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授業よりも
しおりを挟むよく考えると、おれは王太子妃になるべく一応かなり勉学も礼儀作法も叩き込まれて過ごしていた、それこそ王太子殿下の成績を軽く凌駕する程度に…
未来の王を支えるものが妥協など許されない
そう、なりたくもない既視感が警告する婚約者の為に言われ続け、幼い頃より高度なレベルまで知識が達してしまったおれに、本来は授業など必要ない
本当に卒業するため、学院の卒業という証が必要…それだけのために通っていたんだ…
授業なんて聞かなくても試験では基本首席前後、不正したと言われる事もヒロイン♂をメインに多いが、この学院の試験は不正が出来ない契約魔術を活用した特殊なものだ…
その証拠に、ロベール殿下は幼い頃より神童と呼ばれているが一度も首席は取れていない
勉学を放棄してヒロイン♂と逢引を繰り返し禄に勉学に励まない存在が首席になれたらそれこそ不正だ
いつもは灰色の世界を眺めているだけだった授業風景が、こんなにも素晴らしいものだったのだと、今日からおれは噛み締めて受ける自信がある
おれの策略で奥の席追いやられ、出口を塞がれ、太腿が触れ合うほど近い距離感を強制的に与えられたエアが、時々こちらを見て赤くなりながらも必死に授業を受けている……留学許可を貰える程もともと優秀だろうエアはペンの持ち方、文字の書き方も綺麗だ…そして可愛い…
授業を受けるエアの可愛い姿を毎日みれる…これは天国の光景かもしれない
一緒のクラスなのに何故これまでエアを知らなかったのか疑問に思い聞いてみたら、推しを間近で見る勇気はまだなく逃げていたと………かわいい
これからは毎日この距離で授業を受けような…エア♡
時々、文法や数式の高難易度問題で考え込むエアの手をつつき、正しい公式を説明すると人前で触れたことが恥ずかしいのか、赤くなりながら、必死に授業へ取り組もうとしていて更に可愛かった
モブという存在のエアは、おれと一緒にいてもいない扱いされる…
つまり、おれが触れていても周囲には認識されていないと言うことだ、更にはおれ自身も、既視感の中での行動のみ、周囲は近づき文句を言ってくるが基本は無視され放置され、陰口を言われるだけ
エアと座るのは上段の端、授業の先生からもあまり見向きもされない席だ
そこに壁まで追い詰められたエアとおれがいる
…………うん、もう少し触ってもいいと思う
今は3限目、魔術構築論の授業だ
この授業を担当するバレイズ先生は成績が優秀であれば何も文句は言わない、淡々と構築論を述べ、書き連ね生徒自身がそれを追い続ける授業である
皆がひたすらに、先生すらも教卓の後ろにある魔力壁に文字を書き綴る前だけを向いた空間…
チャンスと思い、そっとエアの手に自分の手を重ねてみた
ビクリとペンを持つエアの手が震える、赤くなりながらこちらを見るエアに優しく笑みを浮かべて、机に手を縫い付けるように指を絡めた
スリスリと彼の少しカサついた手を指を撫でる
爪の形をなぞるように、指の長さを確かめるように…
「り、リナルドさま…授業中っ、です………よ?」
瞳を潤ませたエアが小さな声で聞いてくる
手をスリスリと撫でるのをやめないおれに何かを言いたそうな、授業中と言ってるが別に授業中だからエアに触れてはいけないことは無いだろう
ペンを落としてしまった彼の手を返し、恋人が繋ぐように繋ぐ…にぎにぎと指の股を刺激されたからかふるりとエアが身動いだ気がした
「…………なぁ、後で魔法構築論教えてやる…今はエアと手、繋いでていいか?エア不足で倒れそうなんだ…?」
さらにエアは赤くなる、しかし手を振りほどいたりはしない…声に出すのは恥ずかしいのかコクリと頷き、少し手に入ったままだった力を抜いておれに触れられることを肯定してくれた
………………可愛すぎて困る…おれのお願いなんでも聞いてくれそうな気配がしてくる無防備なエア…
授業が終わるまでエアと見つめ合いながら手の感触を楽しむ指先にほんの少し魔力を流しただけでも、綺麗な瞳に涙がうるみ口から吐息が溢れているのはまずいと思った…
エア、指だけでもイけるんじゃないかと………
授業のチャイムがなった、3限目が終わった合図だ
たっぷりとエアを堪能できておれが手を離すと、少しだけ追いかけてくる仕草が可愛かった
バレイズ先生が教室を出て行き、灰色のクラスメイトが動き出す、おれ達もトイレ休息に行くか、このまま会話を楽しむかエアに聞いてみよう、そう考えたとき、またしても既視感は急に現れた
「リナルド.アークランドはいるか!」
また王太子殿下かと思ったが、違った
そこにはヒロイン♂を横抱きにした近衛騎士団長の息子、ジョイルが教壇の前で叫んでいたのだ
おれは教室の一番奥、まだ席からも立っていない…ジョイルとヒロイン♂と目すらあっていないまま見たことのある既視感の光景は進む
なんとなくおれの立ち位置だけ違和感があるのは始めてだったがジョイルの言い分に呆れてあまり気に止める余裕がなかった
「リナルド.アークランド!貴様何処まで外道な人間なのだ!騎士として許せん!!!
