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平凡が異世界で獣と出会う話

平凡は差し出す

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グレスが国王陛下に呼ばれてから、離宮へ帰ってきていない



「いつもの神子様の戯言の確認か、討伐の件だろうユウマは離宮でいつものようにしていろ、すぐ帰るからそんな顔するな、行ってくる」

何の変哲もない朝、王宮に行くグレスを引き止めたり頭撫でられて飼い主が仕事に行くのを見守るペットポジションを披露したり…いつもと変わらない日だったはずなのに…
その日の夜、日付が変わってもグレス戻って来なかった

その翌日も、さらに翌日も
何かトラブルでもあったのか確認するが離宮の使用人にはわからないのだと言う

グレスが帰らず、使用人の人との会話が増え知ったこともある、この離宮に勤める使用人は数が少ない、訳アリだとは説明を受けていた
その理由がわかった全員、王宮で一度何かしらのトラブルに巻き込まれ冤罪で処罰された者達だった
本来、冤罪付きで解雇されれば待っているのは野垂れ死にする未来だとそう悲しい顔でみんなは言う
グレスに冤罪だと庇われ、拾われて離宮から出ない約束で勤めている…心からグレスに感謝する、そんな経歴の人達だった
暗殺とか慣れてるのがわかった気がする…

離宮から出ないことを条件に生かされている彼らと、離宮へ身を寄せ外へ出ないことを約束したおれ、王宮や討伐に関する情報など分かるはずがない…


そうしている間に1週間が経ってしまう…グレスは無事だろうか?だた討伐へ遠征ならそれでいい、でも…
ここ最近おかしい事もある、おれへの暗殺未遂がない…無いほうがいいがグレスがいないチャンスにも関わらず使用人曰く、暗殺が行われる気配がないらしい…



グレスがいない夜が、ご飯が、生活の全てが寂しい…早く帰ってきてくれしか思えない…
一人、グレスのベットに入り寝ていると部屋に僅かに残った彼の匂いで涙が出る…寂しい…悲しい、グレス今何処にいるんだ…?
どうして連絡をくれないんだ…何かあったのかよ…どうしたら…

日に日に焦燥感が募る











今日で1週間が経った
グレスは帰ってきていない



グレスがいない日々、段々と食事も喉を通らなくなってきた…今日はグレスが帰ってくるかそればかり考えてしまう


「ユウマ様!大変です!」


急にグレスの部屋に入ってくる執事さん、すごく顔色が悪い
部屋の外に見えるメイドさんも真っ青だ…どうしたんだよみんな?



「失礼する」
客人など来ない離宮に似つかわしくない、大柄で騎士の様な見た目の男が執事さん達の静止を振り切り部屋に入ってきた、よく見ると何処か憔悴しきったような…目の下に隈のある男



「…………どちらさまですか…?」

「私は国王陛下へ仕える近衛騎士が1人、名乗るほどの者ではない、至急の用で参った、素直に答えろ…お前がヒビノユウマか?」

「そう、です…あの…なんでしょうか…?」 


「ヒビノユウマ、結論から言おう…神子様が暴走された、第一王子殿下の命が危ない、一緒に来てもらうぞ」


突然の来訪、神子様の暴走
久方振りの知らせはグレスの帰還を告げるものでは無かった





「グレ……っ、第一王子殿下の命が!?どういう事ですか!!」

「簡潔に話そう、1週間前、神子様がお前からの嫌がらせに心を病み、魔力暴走を起こした
光属性の魔法の一つ魅了・洗脳魔法を高レベルで発生させ続け、周囲の者を取り込みお前への復讐の為に第一王子殿下を捕らえ監禁している状態だ
現在王宮の者全ては魅了に落ち耐性のあるもの以外は己の意識すらない…
私も耐性がある者の1人、私への神子様からの命令はお前を引き釣り出し、神子様へ献上する…………ぅ゙ぐっ……………はぁ、はぁ…、くそ…!!」


「おい!大丈夫か!?1週間前?魔力の暴走!?楓原…何やってんだよ…………グレスは!?グレスが危ないのか!?」


グレスが危ない?監禁??どういうことなんだよ…!近衛騎士というこの男は苦しむと自らの手を小刀で刺した、呻きながら息を整える、正気と魅了?洗脳?の間を行き来しているようだった

「良く聞けヒビノユウマ、神子様はお前を所望している、復讐するのだと言っていた、そのための第一王子殿下の準備が整ったと!お前を連れてこいと…!
無理矢理にでも連れてこいと言われたが、私は魅了も洗脳も効きづらい身体だ、だからこうしてお前に情報を与える、第一王子殿下がお前は無実で無害だと何度も言っていたそれを信じよう

神子様のような力を上手く使えない者が魔力暴走した場合、目的が達成されても止めるすべを知らないのだ、暴走は止まらない、素直にヒビノユウマを差し出してもこの事態は終わらない

