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平凡と獣が平穏な新生活を望む話

獣は奮闘する

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Side グレス



余りの衝撃に頭痛がする…
ユウマが行方不明、おそらくミーシア王女と従者ヘリックと共にいる…そして謎の獣人の男2人も居るのだろう
だがあまりにも用意周到すぎる、使節団としてルティーリア国から手配した馬車以外に、手配された馬車、この辺境伯領地内では魔獣や魔物に遭遇し走行不可能となった場合の救援を出せるように馬車含め、移動手段は全て事前に通信魔法で申請され管理されている
今回の作戦を決行するにあたって万が一、ミーシア王女が失踪しないよう通達をしておいた、なら、このユウマ連れ去った馬車はどこから?

運命の番の害するものとしてユウマを排除する以外に目的がある可能性が高い…
途中から匂いが消えているが馬車だったのか馬の匂いが幸い地面に残っていた…これなら…



これからの対応を考えていると、焦りながらこちらへ走ってくる影に気づく

「はぁっ、はぁ、探知魔法で捜索しましたが、近くにはいません、どうしよう………グレス様、一刻も早くユウマくんを探さないと…!捜索隊を編成致しますか!?」


「こちらもだ、見当たらない……………グレス辺境伯…妹と従者匂いがこの場からする…どう考えても彼奴等が…これは度が過ぎている……………
申し訳ない…なんと謝罪すれば………」


セイルが不安そうな顔で俺をみる、おそらく馬車で連れ去ったのだから周囲いないことは想像がついた
シュゼル殿下は思い詰めたように俯き苦しい表情を見せる
自身の身内による明らかな他国の者へたいに対する悪意、拉致とここまで問題行動…勝手に使節団へ付いてきてこの失態、兄として頭が痛いだろう

ユウマを囮に、ミーシア王女と従者を実行犯として炙り出すことには成功しているが、その裏に潜む何かを感じる…下手をすればミーシア王女以上の国際問題となる可能性さえある
余り大事にせず解決する事が両国にとって重要だ…




とにかく、俺が行くまで無事で居てくれ…ユウマ




不安そうな表情の者が多い中、俺の言葉を待つ皆に大事にせずに収束させる方法を伝える



「捜索隊は不要だ、俺自身が追う
ユウマはおそらくこの辺境伯領地に登録してある以外の馬車で連れ去られている、運命の番を害するものの排除にしては余りにも用意周到な拉致だ

捜索は俺と………シュゼル殿下、一緒に来て頂けますか?ミーシア王女と従者が言い逃れできないよう証人になって頂きたい、それに裏に潜む何かを感じる
大事にしてはまずい何かを…

皆は、使節団に扮した賊がミーシア王女を騙し、ユウマが拉致されたと、ミーシア王女を信じる愚か者の目を覚まさせろ
セイル、転送魔法の陣を10枚ほど頼む
ユウマの僅かに使用できる浄化の力を入れる目的なら恐らく複数侵入者がいるはずだ、俺が匂いで追う際、怪しい事があれば応援を頼む」


「かしこまりました、ってえ!?!グレス様が匂いで走って追うんですか……?」


「違う、これで追う」


ミシミシと全身が軋む、魔力による肉体の変化を促し、この空間で最も嗅覚の優れた物へと変化する
討伐部隊には参加しないセイルが驚きの表情で見ているのがわかる、人ならざる元第1王子、その真髄をみた気持ちなのだろう

何故か同じ獣人のシュゼル殿下も驚いているが…
ユウマと王宮にいる弟、神子様以外には見せたことの無い獣化の姿へ変わるのにそう時間はかからなかった



グルルルルル……………

馬よりも大きな黒い獣への変化
一度限界まで、神子様から飲まされた魔獣の血で瘴気に満ちた俺の身体は獣化すると瞳以外黒く染まる
端からみれば瘴気の魔獣そのものだ
討伐部隊の面々や衛兵には見せているが一般人はセイルと同じ反応をするだろう


「グレス辺境伯…まさかここまでの獣化を使えるのですか…?我が国でもここまでの者は早々いない…
獣化で話せなくなると思います、私が代弁しますので」

シュゼル殿下を経由し俺が獣化してまでユウマを捜索しに外へ行くこと、王女を信じた市民へはこれがグレス辺境伯の気持ちの真実だと追加で触れて回るよう指示を出す
ユウマが帰宅しても良いように、疑念や軽蔑の眼差しで見られないように…


