黒い獣は巻き込まれ平凡を持ち帰る

平凡が異世界で獣と出会う話

獣は平凡を持ち帰る

Side　？？？



ガレナ神聖国
俺が順序的には第一王子として出生した女神様がと神子様を崇拝する国
この国に、人ならざる者も紛れて暮らす他国から嫁いできた側室の母、その子が俺
人であるはずの母から生まれた俺は、完全な人では無かった、母の先祖に人ならざる者が居たのだろう、幼い頃から獣の王子と呼ばれ直接的では無いが蔑まれている
だから後から正妃より生まれた弟を大切にする周囲の心境も無理はないのだ


現在まで殺されたり廃嫡されることはなく今でも王宮で一応王子様ではあるが、人ならざる者の力を国防へ使えと幼い頃より何度も討伐作戦に参加させられている、確実に討伐中死んでも差し障りないと思われているのだろう


今回も国王より辺境まで瘴気に侵された土地の魔獣を討伐してこいと命を受け、半月ほど
無事討伐が完了したため、久々に城へ帰還すると地下から知らない異様な気配がした
城の中にも強い光属性の魔力が増えている
半月の間に城で何かあったのか、そろそろ神子様を召喚できる時期だったはずだ、それが早まったのか？


神子様とはこの世界を守る女神様から遣わせられる瘴気を浄化できる存在
瘴気はこの世界の至るところから地下より湧き出す自然災害の一つだ、詳しい原因もわかってはいない、瘴気に長く晒されると生きとし生ける者は魔獣へ変貌し土地を荒らしてしまう


瘴気で穢れた土地浄化できるのが神子様だ
神子様の浄化の力を剣や杭に溜め込み、穢れた土地へ打ち込む事でその一帯全て浄化ができる


女神様は世界に穢れが溜まらないよう、その時の様子に合わせて不定期に神のお告げを通して神子様を召喚して下さる、らしいのだ


強い光の魔力を感じる方向には俺の弟の気配、恐らくこの気配が神子様なのだろう
じゃあこの地下の異様な気配の持ち主は…なんだ？





弱々しいがこの国で見たことがない魔力の質
長年の討伐で瘴気が身体に入り込み、人ならざる者としての特性が強くでる俺以外は気付かないのかもしれない



蔑まれていようがここは俺の生まれた国だ
異様な気配がこの国へ害をなす存在なのか確かめに行くのもいいだろう
部下へ先へ戻るよう伝え、気配のする方へ足を進めた








異様な気配がするのは地下牢だった
普段は余り使われない、他国からの密偵らを尋問、拷問する時に使われる外部に声の届かない地下牢

こんな所に収容する程の存在…異様な力を持つ密偵か？だが、その者が収容されている筈なのに見張りの一人もいない事が不思議だ


地下牢を進むと気配の主がいる
そこには、珍しい黒髪に見たこともない服、薄汚れた床に腕を縛られた男が倒れていた



密偵や賊にしては容姿がおかしい
顔を覗き込むが、意識が無いのか反応は無し、未成年と思われるくらい幼い顔、乾いた皮膚に唇…縛られた腕は赤黒く変色している
水桶すらも用意されておらず見張りもいない現状を見るに此処に放置されているんだろう

なぜ…？

消え入りそうな異様な気配はこの男からするが悪意や害意はなさそうだ…むしろ…
何か犯罪を犯したにしても、子供相手に何を考えているんだ…
牢屋へ放置し餓死を狙っているのか…いや脱水での死か…？



暫く幼い頃顔を眺めていると罪悪感が湧いてくる…
見張りも立てず此処に置き去りにするくらいの存在だ、何か罪があるにしろこの扱いは酷すぎる
捨て置いた奴がいらないなら俺が拾って帰っても問題ないだろう
死を望まれる程の罪があるなら俺が息の根を止めればいい

汚れた余りにも軽い身体を担ぎ地下牢を後にした











誰かに見つかるのはマズいかもしれない
拾ってきた男を、誰だか知らないがあそこに捨て置いた相手に見つかるのは良くない気がする

そう考えた俺はとりあえず気配を消し、木の上を伝い、屋根の上を移動し、壁伝いに自室へ窓から入る
誰にも会わず帰宅が可能、人ならざる者の力はこういう時に役に立つ

とりあえずソファへ男を寝かせベルを鳴らし使用人を呼ぶ
俺に付く使用人は、全員訳ありだが人ならざる者の姿をする俺を認めてくれる口の硬い者たちだ



失礼しますと入ってきたメイドに濡れタオル頼む
薄汚れた男がソファで寝ていても眉一つ動かさないメイド、優秀で何よりだ


男の縛られた腕のロープを千切る、変色した手先と皮膚が捲れ血が滲む手首が痛々しい…
治療は後でするとして、とりあえず脱水を疑う男に水を飲まよう、このままでは死んでしまう


意識の無い男を抱き起こし、口元に果実水の入ったコップを傾けるが唇が濡れただけで無反応…まあ普通では飲めないか…
しょうがないと果実水を自らの口に含み、男の唇と重ねる、ぬるりと舌を入れるとガサガサに乾いた舌と触れ合い眉間にシワが寄る、どれくらい水を与えていられなかったのか…
ほんの少しずつ誤嚥しないように水を男の口へ流し込む、ピクリと舌が動き生きたいと身体が訴えているようで安心した


コクリ、コクリ…


男が嚥下するのをみてほっとする
もう一口、口に含み再び唇を重ねると強請るように舌が伸びてくる
飲む意思があるならと一度をコップを近づけるが上手く飲む事が出来ず溢してしまう、衰弱しているのだろうと男が満足するまで何度も果実水を口移しで飲ませた



口移しを続けて男の体内に水分が行き渡ったことである事に気付く
私の舌と触れ合う、男の口内に水分を得て復活した唾液
水を強請るように動く男の舌が私と絡まる…私が男の唾液を摂取するような形になることで感じだ違和感、体内の蓄積された瘴気が薄れていく気配…
これは一体なんだ…？
神子様ではない謎の男、異様な気配の理由はこれなのか…？この男は一体…





動揺を隠せない俺を他所に
満ちるほど水分を得た男はいつの間にか寝ていた