神子様の魅了と洗脳から除外されているお前にしか頼めない、神子様の暴走を止めてくれ…なんとか持ち出した魔力抑制の首輪だ、これを神子様に…
神子様は自分で悪意ある指示を出している、気を付けろ…第一王子殿下は………………」


そこまで言うと、近衛騎士の瞳から光が消えた、にやにやと楽しそうに笑いおれの腹を殴ってきた


「っ!!!!!!ガハッっ!」
急な衝撃、腹部襲う痛みに床に倒れる、いてぇ、なんつー力だよ!これが魅了と洗脳された状態?
執事とメイドがこちらに来そうなのを止める
理由がわからない、わからないが行くしかない、グレスがいるんだ

楓原を救うとかはぶっちゃけどうでもいい、グレスがそこにいる、グレスが死にかけてるかもしれないならおれは迷わず行く



近衛騎士がおれの頭を掴む、そしてそのまま床へ叩きつけた…まるで操り人形だ

ゴスッゴスッ…
嫌な音がする…ヤバい…頭が、ぐるぐる回る…気持ち悪い…目が、意識が…
本当に無理矢理連れていくのかよ………まぁいい、待ってろグレス、今行く…

おれは意識を手放した…














……………………


「日比野先輩、とても会いたかったですよ」


可愛らしい声が聞こえる
なんとか目を開けると目の前には目に光の灯らない異様な笑みの第二王子に抱き締められた楓原がいた

恐ろしくゾッとする笑顔で、怪しく楓原が笑う
直ぐに動こうにも、頭が痛い…手足が動かない…
ここにグレスがいるのか…?どこだ…?



動けないおれに対してクソ殿下から少し離れ見下すように楓原は話始める
「私、この国の為に浄化の力を使いたくってすごく頑張ったんです、でもやっぱり使えなくて、なんでだろうってずっとずっと悩んで毎日泣いて…わかります?先輩わかりますか?この気持ち、わかんないですよね?女心もわかんない先輩ですもん
いっぱい悩んで、召喚された部屋にいた神官様にね、相談したら心が正常でないからかもしれないって神官様が言うんです、心当たりあり過ぎてびっくりしちゃいました
私の心、正常じゃないんです、日比野先輩、あなたのせいで…
私は先輩に心からの謝ってほしい、謝罪して償いをして欲しい、私に跪いて許しを請う姿が見たい…絶望してほしい、そうすればきっと私の気持ちは満たされるの…
今ね、私のことみんな応援してくれてるんです、第二王子も王様も城の人みんな、みんな…私の味方なの、私は正しいのこれって当たり前でしょ?
日比野優真が私に許しを請うためにどうしたらいいか、みんな私の計画手伝ってくれたの…うふふ、先輩すごい顔、何考えてます?私の話より第一王子殿下のことかな?ちゃんと合わせてあげますよ、彼も手伝ってくれたんですよ?…………見せてあげて」



跪く?絶望?楓原が何を言ってるのかわからない、なぜそこまでおれに執着する?おれは彼女に何をしたんだ?どうしてグレスを巻き込む?
わからない…わからんねぇよ…
楓原の言葉におれを連れてきた近衛騎士がと知らない男が動く、この部屋は楓原の部屋か?異様なほど可愛らしい部屋、多分そうだろう、この部屋には楓原と第二王子、近衛騎士の人、知らない男が2人…全員にやにやと、変な笑みを浮かべて楓原をうっとり見ている…
おれは縛られてはいないが近衛騎士に暴行された影響でまだ全身上手く動かせないようだ…ちくしょう…どうなってるんだ…グレスが楓原の何を手伝うって言うんだよ…



混乱するおれの前に、男達が大きな布に包まれた何かを運んでくるとまるで荷物の様に床へ落とされる、ドサッ…重量感のある何か…
布の一部は黒く汚れと思われるものが滲んでいる………まさか、まさか…?
楓原は大きな布に包まれた何がまで近づくと、顔だけは可愛い顔でおれを見る
「先輩がちゃんと私に謝ってくれるように準備したんですよ?いっぱい協力してくれたんです…彼」


バサリと取り払われる布、布の下から現れたのは黒、艶のない全てを飲み込むような黒い腕、見覚えのある耳に尻尾、顔が見るも無残に半分程度まで黒く塗りつぶされている、ソレは、おれが会いたくてどうしようも無かった存在……


「グレス…なんで…………嘘だろ…?」
なんだ、なんだよこの姿…


おれに出会う前よりも瘴気の侵食が進んだグレスが目の前に横たわっている、殴られたりもしたのだろうか黒く塗りつぶされた部分から違う液体が溢れている所もある



グレスがいなくなって1週間
グレスの身に何が起きていた?
グレスは何をさせられていた?
なんで侵食が進んでいるんだ…!?!



