悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ

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幼少期編

悪役令嬢の兄(モブ)

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再び目が覚めた時、おれは社畜だった頃のおれに戻れてはいなかった
簡素なアパートの室内も、くたびれたスーツも、目の下に隈を作る社畜の顔もそこには無い

顔立ちの整った幼い少年、それがおれ…
どこかに頭を強打すれば夢から覚めるのか?と思ったが、既に全身が痛いんだ…
冷静になると、これまでの生活が脳裏を駆け巡り、社畜だった頃のおれの記憶がある事が異常なのだと理解した





これは…おそらく異世界転生という物だろう…



先ほどの事を思い出す
頭と手足を負傷し寝かされていたおれが姿見の前で倒れているのを見て、周囲は相当焦ったようだった…
坊ちゃま坊ちゃまと泣き叫ぶメイドの方が痛々しい…再び寝かされたベッドの上、そこで痛みがなくなるまで動いてはいけないと、医師のような男に言われた
これが現実なのだと言われているようで…よくわからない呪文を唱えられると少しだけ痛みが和らぐ事が恐ろしかった

そのまま肌触りいい高級寝具に寝かされ、メイドや執事らしき人が甲斐甲斐しく、おれの世話をしてくれる
目に見える現状が、おれの前世としか思えない社畜の記憶が物語る…社畜として階段から落ちたあの日、おれは死んだ…そしてこの少年として転生を果たしたのだと…








体の痛みが引かず天井を見ながら過ごしていると、焦った足音と共に自室の扉が開かれるのがわかった


「ルディヴィス………階段から落ちたと聞いた…!大丈夫か!!」


やや青褪めた顔でおれの名前と思われる名を叫びながらベッドへ駆け寄ってくれる1人の男性…
綺麗な赤い髪に、赤い瞳…どうみても同じ血が流れていそうなとんでもないイケメンの男性………
この人は父様だと、この少年の記憶が叫ぶ…
いやおれの記憶なのだけれども…どうも社畜と混在してしまい全てのことが他人事に思えてしまう


痛む身体をなんとか起こし、この世界での父に向き合う…全身がズキズキする………


「父様……申し訳ございません…お…ぼくの不注意です…ご心配おかけしました
骨も無事だと主治医の先生が話していました…メイドも執事も悪くないのです…ぼくの不注意で大事にしてしまい………申し訳なく思います…………」


どうみても貴族のお子様の一人称がおれでは不味いと、急遽ぼくと言い、社畜の心得低姿勢を披露する
無駄な足掻きは上司に怒られるだけ、それはこういう場面でも一緒だろう…たぶん

父様だと思われるイケメン男性は素直に謝るおれに、やや驚いた様子があったが
優しく微笑み包帯を巻かれた頭を労るように撫でてくれる…そのまま頬をなでられた


「無事でよかった…お前に何かあったと思うと私は気が気でなかったよ……今日、朝話した事がお前にストレスを与えてしまったのかと…………
母様を忘れられない幼子に酷な事を言ってしまった私にも落ち度がある…すまないルディヴィス……」


とても優しい紳士的なイケメン父親…
そんな彼が言った朝の出来事とは…まだ社畜と少年の中間でぐるぐるしている…おれには何について謝罪しているのかわからなかった
ここはその場をとりあえず凌いでなんとかしておこう…


「父様…ごめんなさい………ぼくっ……!ぼくっ……朝のことも気が動転してしまったんです……父様にこんな顔をさせたい訳じゃなかったのに…!」



ぐずぐずと泣き出す子、そう、おれだ
その場を凌ぐのに子供だからそこできる泣いてとりあえず凌ぐやつ…朝のことも思い出せないのにこれ以上会話を続けるのはちょっと困る…反応に困る…
せめて朝の内容を教えてくださいほんと……

父様は泣き出したおれを、ベッドに乗り上げながら抱きしめてくれた…温かい胸の中で泣くおれ…心が締め付けられるのは少年の記憶なのだろう…






「ルディヴィス…幼いお前にはまだ受け入れがたい事なのはわかる…しかし、私は公爵家当主であり国の宰相も務めているため多忙なのだ…
この家に、お前を1人取り残して行くことが忍びない的だからこそ…私は再婚を選んだ

せめてひと目だけでも会ってはくれないか?とても優しい、素適な女性なんだ…」


朝のお話が判明した…父様の再婚話でしたか…そうでしたか…今のおれ、この6、7歳くらいの子には確かに辛い話しだろう…
わかるよ少年、いや社畜思い出す前のおれなんだけとね…新しい家族なんて不安でしかない…わかるよその気持ち…大丈夫、社畜の記憶を信じろおれ
クレーマーにも平和に対応できるおれの記憶が蘇ってるんだ、継母の゙一人や2人なんてことない

おれは父様の手を握り、コクリと頷く…
不安な表情は隠さずにそれでも父様の気持ちを汲んで会うことを選んだ…そんな雰囲気だ

父様はおれを痛くないように再び抱きしめ、執事に指示を出す…指示を…………
おっと、これは?まさか?今日ってその継母との初顔合わせ的なそんな感じの日だったの???

少年よ…当日に階段から落っこちて騒ぎ立てるのは駄目だと思う…おれなんだけども







執事に連れられて、おれの部屋に入ってきたのはアプリコットの髪色にサーモンピンクの瞳の優しそうな女性…とその後ろに隠れるように入室してくる幼い少女………そう、父様が紹介したいのは二人だった



「さあ、入ってくれペトラ、シャルティ
ああ、ルディヴィス辛くない格好でいい…少しだけ顔合わせをしよう…」


「ルディヴィス様、お身体は大丈夫でしょうか?
この様な状況で…突然の訪問、ご挨拶失礼します…私はペトラ.レルム…レルム伯爵の娘であり、ルディヴィス様のお父様………ロッグリット様とお付き合いさせて頂いてます
こちらは娘のシャルティです」



父様と継母となる女性に促されて恥ずかしそうに前に出てきたシャルティという少女を見て、おれに激震が走った

ルビーレッドの長く美しく髪に、おれと父と同じ血のような赤色の瞳…ぷっくりとした桃色の唇を震わせ自己紹介をする幼い少女…………
シャルティ……………
シャルティ.サングイス…………


おれは、そうだおれは……
おれの名前は…ルディヴィス.サングイスだ






『お兄ちゃん!このゲームやばいの!めちゃめちゃやばいの!お兄ちゃんどのイケメンが好き?
え、それ??それは女子!イケメンじゃないじゃん~
お兄ちゃんはシャルティ.サングイスがタイプか~絶対絶望しか待ってない可哀想な当て馬、血濡れの悪役令嬢が好きだなんて変わってるねーあはは!』






生前、おれの安眠を妨害し続けた妹の言葉が浮かぶ…悪役…令嬢…シャルティ.サングイス…………
義理の妹は生前の妹が好きだったゲームの悪役令嬢だった…それじゃあ……………おれは??









悪役令嬢の兄だ…………







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