黒い獣は巻き込まれ平凡を持ち帰る

たなぱ

文字の大きさ
上 下
21 / 38
平凡と獣が平穏な新生活を望む話

平凡は運命を見る

しおりを挟む



理解しきれないことが起きると人は考える事をやめる、おれも新人社員だった頃とんでもない営業先に辺り考える事やめた経験がある

今回もその類だ
考えたく無いだけかもしれない…それだけ衝撃的でどう理解すればいいかわからなくて…


運命の番


そう可愛らしい声で、仕草でグレスへ伝えたミーシア王女は、おれと同じく現状を理解できていないグレスへ駆け寄り…そして抱きしめた
周囲も現状が飲み込めていない…ミーシア王女の可愛らしい声だけが響く

「私の運命はこの国にいらしたのね!ずっとお会いしたかった、グレス様♡とても素敵なお名前とお姿♡ミーシアは貴方に会うためにこれまで生きていたのかもしれませんわ」

グレスの胸で甘えるようにすり寄るミーシア王女…運命の番ってなんだよ…そこはおれの場所なのに…言いしれぬ不安が過る…グレスが抱きしめ返して居ないことだけが唯一の救いだった

「ミーシア、皆さんが困っているだろう?やめなさい、申し訳ないグレス辺境伯…妹は世間の常識をあまり知らない箱入りなんだ…悪く思わないでくれ…」

シュゼル殿下の一言でその場は一度収まったが…ミーシア王女はグレスの腕にしがみついたまま離れようとはしなかった
グレスもどうしていいかわからない表情をしている、相手は他国の王女、無下に扱うわけにはいかない、使節団の他の人達も動揺している素振りが見えた…1人、運命の番という言葉に興奮している様子だったが意味がわからなかった

一度ガゼボで休憩を促し使節団の皆さまを案内する、グレスがやんわりミーシア王女に離れるように伝えたが通じていない

「グレス様は恥ずかしがり屋ですのね♡」

とか普通に勘違いしている様子…どうしようこの顔だけ可愛い感じ、ますます楓原と重なる…トラウマが揺さぶられるみたいで嫌だ…
セイルくんも他の使用人も心配そうにおれを見てくる視線を感じで余計に不安になってしまった

迎賓館の後ろは広い庭になっている、色とりどりの花やインテリア、その中にガゼボがある
ソファ形式で低めの机が可愛らしいゆったりできるタイプの場所、ソファ形式を採用したことをこんなにも後悔する日がくるなんて誰が思っただろう…

「グレス様♡素敵なお庭ですね?私、国から出たことがありませんでしたの!こんなにも綺麗なお庭初めてですわ♡
グレス様の膝の上でお茶ができるなんて…うふふ幸せですわ♡」

グレスが勧めた使節団の皆様への席を無視し、シュゼル殿下の言葉も聞かず、ミーシア王女はグレスが腰掛けたソファへ向かい膝の上に乗った
楽しいお茶会の筈が動揺だけが広がる…おれはグレスの横へ座る予定だった…そこで紹介も兼ねて…の予定がミーシア王女の行動で座らずにソファの後ろで控えている状態
モヤモヤしてしまう…グレスの膝におれ以外が座る事実に…グレスが何もミーシア王女に直接言えないのもわかる、不敬を働けば国際問題になってしまうから…
運命の番って…なんなんだ…使節団が滞在する間ずっとこうなのか…?居づらい…

「ミーシア王女!おめでとうございます、運命の番など中々見つかるものでは無い!この辺境伯殿の所でしたら嫁いで来るにも問題ないかと、国王陛下へ直ぐに早文を送りましょう」

そう、とんでもない事を言ったのは先程一人嬉しそうだった使節団の男…嫁いで…?誰が誰に?嫁いでくるんだ?