「あ、…あ、…グレス、グレス、グレス……」
全身痛い、気にしてる場合じゃない、グレスが目の前にいる!もっと側へ、側へ、瘴気の侵食をどうにかしなきゃ…!
ずるっ…ずるっ……這うように必死にグレスの元へ向かおうとするおれの手に激痛が走る
楓原に手を踏みつけられていた、ヒールが皮膚に捩じ込まれ痛い


「先輩?せっかく会わせてあげた私にお礼も無しに何してるんですか?
まだわかってないですよね?第一王子殿下の命は私が握ってるんです、優しい私は彼を救ってあげたい、でも先輩のせいで浄化が使えないの…
わかりますか?先輩の心からの謝罪と私への罪滅ぼしで私の心が満足したらきっと浄化が使えるようになる…!!そうすれば私は幸せになれるの
わかってくれました?素敵な計画でしょ?ねぇ!素敵でしょ?」

ガスッガスッ…
楓原が何度もおれの手を踏みつける
ああ…そういう事かよ…グレスを救うためにおれの行動で楓原を満足させろって事か…
でもそれだけじゃこの現状は終わらないんだろう?どうやって楓原に抑制の首輪を付けるんだよ…無理ゲーじゃん…
だが、おれの謝罪で楓原が浄化を使えるなら、それでグレスが助かるならそれでいい、まずはそこだ


手を踏まれたまま、おれは楓原を見る
変わらず可愛らしい笑みを浮かべる楓原はじっとおれを見てくる、さあ伝えてと言わんばかりに


「この度は…楓原に大変不快な思いをさせてしまい本当に申し訳御座いませんで「はっ?????馬鹿じゃないの!?違うでしょ!!!何考えてんのよ!!!!」…ぁ゙ぐっ!」


ギリギリと踏みつけられる手、いてぇ…なんだよ、何が気に入らないんだ…わかんねぇよ楓原…


「先輩、先輩はなんでそこそこ仕事できて、そこそこ優秀なのにこんな事もわかんないんです?私のことバカにしてるんですか?誠心誠意の謝罪が欲しいんです、先輩が私に屈伏して許しを請う姿が!私への罪滅ぼしに全て差し出すくらいのちゃんとした誠意が欲しいのに!
ほんとなんもわかってないんですね?女心踏みにじって平然としてるのも普通なんです?もう、やだやだ!ちょっとでも先輩いいかもとか思った昔の自分が嫌い!先輩が先輩でいる限り私は幸せになれない気さえする!!!ほんと不快!なんなの?
…………あ、そうだ!先輩が先輩じゃなくなるくらい壊れてくれたら私満足できるかも…?
壊れて泣き喚いて私へ、必死にごめんなさいする先輩ならいいかも!あはは!それってすごくいいかもしれない!…………先輩、壊れて?私を満足させて?
逆らったら大切な第一王子にコレまた飲ませちゃうよ?」


おれを壊したいと笑う楓原が小さな小瓶を見せてくる、真っ黒な液体の入ったそれは異様に禍々しく見える


「なんだよ…それ…」

「瘴気で侵食された魔獣の血液♡
神官様がね、先輩の大切な第一王子を協力させたいって相談したら教えてくれたの、瘴気に侵食された土地にいると穢が溜まって魔獣になるでしょ?魔獣に触れても直接は侵食が接触した相手に移ることはないの、でも穢れきった魔獣の血液、血肉を体内に取り込むと侵食されちゃうんだって
先輩を苦しめるには彼の協力が必要だからね
日比野先輩を直ぐに殺すことできますけど、協力してコレ飲んでくれてる間は無事でいれますよって言ったら面白いくらい従順で驚いちゃった
なかなか侵食進まなくて1週間かけてここまで完成させたの
まだギリギリ魔獣にはならない、でも…
私の気持ち次第で彼、魔獣になっちゃうね?早く私に浄化使わせなきゃ本当の化け物が生まれちゃうよ♡」


狂っている、こいつは
酷く楽しそうに、笑うように楓原は言う
それを、その血をグレスに飲ませたのか?
せっかく侵食された部分が減ってきて笑って喜んでくれたグレスに?
グレスはおれが知らない所で守ってそんなもの飲んで耐えててくれたっていうのか?
酷い、なんでそんな酷いことできるんだよ…
元々の原因はおれだと楓原は言う、その理由はわからない、でもおれがグレスをこんな目に合わせてしまったんだ…



知らない間に涙が浮かんでいた、おれは答える
「神子様…おれを、どうしようもない愚かなおれを、壊してください…グレスは悪くないんです、おれだけが悪いんです…どうか、どうか御慈悲を…」




グレスを助けたい
グレスに生きてて欲しい…
おれが壊れれば浄化してくれるんだろう?
楓原が満足するまでおれを好きにしたらいい、グレスはおれに巻き込まれてしまったんだ…こんな目にあっていいやつじゃない、ごめん、ごめんな…








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