指示を全て出し、通信魔法を常時シュゼル殿下に使用できるよう頼み、背中に乗せユウマの捜索に向かった
黒い獣の姿の俺は喋れない以外、全ての身体能力が見た目通りの化け物へと変化する、馬車の形跡は直ぐにわかる、後はひたすらにユウマを乗せた馬車を追うのみ…



………………
…………
……





シュゼル殿下を乗せ、広大な辺境伯領地を馬車に追いつくためにひた走る
早馬よりも早く、迅速に、背中に乗るシュゼル殿下が獣人でよかったと思えるほど俺は焦っていた
馬車を引く馬の匂いが魔の森の方から匂ってくる…

魔の森はこの地で鉱山と同等に危険地帯だ、まだ瘴気の魔獣も、通常の魔物も処理し切れていない立入禁止区域…そこへ向かったというのか?
確かに隣国の国境も近い、それも何か関係があるのかもしれない

早く、早く…早く向かわなければ…!!!
地面を強く蹴り、更に速度を上げる、乗っているのが人間であれば既に落下している圧をシュゼル殿下だから耐えられる、ありがたい



早くユウマの下へ、必死に進む俺を待っていたのは想像以上の現実だった





まだ、少し距離はあるが、魔の森の外れに複数の気配を感じる
一方はユウマを含む数人、もう一方は10人程度の異質な魔力だ、こんな場所に好き好んで来る者などいない、恐らくこの計画の一味だろう
シュゼル殿下も気付いたようで通信魔法で呼びかけてくる

『ユウマ様達の方とは別に、獣人の魔力を感じます、こんな国境付近の危険地帯で…おそらくグレス辺境伯が話されていた裏に潜むものかと…私を一度おろして下さい、獣人の集団の方を対応します

通信魔法は繋いだままで、グレス辺境伯の目を通して現場も確認できますから』


『頼んだ、転移魔法陣でセイルや俺の部下を使っていい、無理はするなシュゼル殿下』


『もちろんです、では後ほど追いかけます』




速度を落とすとシュゼル殿下は飛び降り駆けだす、獣人特有の人とは違う脚力が産む走りであれば直ぐに合流出来るだろう
俺はとにかくユウマの下へ…!
背中に乗るものが居なくなり更に速度を上げ国境付近の外れ、魔の森に近い廃教会まで辿り着いた

遠くからユウマの絶叫が聞こえ最悪の事態を想定してしまった、木を飛び越えやっと現場へと到着する

目に入ってきたのは、魔の森に居座る魔獣の群れ…
それがヘリックという従者や獣人の男に襲いかかっていた、しかしそれだけではない、俺よりも大きな瘴気の魔獣は今にもユウマとミーシア王女を食らおうとしていたのだ

ミーシア王女は最悪どうなってもいい、ユウマを救わなければ…!地面を蹴り、瘴気の魔獣の喉元に食らいつく
咄嗟の攻撃に耐性を崩し、魔獣はユウマ達から離れた、とりあえず無事でよかったとユウマを見るが…………無事ではなかった


瘴気の魔獣匂いや獣人の匂いが混じり分かりにくくなっているが、ユウマの腕からは血が滴っていた…まるで自分で噛んだような歯型が肉を抉っている、ここに居る瘴気の魔獣………あの絶叫…………この瘴気の魔獣はユウマがおびき寄せたのだとそう感じた




なぜ、危険を自ら呼び寄せるのか…理解出来ないことだ、しかし…
ユウマから漂う雄の匂いで察する……




ユウマの全身から獣の雄の匂いがする…特に口元から異様なほど臭う獣の…雄の精の匂いに気がついてしまった
…………これは、小型の瘴気の魔獣に腹を食われている男の匂いと同じだ…そしてミーシア王女がユウマに守られるように庇われている光景…この惨状…

ああ、そういうことか…
ユウマは自らの身体を犠牲にし、辺境伯で王女が辱めを受ける最悪の事態を回避したのか…
そして耐え難い何かをされそうになり、魔獣を血と叫びで呼び込んだ…必ず俺が此処へ辿り着かなければ成功しない賭け、しかし成功すれば自分の身一つで辺境伯を守れる、心を殺し行為を受け入れたんだろう…俺の為に…


