう…




「リジャール…考え事か…?」


私の肩を抱き寄せ耳元へキスを贈る陛下の声が静かな室内に響く
そういえば陛下はまだ、ルディヴィスに直接対面で会った事が無いような…?


「レオンハルトの事を考えておりました…愛する息子は私達と同じように大きな壁のある恋をしているのですよ…?
ふふ、愛する者の為に成長する我が子が可愛くて…レオンハルトの顔を見ていると昔の私達を思い出すのです…」


「高い壁か…確かにそうだな…俺もサングイス公爵に一度、婚約者候補であるルディヴィスとの面談を求めているのだが…勿体無いから嫌だと言うのだぞ?あの宰相は…全く、あいつは…昔から…」


陛下は私を強く抱き締め子供のように甘えながら宰相への不満…いや腐れ縁と呼べる彼の話を教えてくれる
レオンハルトもルディヴィスの前では陛下のようになるのだろうか…?




我が子が進む未来が、今までもこれからも明るい事を願う…けれど、障害が降りかかるかもしれない、いや降りかかると思っていたほうがいい
私は王妃として、母として…同じ男としてレオンハルトを守り見守る
たまには母に甘えてほしいと思いながら…










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