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魔族と人国と僕ら
9.勇者くんと結界
しおりを挟むオアシス第二王子殿下の話から、国民全員が女神崇拝し教会を主体とする洗脳下にあるオーランシア国が今後、どの様な策に出てくるか想像が出来ないこと、再び勇者召喚が行われれば確実に次は犠牲者が出てしまう…
その打開策として、聖魔法結界を帝魔国全土に展開し、物理的に人国からの侵攻を阻害する計画が始まった
計画の要は、膨大な聖魔法のみを有する勇者くんと、帝魔国全土という巨大な結界を構築するために勇者くんに魔力を注ぎ続ける燃料役の僕…らしい
自分でも知らなかったが、僕は無意識に魔力を無尽蔵に溜め込み続け、どの属性としても使える無属性の魔力として必要な相手に流し込める特異体質だった
レベリアが言っていた、僕が孕みにくい身体出で準備が必要の意味もその特異体質を知って理解してしまった…互いの魔力を練り合って同性同士では子を孕むから、僕は練り合うことが出来ないのだとわかってしまった
結界を構築するための作戦説明中、レベリアは僕を抱きしめてこっそり慰めてくれたのが嬉しい…
人国との戦争が収束したら長期的に魔力を僕に注ぎ続けてくれるという、それはつまり………!
うん、今回の計画、元々頑張るつもりだったけど、勇者くんの魔力タンクとしてもっと精一杯頑張ろうと心に決めた瞬間だった
「勇者、聖魔法結界はちゃんと張れるようになってるよな?そこが肝心なんだが…」
「えー、いや、ええっと!あれ使うと魔力ごそっと抜けるなんとも言えない感じに集中力途切れちゃって………………成功率は七割です!」
「その程度の問題なら、私の可愛いシャルがわざわざ、シャルがあなたに魔力を注ぎ続けてくれるのでこれで実質10割、確実に成功ラインですね」
元気に七割成功しますと話す勇者くんに、レベリアが失敗できないトドメを刺しに行く………その一言に勇者くんが固まるが、確かにごそっと抜けなければ使えるのであれば僕は、魔力タンクとして精一杯頑張るつもりだ
「勇者くん、大丈夫です!きっと成功しますよ
頑張りましょう?」
固まる勇者くんの背中を擦りながら応援するが失敗は許されない雰囲気に心が折れそうな顔をしていて可哀想になってしまった………
何か、何か勇気付ける一言…………あっ、これだ!
思い浮かんだ事を勇者くんの耳元でこっそりと囁く
「聖魔法結界、帝魔国全土に張れたら確実に勇者くん魔力使いすぎて魔力枯渇しますよね……?
たぶん魔王様、そこまで頑張った勇者くんを付きっきりで看病してくれると思うんです…僕、ほら魔王様すごく面倒見良いから」
勇者くんがこちらに顔を向けてくる、先程までの不安そうな顔ではなく、何処かキラキラした表情で
「そ、それって……!なぁ、それって…!」
「はい、これまでの魔王様の行動から考えると、甘やかして失った聖魔力を沢山分けてくれそうな気がします」
勇者くんが魔王様を好きなのは見ていてわかる、魔王様も嫌いって訳じゃないけど一線を引いてる感じがするのも見ていて思う
そんな勇者くんが精一杯魔力枯渇するほど頑張ったら…それはもうあの魔王様なら可愛がってくれるはず…たぶんレベリアも僕の立場だったら勇者くんにそう言うと思う
光に満ち溢れた勇者の表情に戻った勇者くん
頑張ったご褒美が欲しくて必死な犬のようですねとレベリアに言われてるなんて気づいてないくらいやる気に満ち溢れていた
……………………
……………
……
「全魔王軍に告ぐ!これより、対人国用、聖魔法結界発動を行う!
各位、持ち場に付け!
通信魔法にて国土全域と通信を行いつつ、触媒へ勇者様の魔力を流し構築する、失敗すれば次はいつ行えるかわからない心して臨むように!