「まぁ!お父様へ早く伝えて!私、グレス様に早く嫁ぎたい♡運命の番ですもの♡」

はっ????????なんて言った?
顔色は変わってないか、変な顔をしていないか不安になる、他国の客の前なのに…グレスの事になると駄目だ、いやだ…おれの、おれだけの場所なのに…なんで奪われそうになってるんだよ…

「ミーシア、ヘリック、軽く口にする事では無いよ、父上には連絡するのは早すぎる、グレス辺境伯の事を何も考えずに行動していいと思っているのか?彼が既に婚約していたら?運命の事の風習があるのは我が国だけなんだよ?わかっているのか?

重ね重ね申し訳無い、グレス辺境伯…運命の番とは獣人に現れる生涯唯一無二のフェロモンを持つ相手の事なのです…我が国では運命の番は尊い物とされ優先的に婚姻を結んでいます
妹の運命の番が本当に辺境伯のことならば…縁談と言う形でお話をさせて頂く事になると思います…
グレス辺境伯は婚約者はおられますか?」

シュゼル殿下の説明にゾッとした…運命の番…下手したら相手に恋人がいようが婚姻する関係ってことか?グレスとミーシア王女が婚姻?する可能性があるって…?焦るおれに、周囲にバレないよう視線を少し向け、グレスは答えた

「婚約者はおりません、ですが私には心に決めた相手がおります、その者以外と婚約も婚姻もするつもりは無いことをご理解頂きたい」

きっぱりと、言ってくれた
咄嗟に考えた言い訳かもしれない、でもグレスがずっと一人で居てくれたらおれにもいつの日かチャンスが来るかもしれない…その心に決めた相手がおれだったらいいな…そんな淡い期待を持ってしまう…今は飼い主とペットの関係だ
シュゼル殿下はグレスの答えをちゃんと納得してくれているようだ、ミーシア王女をグレスの膝から降ろそうとする…しかし

「そんな!そんなことはあってはなりませんの!運命の番ですのよ??2人にしかわからない愛のフェロモンを感じることが出来る唯一無二の運命!
それ以上に勝る存在などないのに!
グレス様、私はグレス様と結婚します!運命の番っですもの!お父様へ婚姻の打診を出していただきますわ!ルティーリア国とガレナ神聖国の素晴らしい架け橋になれるこの運命の婚姻が拒否される理由ありませんもの!
その心に決めた相手も第二夫人でしたら許して差し上げますわ?私優しいの」

涙を目に貯め、見た目だけなら最高に可愛いミーシア王女はグレスへ訴える…半分脅しにも近い言葉
国との繋がり、ルティーリア国から縁談を持ちかけられる事になってしまったら断る事など出来るのだろうか…てか、第二夫人ってなんだよ…
グレスは答えに困っている様子だ…発言が通じない相手、楓原をきっと頭に浮かべているかもしれない…
答えが返ってこないグレスにもやもやしたのかミーシア王女はおれを見てきた

「ねぇ、そこの…使用人…?奴隷?あなたもグレス様と私の婚姻は素晴らしい事だと思うでしょう?隷属の首輪をしてグレス様に飼われてるんなら、今日から私もあなたの飼い主ね?素敵なご主人様が増えて嬉しいでしょう?」

この王女が何を言っているかわからない…
お前がご主人様?は?だめだ、口を開いたら暴言しか出てこない気がする、国際問題になってしまう…隷属の首輪込でおれの存在なのに、他国の要人の癖に頭足りてねぇのかよ!!なんだよ奴隷って!
グレスの握られた指に力が入っている、怒りを覚えてくれているようで少し嬉しい
でもこの王女…本当に人の話を聞かない…どうするんだよこいつ… 


「ミーシア、いい加減にするんだ、我々は使節団として来ているだよ?それに彼は奴隷じゃない、そんな事も知らないのか?とにかくグレス辺境伯から離れなさい!」

「そこまで言わなくてもシュゼル殿下、ミーシア王女の運命の番ですよ?もっと祝って差し上げても」

シュゼル殿下が場を収めようとしてくれるのに、ヘリックと呼ばれた男はミーシア王女の味方のようだ…そのうちミーシア王女が泣き出した
私は間違っていないお兄様の馬鹿…と叫びながらガゼボを出ていく…後を追うヘリックという男
追わなくていいですとグレスや他の人に伝えてくれる殿下の表情は少し暗かった

