黒い獣は巻き込まれ平凡を持ち帰る

たなぱ

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平凡と獣が平穏な新生活を望む話

平凡は不穏な気配を察知できない

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時々、ちょっと王宮に戻って来ない?や小言を伝えてくる国王陛下様から久々にまともな要件がきたと今朝グレスが苦笑していた
隣国から辺境伯領土へ、使節団がくると

辺境伯領土で新生活を始め半年が過ぎた
まさかの他国からのお客様がくる…だと?


人ならざる者と人が共に暮らす国、隣国、ルティーリア国
グレスの母の故郷だ、グレスが幼い頃までは人ならざる者が隠れ住み人に化けて過ごしていたが、近年国王が代替わりし、表舞台に人ならざる者達が出てきており、隠れず過ごすようになっていると

その結果が現在、辺境伯領土に時々訪れる隣国からの観光客や商人に繋がっているらしい
セイルくんの恋人が獣人なのも隠さずに言えるのはこのためか…どうりで普通に耳や尻尾生えたおにいさん、おねえさんが観光に来るわけだ

セイルくんの恋人情報だが、ルティーリア国には全身獣や爬虫類の人もいるらしい、けどこれまで共に過ごしてきた人の本当の姿を受け入れる、それこそが愛だと、新しく国王になった獅子の獣人がとんでもないカリスマ性で国民を納得させ、他種族が暮らすにしては、すごく平和な国として有名になりつつあるという

そこでふとグレスの言葉を思い出す
グレスの母は、レイチェル様というルティーリア国の貴族令嬢、政略結婚で嫁いできたが国王陛下との間に生まれた子は人ではなかった
その頃はルティーリア国は人ならざる者が隠れ住んでいた時代、隔世遺伝で獣人の姿で産まれてしまったグレスを受け入れる事はできない
どちらの国にも居場所がない、王宮に味方もいない…レイチェル様は心を病みグレスを突き放して生活し、若くして儚くなった…と、そんな話をしていた


ああ、だからか…そんな過去があり、現在の隠れ住む生活から表へ時代が変化したルティーリア国は、ガレナ神聖国で唯一の獣人、そして爵位を持つグレスの治めるこの辺境伯に興味を持った
使節団を派遣し両国の繋がりも活発にしたいとそういう思惑があるんだろう

今回の話を聞くに、ガレナ神聖国の国王陛下はグレスにこの使節団への対応を一任したいのだろう
自分はうまく美談でまとめているがグレスを物として扱っていたし、獣人が好きではない
国同士の挨拶も兼ねて王都へ一度向かいそれから辺境伯へ観光も兼ねて辺境伯へは半月ほど滞在するんだとか…ほぼ辺境伯負担だ


この話をおれにしたグレスの表情は渋い
めんどくさい事を押し付けられたって顔をしている
それは、そうだよな…自分の母を助けてくれなかった見ず知らずの国…
グレスの心境もわかる気がする…国の代表として使節団をもてなすことは仕事だ、でもを直に喜べるほどグレスの心は明るくない、複雑な心境…
それにまだこの地に来て半年、色々忙しい時期にあのに国王陛下…



なんとも言えない顔したグレスを屈ませて、頭をわしゃわしゃする

「一緒に使節団おもてなし頑張ろう?国王陛下驚かせるくらいな!おれも全力で手伝うよ」

そう伝えると、グレスは耳をパタパタして少し幼い顔でうんって頷いた
どんだけ嫌だったんだ…グレスさん…






使節団を迎えておもてなしする
はっきり言って、日本人で普通の営業マンだったおれにはわからない、元王子で最近辺境伯になったグレスにもわからない
つまり、おれたちでは解決しないことに気づいて笑いあってしまった

「セイルくん先生ヘルプ!!!助けてください!!」

「セイル、申し訳ない…何分まだ知識不足と経験不足でどうしたら…」

半年も過ぎればセイルくんはなんか友だった
引き継ぎ担当の人から、辺境伯邸に住んでる友人で家庭教師みたいなそんな間柄である


「使節団受け入れの件ですよね?大丈夫ですよ、こちらにも情報来てます、ですが時間もホントに無い…死に物狂いで準備しましょう!ちゃんとお手伝いしますから!」


侯爵家三男というのはこんなにも博識なのか、いや文官が博識なのか?セイルくん先生は神かもしれない、まるで歩く辞書、なんて素晴らしい
使節団が来るまでの1週間、死に物狂いで準備した
何故そんなに日がないのか、国王陛下の連絡ミスである、あの野郎って心の中で思った


