悪役令息はモブに愛を捧ぐ

たなぱ

文字の大きさ
上 下
26 / 88

合宿のおわり

しおりを挟む




エアが欲しい、この気持ちをどうにかして欲しい…されるがままなエアを木に押さえつけ、舌を吸い上げ、絡ませ、歯茎を歯を舐め上げ息をも奪い激しくキスをする、口内を貪りながらエアの存在を感じていると動揺した心が穏やかになるのを感じる…
欲しい、もっと、もっと……………
ガクリとエアの膝が折れおれに全体重を預けてくるまで止められなかった


飲みきれななかった唾液が口元を濡らし、閉じられた瞳からは涙が流れている…
しまった、やりすぎた…そう、少し冷静さを思い出したおれは周囲の状況を思い出し、理解した



あの巨大な蜘蛛の化物はおれが触れた後、まるで何もいなかったかのように消え去った
しかし、蜘蛛のが移動してきた痕跡もなぎ倒された木々もあの化物がいた事を証明している
ヒロイン♂達は教員をまだ呼んでいないのかこの場には誰も来てはない…
まだ闇の深い時間、蜘蛛の化物が響かせる地響きや木の倒される音以外無音だった世界に虫の声や何かの息遣いが戻って来る

あれはなんだったんだ…?
まるで夢のような…でも倒れている木はあれが現実だと証明する…それに、これもだ


知らない間にローブのポケットには大きく美しい闇属性の魔晶石と黒い鳥の卵のような物が入っていた

一先ず、現状を記録石に保管する、万が一、教員へヒロイン♂達が何を言ってるかで対応を考えないとまずい気がした…
おれたちの野営地点へ戻ろう
エアをおんぶし、自身に身体機能向上魔法を掛け、来た道を戻る…戻る最中にあの蜘蛛の化物が這い出てきた大穴もしっかりと残っており、やはり夢ではなかったと環境が真実だと教えてくる




あの蜘蛛の化物は一体……………





野営地点に戻り、軽く自身とエアに洗浄魔法を掛け
テントの中でエアを抱きしめたまま座る
わけがわからない事が多すぎだ…おれはもう眠れそうに無い…
あの、『ありがとう』という言葉は蜘蛛の化物が発したものなのだろうか…おれに流れ込んできた灰色ではないイメージ、あの赤い複眼を持つ少年が蜘蛛の化物ってことなのか………?

ヒロイン♂達を襲っていた化物と同じものとは思えない程、触れた時に感じた魔力は優しい物だった
ゲームのゲリラボスではない、この森で通常見るとことも無いサイズの…地下から這い出て来た化物…
そしてあの化物が残していった魔晶石と卵?



何かが引っかかる…何かが


「んっ……………」


エアの声に気付く、考えすぎて腕に少し力を込めてしまったらしい…優しく抱き締めて直し、肩に顔を埋める…少しだけ甘く感じるエアの匂いに動揺を隠しきれない精神が穏やかになっていくのがわかる

そうだ、おれ一人で悩むことは無いんだ
起きたらエアに相談しよう…今のおれは1人じゃないのだから






このまま眠れそうに無かったおれは、既に広範囲に張り巡らせたままの魔力糸に集中しエアが起きるまでひたすらに掛かった獲物をテントの前に運ぶ作業をしながら、エアの寝顔を堪能した

ゆっくりと時間が流れる…
恐らく数時間後、朝日が昇ると同時に目覚めたエアにおはようとキスを贈る
推しに抱っこされたまま寝てたの僕!?と真っ赤になり慌てた彼はちょっとトイレと照れ隠しにテントの外へ走っていき、絶叫、そしてまた気絶しかけていた


「おは、おはようございますリナルド様………もう僕、リナルド様の胸に住みたいっ…なにあれ怖いっううっ…怖いって…テントの前阿鼻叫喚過ぎてむりぃーー?ううううっ…………」


明け方まで捕まえて山積みにしておいた魔獣を見てエアの寝起きの心は折れてしまったらしい
おれに四六時中抱きしめられ生活するエアも可愛いから別にいいけど、恥ずかしいって後で慌てそうなのはエアなんだよな
抱き締めてあやしつつ、昨日のことの顛末を説明する
あの蜘蛛の化物からイメージが流れ込み、そのまま消えてしまったこと
悪意や害意を感じない優しい闇の魔力を蜘蛛の化物から感じたこと
おれのローブの中に蜘蛛が置いていったと思われる魔石と黒い卵?があったこと
あの蜘蛛の化物は既視感ではなく、エアと同じ色を見ることが出来たこと…簡潔に説明するおれの言葉を真剣に聞いてくれる


