離縁しようぜ旦那様

たなぱ

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ヌメリと水風呂

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「お客様、入浴の準備が整いましたので、どうぞご自由に」




 夕飯まだかなと、部屋から出てもいいのかわからず暇すぎて備え付けの本棚にあった書物を読み漁っていたおれにメイドの方から声をかけてきた

 入浴?早くない?え、獣人の国って夕方に入るもんなの?てか、どうぞご自由にっておれ一人で入れって事なのか…!?
 質問したい事はあったがうさ耳メイドの動きは早い、流石ウサギといった素早さでおれの部屋から退室していった

 なぁ…うさ耳メイドよ…せめて浴室の場所くらい教えてくれない?そんなおれの心の叫びは届かないのだ…





 ………………
 …………
 ……



「別館…だったのか…ここ」


 誰も教えてくれないので意を決して廊下の外へ出てみると人気もなく、とても薄暗かった
 おれの部屋からは見えなかったが廊下の向いには大きな屋敷が見える…つまりここは別館と言うことになる
 外が曇りなのではなく、おれの部屋から見えるのが森だったから普通に薄暗いだけだった事にも気付いた

 見る感じ埃っぽくはないから掃除はしていると信じたい…しかし明かりもついていない別館の廊下…正直、キレイな建物ではあるが余りにも人気が無いと肝試ししている気持ちになる
 いやいや、怖いって!夜とかここに一人きりだったの!?怖いって!!

 しかし誰の気配も無いんだから誰にも聞くに聞けない…うさ耳メイド含め、皆本館と思われるあのでかい屋敷に居るのだろう…
 心霊的冷遇は聞いてないって…!!!


 あまりにも一人、本当に一人、薄暗い廊下を移動するのが怖すぎてとりあえず光魔法で廊下を明るくし、急いで入浴を済まねて自室に引きこもる事にした

 昨日、丹念に塗られた香油の匂いが残ってるからお風呂には正直入りたいんだよ!





 ………………
 ………
 …



 しばらく廊下を進むと一箇所だけ明かりが漏れている部屋を発見し、お目当ての浴室だとわかった時のおれの心境は、お化け屋敷で出口を見つけた瞬間のそれだった

 うさ耳メイドよ、浴室の明かりだけでもつけてってくれたのは感謝する…いや廊下も全部つけておいて欲しかったけど…

 それは贅沢な望みなのかもしれないな…冷遇生活1日目、風呂の場所が分かっただけでも良いとしよう
 さっさと風呂に入って部屋に籠もる!心霊的な冷遇は受け付けておりません!

 普通だったらドレスの令嬢も貴族の男も一人で風呂に入るなんて貴族育ちでは出来ない、それこそ酷い扱いを受けてると痛感する場面だろう
 しかし、しかしおれは磯野司の記憶を持つ転生人、一人で風呂に入る事こそが普通だったあの日の生活を思い出せばなんて事ない


 そう、例え入った浴室に準備されていた湯が水でも、どうやったらここまで汚くなるのかってくらいヘドロのようなヌメリがあったとしても…
 叫び声一つ上げることなど無いのだ



「汚ねぇ!!!!」



 無理、無理です、ここに誰もいないって分かったら声出ちゃった!無理、無理無理無理!
 ゴミ屋敷の風呂じゃん???なにこの触ってないのにわかるヌメリー!!
 湯気なしだから水風呂なのはわかる、それはいいよ、別に水風呂でもいいよ!?!しかし汚いのは許せない
 おま、風呂だぞ?風呂、身体をキレイに磨き上げる場所を汚してどうする?水垢黄ばみどころの話じゃない夏前の掃除してないプール並に汚い!

 うぇぇ…無理、これは流石にちょっと心に刺さる…冷遇ってレベルじゃない…いじめだってこれ
 いや、獣人の国がどういう感じなのか知らないけどね?これはない…おれじゃなかったら気絶してると思うくらい汚い…


 ちくしょう…おのれ、掃除すれば良いんだろ?
 たぶん掃除して使うなんて考えてないからこんなに汚いんだろうけどさ…早く出ていけこの国からって気持ちが伝わってくるよ…うさ耳メイド…


排水口を開けるとドロドロブチュゥ゙と嫌な音を響かせながらどんどん水が抜けていく…
この国の排水設備は大丈夫だろうか…何処かで溢れたりはして無いだろうかと心配になる程のヘドロとヌメリ具合だ

最後まで流し終えたのを確認し、蛇口に細工でもされてたらしんどいので自分で魔法を使って水を出す
川まで行けたらそこで水浴び出来るんだけどな…って思いつつ浴槽を魔法を駆使してキレイに磨く

魔法って便利だよな…買い忘れて掃除が出来ないとか無いんだもん…自分に備わってる属性で使えるものが違うため、一概に超便利とは言えないが、おれはとりあえずそこそこ全部使える

戦闘には物足りないけど私生活ならこれで十分な程度に…ほんと使えてよかったと感じながら、美しく輝く湯船に磨き上げ、新しく湯を貯めた




結果として2時間ほどたっぷりと湯船を堪能してしまった
いや、だってさ…自分で磨いた風呂に入ったら達成感がすごくて…なんて言う相手もいないのをいい事に、おれも全身デトックスとか言いながら半身浴したり、リンパマッサージしてたら夜でした


素晴らしくゴワッゴワのバスタオルもバスローブもしっかりとふわふわに進化させ、身に纏う
部屋に戻る時に見つけた誰もいないキッチンからティーセットを借り、湯上がり自分で紅茶を淹れてソファで一息…うん、最高


備え付けの石鹸とかまで取り払われてなくてよかった…なんかもうお肌モチモチしてる気がする
男だけど?ほら書類上妻だし?抱かれてないけど妻だしお肌気にかけてみてもいいと思う



湯上がりで一息とか普通に寝るよね…全人類
知らない間におれはソファでうたた寝してしまったのだ








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