繰り返す、全魔王軍に告ぐ………………」
数日後、計画は実行に移された
いつ、オーランシア国が次の勇者召喚を執り行うか、その可能性があるかわからない中で早期に対策を講じる方がいいのは明白だ
聖魔力で作られる悪意に対しての絶対防御の結界
『聖魔法結界』
悪意のみに反応する特異な結界
それは感情だけでなく、呪物で勇者を洗脳、人国の人間を洗脳、精神を汚染する行為…そのどれもが悪意に該当する
悪意がない場合には何も影響がなく弾かれることも無いため、他国との交易には全く害がない
オーランシア国が洗脳を続ける間、帝魔国へは結界を境に今後一切の侵入ができなくなる計画
成功すれば血を流さないままに平穏を勝ち取れる
国土の中心にある魔王城、その最上階で僕と勇者くんは待機する
国の全土へ聖魔力を届けるため、ほぼ全ての騎士やレベリア、魔王様までもが自ら触媒の中継地点となり通信魔法で進行度、調整を行っている
勇者くんのやる気は十分、僕も空っぽになるまで魔力タンクを全うする気持ちだ
準備は整った、勇者くんのタイミングで聖魔法結界を張る…残すはそれだけ
勇者くんの手を握り魔力を何時でも渡せるようにする…やはり不安なのか、震えているのがわかる…頑張れ勇者くん…!
「すーーーーはーーーーー……………やってみなきゃわかんねぇ!行くぞ、宰相の嫁……!」
勇者くんが意を決して呪文を唱え始める、元々異世界から呼ばれた勇者くんは膨大な魔力を有する人だ、ミシミシと地面を這うように美しい魔力模様が術式として広がっていく
触媒を経由し広く、大きく広がる…握られた勇者くんの手に僕の魔力がどんどん吸われていくのがなんとなくわかる
広大な帝魔国全土を覆う巨大な魔法を行使するのはどれほど大変なのだろう…オーランシア国でも同じ様な結界があった…洗脳用って聞いた時は驚いたけど
勇者くんの額に、繋がれた手に汗が滲む
相当の重圧、魔法行使、集中力を使っている……
そうこうしている内に地面を走る魔術の術式が空へと伸び、国全体を覆い始めた
各所に点在する触媒と連絡網を担当する軍の人も大変な筈だ…僕は勇者くんに魔力を送り届け、成功を祈ることしかできない…
術式が空へ伸び、陣を結ぶ度大気が震えているような気配が強まった、勇者くんは呪文を唱え終え、深呼吸をし僕を見る
後は魔力を術式に流し込み続け巨大な魔法陣から結界へと変化させるだけの段階にいったみたいだった
「はぁ、はあっ…………やばいかも…………すげー持ってかれる………宰相の嫁……ううん、シャルくん……どうしよ…おれ駄目かも………」
「勇者くんどうしたの!?」
僕はタンクとして、まだまだ勇者くんへ魔力を送り届けられている、十分に足りている筈だ…なのにどうしてそんな不安そうな顔をするの?