「あの蜘蛛の化物…とそんな………それにゲームのイベントにそんなシーンも入手アイテムも無いです…
本来ゲームのリナルド様は取り巻きと森の浅い所で優雅に過ごし続けて優秀すら狙わない立場だったから…展開が違う…?
でもあの蜘蛛の化物はゲリラボスじゃないんです…本当のゲリラボスは何処に…?イベントで手に入る魔晶石もそんな色では無かったです…黒い鶏の卵とかも初めてみました」


「本来この国に居ることのないエアが、転生者がおれと居ることで何かが変わってきてるんだろうか…
後、おかしいのはあんな事があったのに教員が誰も来なかったたんだ
生体バンクルが助けた生徒からの話を聞いたら普通は現状確認の為に来る、この合同合宿で処理しきれるか見極めに来るのが常識…害のレベルが大きかった場合は他の生徒へ危害が及ばないようにする、それが貴族の子を預かる学園の義務…」


そこまでエアと話した瞬間、生体バンクルを経由し全生徒へ通知が入った



『合同合宿に参加する全ての生徒に告ぐ、緊急事態発生のため今年度の合宿は現時刻を持ち中止となった、詳細については全員の安否を確認後説明する
速やかに荷物をまとめ、生体バンクルを使用し我々の待つ開始地点へ戻るように
以上、繰り返す……………………』


合同合宿の中止、緊急事態…十中八九あの蜘蛛の化物が原因の緊急措置だろう
でも、何故…今?生徒の安全を守る事が必須の筈なのに、この数時間何もせずにいたのは何故……?
とりあえず指示に従うしかない、おれたちが居るのは開始地点からかなり奥、身体機能を上げても直ぐには戻れない距離だ
エアと顔を見合わせ、開始地点に戻る準備をする
あの蜘蛛の化物について教員に伝えるべきか…それは否だろう…直接国王陛下と父に報告したほうがいい…

準備を終え、エアと手を繋ぎ生体バンクルを起動させる…エアは手を繋がれたことに少し驚いていたが、おれの片時も離れなくない気持ちの現われだ付き合え








開始地点に戻ると多くの生徒も徐々に戻り始めていた、皆が何故合同合宿が中止になったかざわついている中で一人だけ泣き喚き、王太子殿下に慰められているヒロイン♂は異様に目立っていた
近づかないでおこう、そう思ったおれの耳にヒロイン♂の声が届く…





「どうして無事なの」






そう、はっきりと…………





ヒロイン♂の表情はおよそ光属性とは思えない酷い顔を一瞬だけおれに向け、再び王太子殿下に泣きついていた








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。

溺愛お義兄様を卒業しようと思ったら、、、

ShoTaro
BL
僕・テオドールは、6歳の時にロックス公爵家に引き取られた。 そこから始まった兄・レオナルドの溺愛。 元々貴族ではなく、ただの庶子であるテオドールは、15歳となり、成人まで残すところ一年。独り立ちする計画を立てていた。 兄からの卒業。 レオナルドはそんなことを許すはずもなく、、 全4話で1日1話更新します。 R-18も多少入りますが、最後の1話のみです。

子育てゲーだと思ってプレイしていたBLゲー世界に転生してしまったおっさんの話

野良猫のらん
BL
『魔導学園教師の子育てダイアリィ』、略して"まどアリィ"。 本来BLゲームであるそれを子育てゲームだと勘違いしたまま死んでしまったおっさん蘭堂健治は、まどアリィの世界に転生させられる。 異様に局所的なやり込みによりパラメーターMAXの完璧人間な息子や、すでに全員が好感度最大の攻略対象(もちろん全員男)を無意識にタラシこみおっさんのハーレム(?)人生がスタートする……!

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

文官Aは王子に美味しく食べられました

東院さち
BL
リンドは姉ミリアの代わりに第三王子シリウスに会いに行った。シリウスは優しくて、格好良くて、リンドは恋してしまった。けれど彼は姉の婚約者で。自覚した途端にやってきた成長期で泣く泣く別れたリンドは文官として王城にあがる。 転載になりまさ

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...