この麗しきソラトを先程階段から突き落とし怪我をさせた罪を償え!俺が抱きとめたからいいもののなんて鬼畜の所業!切り刻んでやる!!!」
「うぇえええん………リナルドさま、そんなにもぼくのこと嫌いなんですか…?ジョイルは、ぼくに優しくしてくれているだけなのに階段から突き落とさなくても……ひっく、ううっ、足が痛いよジョイル……たすけて…?」
誰もいない教室の中央の空間に話しかける二人、お前たちの目には何が見えているんだろうか…
周囲もそこを囲むように、悪役令息酷いだの男の風上に置けないだの言っているが…おれはそこにいない
教室から、椅子から立ち上がってもいないおれがどうやってヒロイン♂を階段から突き落とすのだろう…そして近衛騎士団長の息子ジョイル…お前の発言のほうが暴力的で、注意を受けるものではないのか?
「貴様のような者がこの国の王妃になるなどあってはならない!ソラトのような心がキレイな存在が相応しい!
わかるか!聞いているのかリナルド.アークランド!!!!!」
5分ほど誰もいない空間に指を差し、文句を言い、ヒロイン♂と近衛騎士団長の息子は教室から出ていった
時が進んだかのように周囲も捌けていくいつもの状況…何だったのか…今までの中で最も意味が分からない…その場におれは居ないのに、誰を罵倒していたんだ…?
「リナルド様………」
エアの声がする、エア、おれはどうしたらいいんだ?おれがそこにいなくてもガレリナの箱庭というゲームは進むのか…?
振り返りエアを見ると、真剣な瞳と目が合う
手を掴まれた事で自分の身体が震えていた事に気付いた……ああ、意味のわからない展開に知らずに怯えていたのかもしれない………
ぐいっと急にエアに手を引かれ、温かいものに包まれる…エア……………?
背中に回る腕がおれを強く引き寄せてきた…エアの胸に抱きしめられている事に気付いた
「リナルド様、ヒロイン♂はハーレムルートを確定で進んでいます…でも、やはり何かがおかしいです…
落ち着いて聞いてください、リナルド様には今、何が見えました?あの集団の中心に何が見えました?
僕には………本来のイベントではヒロイン♂を階段から取り巻きを使い突き落とし、怪しく微笑むリナルド様がいた教室中央の場所…そこに黒い影が見えました………
黒い影に向かって罵声を浴びせる近衛騎士団長の息子が僕には見えたんです…」
黒い影ってなんだ…?あの空間にはなにもいなかった、ヒロイン♂と近衛騎士団長の息子が指差すところにはなにも…………
「おれには…何も見えなかった
黒い影………?知らない…いつもの既視感がある光景だった…だが、見てる視点がおかしい………
あの場におれは…居ないのに、誰に向かって話しかけているんだと…おれは、この世界に存在しないのかと…不安になってしまった……………」
「今は僕にもわかりません、でもヒロイン♂がハーレムルートを選び、シナリオを進めようとしている事は確実だとわかりました
黒い影も調べて行ったらなにかわかるかもしれません…
もう一つわかった事もあります、いい報告です…おそらくヒロイン♂は卒業シーズンまでリナルド様を最悪の断罪劇に巻き込むことはできません
思い出しましたんです…このゲームのシナリオとイベントの解放にアイテムが必要なことを…
先回りして害のあるシナリオを未然に防げる可能性も出てきました!
だから、だから…リナルド様…そんな悲しい、世界を捨てたような顔をしないで下さい…」
エアに言われて気づく、おれはそんな顔をしていたのかと…ごめん、ごめんなエア…お前との未来を望むおれがしていい顔じゃなかった…
抱きしめてくれるエアの優しさを素直に受け取る
しかし、なぜ急にこんな変化が現れたんだ…?これまでずっと変わらない灰色に満ちる既視感世界を見ているだけだったのに…
もしかすると…
エアと出会えたから……なのか………?
大きく未来を変えようと、変わろうとしたことが何か変化に繋がっている可能性もある…?
4限目が始まるまで抱きしめられ、エアの体温に癒やされるおれに対して周囲の誰一人も興味どころか、気づいていない事をおれはまだ知らない
大きく歯車の狂い始めた異質な既視感の世界に気付くのはもう少し先だ……………
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