最終段階、後は時間との問題で聖魔法結界が完成する筈なのに…
「シャルくんが悪い訳じゃないんだ…おれが、おれ………こんな大役さ…やれるほど元々器用じゃなくて…魔力安定させたいのに不安が溢れてくる………
このままじゃ維持できないんじゃないかって…不安で………どうしよう…怖い……………」
勇者くんは泣いていた
大役の重圧…それはそうだ…僕が勇者くんの立場だったらと考えても理解できる、怖い…
自分の力一つで国の未来が変わる…その恐怖
僕だったらレベリアにずっと側にいて貰わないと絶対にやりませんとか言うくらいの…重圧を一人で耐え抜いてるんだ…
「大丈夫、大丈夫です勇者くん
あともう少し…僕の魔力吸い尽くして陣を完成させれば結界が完成します
魔王様にいっぱい頑張ったよって褒めて貰うんですよね?大丈夫、きっと成功します…!」
「っ!!…ぅ゙ぅ゙ぅ゙……シャルぐん………ぅ゙ううっ……わがってる、それはわがってるはずなのに……嫌なこと考えるんだ………
魔王様にほめでほじい…でも、でもさ…………
おれ、魔王様すぎだからさ…結界絶対に成功させなきゃ嫌われるっで………こわくで……………ううっ……ひっく……………」
ちゃんと魔力を術式に流し込みながら勇者くんは泣いてしまう…気持ちが痛いほどわかるから僕は勇者くんの背中を擦って握る手に力を込めて魔力を補充してあげる事しかできない
このまま行けば、ほぼ成功するといえる段階…でも勇者くんはこれまで最終的に七割の成功率で3割は結界が完成しなかった…それを思い出して怖がっているんだろう…
魔王様が好きなの僕からみてもわかるよ…僕がレベリアに依存するように勇者くんは魔王様に依存してる………
泣きじゃくりながらも任務を全うしようとする勇者くんが可哀想になってきた…僕が勇者くんの立場ならこの場にレベリアは居てくれる…不安な気持ちを消し去ってくれている筈だからだ
それが勇者くんは…?ご褒美があるかもしれない…でも、失敗すれば嫌われる恐怖の中で好きな相手の気持ちもわからずに大仕事をしている…健気過ぎて可哀想だ…
「勇者くん…ねぇ、勇者くんは……魔王様が側に居てくれたら不安じゃない?」
僕の言葉に勇者くんは涙を流しながら頷く
側に大切な相手が居れば何倍もの力を出せるとレベリアも言ってた、それは勇者くんにだって当てはまるだろう
レベリアとの間に生まれた触手の眷族くんをじっと見る、それだけで僕の考えていることが分かるとても賢い子…僕の思念を眷族くん経由でレベリアに伝える、魔王様を呼んで欲しいと、勇者くんを励まして欲しいと伝えるために…
後少しで完成、しかしその後少しが長い
人の心は不安定だ、いくら万全の体調でも失敗してしまう事があるように…不安になった心は簡単に揺らいでしまう
キィィィイイィィィィンビシッ…………ビシビシッ…………
僕と勇者くんの立つ聖魔法結界の起点、魔法陣に薄っすらヒビが入る…本当に後少しなんだ…僕の魔力も底を尽きかけているような疲れがあるのに……
維持してきた努力を打ち消すように、不安な心が砕けるようにミシミシと魔法陣に少しづつ亀裂が入ってしまう…
「あ、あ、あ……………なんで………だめだ、なんで、もう少しなのに…やだ、やだ、やだ………」
真っ青になりながら魔力を注ぎ動揺する勇者くんを見て、抜かれる魔力の感覚に僕は気づく…失敗?違う、これは魔力が足りてないんだ
勇者くんのせいじゃない…僕でもどうしようもない
国土を覆う巨大な結界を作るのに、ほんの少し魔力が足りてない………そのひび割れだ
真っ青な顔でその事実に気づかず絶望する勇者くんに教えてあげたいのに、発動を止めないと僕も勇者くんも不完全な結界魔法の反動で魔力枯渇になる…………なのに、ギリギリまで魔力を吸われた僕はもう立っては居られなかった
足に力が入らない、レベリアは魔王様にちゃんと伝えてくれたと思う…早く来て、この状況を見て…勇者くんは悪くない…可哀想だよ………
このままだと勇者くん失敗した気持ちで壊れちゃうかもしれない…………
ぐらりと視界が歪んた瞬間、誰かに抱きとめられた気がした…僕大切な人の気配が………そして
「勇者、俺もお前が好きだ………一人にして悪かった………」
勇者くんにキスをする魔王様が居た気がする
でも……眩い光が溢れて、何も見えなくなった
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