完璧に寝る間も惜しんで今回の使節団を迎えるために準備をしたのに出だしが最悪になってしまった
その後も元が脳天気な性格なのか復活も早いミーシア王女は事あるごとにグレスへ抱きつき、膝へ座り…夜開催された晩餐会ではグレスへエスコートを求めた…シュゼル殿下の言葉は届かず王女へ他の使節団のメンバーは物を言えない

そして夜、
まさか出会ってからの短時間でグレスの瞳と髪色を交えたドレスを準備してくるとは思わなかった
グレスは辺境伯としての正装だが、ミーシア王女はグレスの色に染まりエスコートされる…
知らない人が見れば2人は婚約者だ、その二人の後ろを歩く隷属の首輪を着けた、おれ…2人に飼われていると勘違いされてもおかしくない状況
真顔で国際問題にならないよう笑顔もない、グレス専用の神子様もどきのついて歩くおれも真顔…


今日は終始胸のもやもやが募っていた




流石にグレスの部屋へミーシア王女が泊まろうとする暴挙はシュゼル殿下の活躍で防がれ、迎賓館の隣のホテルへ泊まって貰った…よかった
辺境伯家へ戻り、皆で顔を見合わせてしまった…
使用人の皆も、セイルくんもおれとグレスを見てよく頑張ったなって顔をしていた

グレスと部屋へ戻る
今日はミーシア王女が来てからグレスと直接話していない、部屋の扉が閉まるとグレスはおれを抱き締めて唇を奪ってきた、相当焦っているのか頭を抱き寄せられ、無茶苦茶に口内を貪られる

「ん゙っ、んん♡んぁ゙……っ♡グレスっ、ちゅ♡焦んなって…はっ、んんっ♡」

おれの言葉も無視して息が上がるほど舌を吸われて甘噛みされて、唾液を奪われた
おれは息絶え絶えでグレスに支えられるようになってから、少し落ち着いたのかボソボソと今日のことを話し合う

「あの王女の言ってることがわからない…運命の番って…がわからない…あの女からは凄く嫌な匂いがした…ドブのような酷い匂いだ…それが運命?そんなわけあってたまるか…
もっと許せないことは俺のユウマを奴隷だと、奴隷と言った事だ…巫山戯ている、ユウマの飼い主は俺だけだ、ユウマは俺だけのなんだ…
畜生…下手に騒げば国際問題になってしまうことが不愉快だ…シュゼル殿下と使節団の大半は普通なのに何なんだ…ユウマ、ユウマが足りない…あの女に触れられた所が臭うんだ…」

「おれはグレスのだよ、誰にでもないグレスだけの日比野優真だ、そんな泣きそうな顔すんな?おれだって今日は不安で泣きそうだった…
グレスの膝の上はおれの居場所なのに…あの感じ、楓原がもう一人いる気持ちになって辛かった…
おれは鼻良く無いからわからなかったけど見た目だけ可愛くて臭いの?あの王女様
風呂行こうぜ?全身丸洗いしてやる、代わりにおれの匂い付けとく?」


王女が臭いで2人で笑った、一緒にお風呂に入ってグレスを丸洗いして…冗談で言ったのにグレスがおれの匂いつけるって射精させたの腹に塗りだしたのは焦った
酷い1日だった…明日はどんなことをしてくるのか不安でしかない…でも、こうしてグレスに抱きしめられて眠ると嫌なこと忘れられるんだ…
グレスは王女を好きじゃなくてよかった…おれを腕の中に求めてくれて嬉しいよ…








2人で眠りにつく…
そして、また朝が来てしまう





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...