まだ動く瘴気の魔獣がこちらへ向かってくる、お前たちに用はない、喉を更に深く噛みちぎり、地面に押し倒す
周囲を染める黒い血しぶきが俺の体をもさらに黒く染めていく、化け物同士の争いは目を背けたくなる地獄だ
しかし、ユウマは俺の戦う姿をじっとみていた
一瞬も目をそらすことなく俺を…愛おしそうに見つめるその目が恋しい…




俺とユウマ、ミーシア王女以外が死に絶えるか泡を吹き地面に倒れ、とりあえずの最悪の事態を脱した頃
辺りには黒い血溜まりが広がる最低の現場で、黒い獣のまま、ミーシア王女にしがみつかれ身動きができないユウマを見つめていた
ミーシア王女に近づきたくない気持ちと、ユウマは俺を怖がるかもしれないと思う気持ちから一歩が踏み出せない
…しかし、ユウマは俺の名を呼ぶ、早く触れたい気持ちが伝わってくる、姿など関係ないというように俺を見つめるユウマからは嫌悪の欠片も感じなかった


ユウマが俺を呼んだことで騒ぎ出したのはミーシア王女だった
黒い獣のおれに気づかず、全く見当違いの場所に向けてグレスグレスと呼ぶ王女…挙句の果てに黒い獣の俺がグレスだと分かると汚い、汚らわしいと食べるならユウマを食えと騒ぎ出してきた
煩い…本当に煩い……………俺を運命の番だと宣っていたのは何だったのか…

化け物と罵ってくる王女を冷たく見ているユウマは、王女が自分から離れると傷が痛むのかゆっくり俺の下へ歩いてくる
早く触れたいが王女の近くには行きたくない…ユウマが側まで来るのをじっと待つ
ユウマは俺の前へ来ると両手を広げおいでと言う、同じ獣人の王女ですら泣きわめく化け物姿をした俺に対して、全く恐怖もない表情で受け入れてくれる

血濡れの獣の顔をユウマが柔しく抱きとめてくれる…ああ、ユウマだ、ユウマの匂いだ…
毛並みを撫でられ鼻先をくっつける獣特有のキスをすると本当にユウマに会えた喜びが募った


「助けに来てくれてありがとう…グレス…ずっと会いたかった…」


そう、喜びと、すこし悲しそうな表情が見える顔で告げるユウマを前にして俺はユウマがされたことを想像し心がざわついた
獣化を解き、血濡れの男になってもユウマは逃げない…遅くなってすまない、無事じゃなくなってしまった事が悲しい…腕の傷に触れないよう抱きしめると、ユウマも返してくれる…
こんなにも優しく、心のキレイなユウマにどれ程の苦痛を強いたのだろう…許せない…許せない……


「グレス以外のちょっとあれなの飲み込んだり咥えさせられて…グレスのもう一度咥えるほうがマシだって本気で思ったよ…」


……………………言葉を疑った…まさか、そこまでの事を…………あの獣人の男には死より辛い苦しみを味あわせてやると、心の中で決心する



口の中が気持ち悪いのだろう、ユウマはキスを強請る…俺もしたかったのは本心だ
洗浄魔法できれいにしてからでもキスはできた、しかしユウマが味わった苦痛を自分も感じなければと変な責任感でそのまま互いに貪りあう
俺も魔獣の血で口の中が最悪の事態だと忘れて……





結果は、想像を絶する嫌悪の匂いのオンパレードのキスに2人で吐きそうになり、酷い展開だと笑いあった











……………………
……………
………



その後色々あり、帰るかとシュゼル殿下に開いてもらった転移魔法陣からセイルが飛び出しユウマは気を失ってしまった
確かに木に手足と顔が生え、それが親しい者だったらショックだろう…魔獣よりもそれがショックなのはきっとユウマくらいだ



気絶したユウマ抱き上げ、辺境伯邸へと戻る
風呂に入りたいと言っていたから帰った後は直ぐに風呂に入れてやろう

腕の中で眠るユウマの重みと体温が、俺の下へユウマが帰ってきたと実感をくれる
救い出せてよかった…ユウマを失わずに済んでよかった…俺の中でユウマは心臓よりも大切な存在だと改めて理解した日になった

















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