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幼少期編

乙女ゲームの犬とは

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乙女ゲーム
『光の聖女へ愛を灯す』

生前のクソ妹がおれに見せてきたあのゲームでは今のシャルティという可憐な少女の姿は無く、嫉妬と憎悪に染まり暴走する真っ赤な髪の少女がいた

殿下の婚約者として、その仲を切り裂こうとするヒロインに怒り狂い、執拗にイジメを繰り返したり…自分を守る騎士を奪われまいとヒロインを暴漢に襲わせたり…
後、なんか変なのもあったよな?なんだっけ………


おれは今、夢を見ているんだろう…おれの社畜人生にトドメを刺した死因の1つだけであるクソ妹の声が聞こえる………


『お兄ちゃん!ちょっと寝ないで人の話聞いてよ!見て見てー!これがね悪役令嬢の犬なの!私の犬とか呼んでするだよ!あ、このイケメンも攻略対象なんだけどね
犬ってやばくない?本当に犬なんだけどもね!悪役令嬢やばすぎー!鞭持って泣いてるイケメン叩くスチルとかこの神ゲーでしか見れないんだよ
拾った犬をヒロインに奪われて報復されるのほんとやばい面白いんだからお兄ちゃんも見て……


…見てよ!ねぇ、聞いてる?


…………ちょっと…なんで


…………ねないで


………………』





犬ってなんだよ!!!!
言いたいことが沢山あり、目を開くと生まれ変わった事を自覚してから見知った天井だ…
とんでもなく嫌な夢をみた気がする…いや、嫌な夢だった…クソ妹が夜勤明けで翌日も仕事なのに仮眠を奪ってくる嫌な記憶……

人にとって睡眠時間がいかに大切かお前はわからないのか???と言いたくなる酷い思い出だ…
…………しかし、そうじゃない…変なワードを思い出した…犬?私の犬??悪役令嬢の犬…………

常に悪役令嬢に寄り添い、犬と呼ばれていた攻略対象がいた…しかしヒロインがそんなの間違っていると犬を解き放ち、心を癒し…悪役令嬢に報復する……そんなストーリー…

乙女ゲームのワードでは無いと思う数々の響きにゾッとするが、シャルティの平和な未来を脅かす存在はレオンハルト殿下だけじゃない…そう気付いた瞬間だった


それにしても拾った人間を犬と呼ぶのもおかしいが…どこから拾ってくるだよ…対処のしようがなくないか?
思い出した記憶に戸惑いつつ、起き上がるとそこはソファだった…ベッドじゃない…おれは昼休憩の後こんな場所でうたた寝していたのか…?
シャルティが近くに居ないことを不安に覚え、辺りを見回すと、悲鳴が聞こえた………



「誰かー!!!助けて!お願い!!!助けてー!!!!おにいさまー!!!」


それは、紛れもなくシャルティの声…
心臓が苦しいほど脈打ち始めるのがわかる…ここは公爵家だろう?なんで悲鳴なんて…なんで
おれを呼ぶ悲痛な叫びにソファから転がり落ちるように走り出す…

不思議と寝起きなのに身体が軽い…
いやそんな事を考えているの場合じゃない…シャルティ、シャルティ!!!何があった…!!!


足を全力で動かし、メイド達がシャルティの声に反応して作業の手を止め振り返るのがわかる、おれはその横を走り抜ける、階段を飛び降りる勢いで声の聞こえた玄関ホールへ向かった




…………目に入ったのは赤


そう、赤だ



真っ赤な血濡れのドレス……?嘘だろう?まさか怪我でもしてしまったのか…?!
うまく言葉が出ないまま、玄関ホールへ進む…涙で濡れた表情でおれを見つめるシャルティと目が合い、無意識にシャルティを抱き締めようとしてソレに気付いた
シャルティと側に付き添うメイドの間、地面に倒れる何かを幼い手で必死に支えている事に……

………………ソレはおそらく人だ
全身真っ赤な血濡れの幼い人のような何か、痛みを訴えない義妹を考えるに、シャルティを染め上げているのはこの幼い何かの血なのか…?



「ドニス!負傷者がいる、医師を呼べ!負傷者かもしれない!あとキレイなシーツと湯を準備してくれ、揺り動かさない方が良い、人手も頼む、早く!」



執事を呼び身体が勝手に動き指示を出す、シャルティの頭を撫で、大丈夫だと言い、真っ青なメイドを労い血濡れのナニかに触れる…
負傷者発見後は無理に動かさずに呼吸や意識、外傷の有無、状況を確認する………ふと思いついたが、恐らくこれは生前の記憶だろう
呼吸と脈の確認、どちらもある…死んではいない…
声を掛けるが返答は無し、意識はあるのか分からない…怪我の状況を見るにも、全身満遍なく血濡れのため、服を脱がせない限りはどうしようもないが床まで垂れる程の血はない、狭所的に血は溢れていない?…大きな怪我ではないのだろうか…?
しかし、玄関ホールのままでは衛生的に問題がある



シーツと人手を連れてきた執事と共に、無理に動かさないよう担架のように血濡れのナニかを客室にとりあえず運んだ
服は脱がせている場合じゃないため執事と使用人と共にハサミで着る、血でベタつく幼い体が外気に晒されていくが見た所大きな怪我はない様子…
口の中も血で溢れているわけでも無い…ならこれは何処から溢れた血なんだ…?
誰かに聞こうにも父様も母様も今の時間は不在だ…執事のドニスもこんな事は初めてだと言った顔でおれを見てくる…それはそう


どうするか決めかねている中、医師が到着した
医師は急に呼ばれ、公爵家のベッドに血濡れで寝かされる何かにやや動揺する様子がみられるが、おれたち素人ではどうしようもないんだ…
怪我人と思われる幼いナニかを医師に預け、おれはシャルティ達の下へ戻った



「シャルティ、怖かったね…?何があったか兄様に教えてくれないかな…?君は…メイドのミリィだったね…君もシャルティを守ってくれてありがとう…一体、何があったんですか?」


玄関ホールでメイドと抱き合ったまま怯えていたシャルティに優しく問いかけると、涙を溢れさせおれにしがみついてくる
今日は父様と母様が不在の日、まさかこんな事になるとは…最近平和な日々が続いていたから油断していたのれない



「ぉ゙にいさまぁ……!ごわがった……ルティ、ミリィとおさんぼしでたの………そしだらお庭にあの子が倒れてで……うぅっ…ふぇっ…………たすげてって言うから…………ミリィといっしょうけんめいこごに、ひっく………っぅ゙えぇ……わがんない…身体がうごいで…まっかごわい………ぅ゙え…………えぇーーんっ…………」


「よしよし、ミリィと一緒に倒れてた人を助けてくれたんだね…必死に連れてきてルティは偉い、心が優しいんだよ
うん、うん………真っ赤で怖かったね………大丈夫、大丈夫…ルティ達が頑張ってくれてたからちゃんと生きていたよあの子…」


背中を擦りながらルティを慰める
本来誰かが倒れていても、誰かを呼べば済んだ話だ…だがルティは助けようと動いたのだろう…
あの血濡れのナニかは誰なのか…医師の診察が終わったらお風呂に入れてあげれば誰かわかるかもしれない…








公爵家の庭で倒れているなど不法侵入だが…衛兵に不審者として渡すのは何故が駄目な気がした…








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