「獣人の方は匂いがキツイものは好みません、私の恋人の好みに合わせていいですか?彼、センス最高にいいので恐らくどんな相手だろうと合うはずです、料理は辺境伯領土の郷土料理と国境の郷土料理を主体に獣人の好む物を提供しましょう」

「迎賓館の雰囲気はこれでいいか?あまり派手すぎるのは良くないと聞いたが」

「大丈夫です、それでいきましょう、この辺境伯が生まれ変わっている途中であることを、うまく伝えられそうです
ほんとこんな忙しい時期に来るんですものね」

「セイルくん先生!例の櫛できました!」

「ユウマくん素晴らしいタイミングです!異世界すごいですね…獣人用の櫛があるとは…このなんというか…何でしょう…鉤爪のような不思議な感じ…これがお好きなんですか?グレスさん…」

「ああ…昇天レベルだ」

「これは…強いカードになりますね…」


おれがセイルくんに手渡したのはペット用のよくホームセンターで売ってる櫛、見様見真似でグレス用に頑張って作ってみたやつの量産バージョンだ

もふもふの毛並みをブラッシングしたかったんだ…グレスも超お気に入りのブラシ、もとい櫛
まさか使節団へのアメニティに組み込むなんて…
時間も無いので使い捨てでいい感じに、グレスにブラシ作りたいで仲良くなった街の職人さんと全力で作りました!!頑張りすぎて二日くらい指が死んだ



そんなこんなで1週間本当に大変だった…
王宮に使節団が到着してからこちらへ連絡してんじゃん?と当日になってから気付いたよ…あの国王…







使節団がいらっしゃる当日
とても快晴、雲ひとつない素晴らしい日
正装に身を包んだ最高にかっこいい男前グレスが迎賓館で待機する、珍獣枠のおれはグレスの隣で営業スマイル
セイルくんや執事さん含めみんな高級ホテル並みの気合でお出迎えスタイルだ

馬車が止まる音がする、遂にご到着ですか…!



「ルティーリア国より使節団の皆様がご到着されました」

執事さんの声とともに馬車の扉が開く
この人たちが使節団…男性3名、女性2名、耳や尻尾
、鱗など人ではない特徴を本当に持っている
恐らく一番爵位が高いであろう、綺麗な金髪の男性がグレスと向かい合う

「ようこそ、この地へ、私は現辺境伯グレス.ヴェゼル、皆様を歓迎致します、長旅でお疲れでしょう?お部屋へご案内します」

「グレス辺境伯、お会い出来て光栄です
私はシュゼル.ルティーリア、一応第三王子ですが今回は使節団の一員として統括を務めています
王族としてではなく一個人として滞在の間よろしくお願いします」


微笑ましい挨拶が進む…
とんでもない美形のおにいさんは王子でした
グレスがバレないように内心国王って思ってるのがわかるか…わかるよ、その気持ち…
国王陛下????王子ご来店ですけど???陛下???報連相しってる?

まさかの王子が使節団統括に一同内心ビクビクしていた時、馬車からもう一人降りてきた


「きゃっ!もう、みんなどうして起こして下さらないの?お兄様酷いです!もう!わたくしだけお寝坊したみたいですわ」

可愛らしい声、美しいプラチナブロンドに翡翠の瞳、キツネと思われる耳と尻尾が生えているとんでもないレベルの美少女はグレスに挨拶をしている男性に声をかける
なんだろう…話し方とか雰囲気が若干楓原に似ている…


「すまないね、ミーシア、とても気持ちよさそうに寝ていたから起こさなかったんだ
紹介します妹のミーシア、ルティーリア国第五王女です、今回どうしても一緒に来たいと付いてきてしまいまして…」


第三王子だけではなく第五王女までなぜここに来るんでしょうか国王陛下??
使節団メンバーの圧が凄いです、王族ぽんぽん来ないでください…グレスの胃痛が生まれそう!!
そうしているうちに、ミーシア王女は美しいカーテシーを披露し挨拶をした…したはずだった…


「わたくし第五王女のミーシア.ルティーリアですわ、滞在中よろし……………………」


しかし挨拶は途中で止まり、視線が一点を向く
頬が赤く染まり、可愛らしい顔がさらに可憐に変化する…視線の先…グレスがいた


「まぁ、まぁ…なんてことですの??こんな奇跡があっていいのですか?」


王女様は一歩一歩前へ進む
グレスを見つめたまま奇跡という
そして…………………





「お会いしたかった…!私の運命の番!」





そう言ってミーシア王女はグレスの胸へ飛び込んだ…










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