悪役令息に転生したおれは、ひたすらに尻を守りたい

従者が優しい

なんかもう色んな感情が込み上げてきて涙が止まらなかった
自分でしてきたことなのに、前世を思い出して何処か他人事にしてしまいそうになる自分が嫌で嫌で…


それに、何よりフィルにした事、他の使用人にして来たこと思い出すだけでも辛い…これまでのおれがクソ野郎過ぎて…嫌になる
ごめんなさいって本当に申し訳ない気持ちと、これからこのクソガキ精一杯真面目な人間になるから！将来の調教メス犬コースだけは許してとか、自分の保身を考えてしまう気持ちが嫌で嫌で……
転生先なのに自分が嫌いで…泣く度に尻が本気で痛かった


ベットからちょっとだけ起き上がり、尻の痛みに動けず泣くおれをフィルはずっと見つめ続け、そして徐々に近付いて来る…
怖い…素直に怖い…
もしかして、もう既に遅いの？スパンキング始まっちゃうの！？改心は受け入れられないのでしょうか！？痛いのに更にスパンキングで追い打ちかけてくるドS従者だったの！？！って恐怖に、更に涙が溢れてきた



でも、違った



「失礼します、カイン様…嫌なら突き飛ばして下さって構いません…ですが…」


ふわりと身体が持ち上げられる感覚、そしてなんか下半身がスースーして…それだけじゃなくて激痛が走る尻の痣に何かひんやりしたものが当てられて痛みが和らいでいく…え、何？何が…起きたんだ…？

泣きすぎて理由もわからなくなってたぼくを抱き寄せながら、フィルが尻の痣部分を冷たい何かで撫でてくれている
さっきまであったどうしようもなく辛くて、尻を切り離してしまいたくなるほど痛かった痣の痛みが嘘みたいに引いていくんだけど…


「フィル…なんで…なんでこんなどうしようもない主なのに…優しくするんだよ……ううっ…ふえっ…………ごめん、ごめんなさい…ごめんなさい………生まれ変わるから、真っ当な人間になるから…おれの尻に酷いことしないでぇ…」

「………え？お尻に酷い事…？そんな事しませんよ？カイン様、変な夢でも見てしまったんですかね…
大丈夫です、治癒魔法得意なんですよ自分、だから任せて下さい」


これ治癒魔法なの？めちゃめちゃ丁寧にフィルが尻を撫でながらしてくれるのは治癒魔法だったのか…
どうしよう痛みが引いていくし気持ちいい…

よしよしされながら、精一杯フィルにしがみついてこれまでクソガキでごめんなさいをした
許せないのは当然だ、嫌われても当然だって…
こんなクソガキに仕えるのしんどいだろうから、自分から父様にお願いしてもっといい職場を探してあげるって泣きながら伝えた…でも


「自分はカイン様に仕えたいです、ご当主様からの頼み…それもありますが、それだけじゃない
これまでカイン様から理不尽な事も多くされた事も事実です、ですが…カイン様が根は優しいって所も自分は知ってるんです

いい子に生まれ変わる、その目標があるなら自分も側でそれを支えたい…駄目でしょうか？」

「……………っ、いいの…？おれがフィルの主でいいの…？ううっ………ごめん、嬉しいっ………ありがどう………」



おれの従者が超優しい
どうしよう本気で優しい…いい奴過ぎる…めちゃめちゃよしよしされながら、尻を労って貰いつつ、おれはフィルが許してくれる優しさに浸った

あのアホエロゲーのスパンキング祭りにはもしかしたら意味があったのか？本当にカインを改心させたくてスパンキングしてたのか…？

……………わからん！！！




でも、フィルが味方？味方になってくれるなら生まれ変わろう計画は安泰だと思う
素晴らしい主になってフィルに認めて貰うんだ…！ってやる気になる！


おれはそのまま尻が痛くない心地よさに浸りながら眠ってしまっていた…

まさか恐ろしいほどの手際の良さで、いつの間にかズボンもパンツも脱がされ直に触れられていたなんて…
そんな事に気付いたのは、尻が痣だけを残し完治してからだった事を今のおれは知る由もない






………………………
……………
Side　フィル



カイン様の尻に出来た痣に治癒魔法を施しながら、泣き疲れてしまったのか眠られたカイン様を抱き締め、先ほど起きた事を考える…



『真っ当な人間になるから、尻に酷い事をしないで…』


カイン様は確かにそう言っていた
誰が主を傷付けるんだ？自分がそれを疑われていたのか…？
確かにカイン様が自分達使用人に行って来たことはお世辞にも良いことだとは言えない…
だがそれは、いくら愛情を持っていたとしても、お忙しいご当主様はカイン様を放置するしか無い
幼い頃、事故で奥様を亡くされてからは更に忙しい日々を送っているから
側に居て欲しい年頃に、相手をされなかった事、金で甘やかされて来た事に対する寂しさの現れだと思っている

自分を見て欲しい、叱りつけてくれてもいい…側に居て欲しい…その気持ちがカイン様から痛いほど伝わってきていた
だからこそ、多少の理不尽は受け入れよう…それが使用人共通の認識…カイン様が根は優しい方である事を古くから仕えるものほど知っているから…
大人になればきっと良い方に変わる…そう信じている


そんなカイン様が幼いながらに、自分達使用人にして来たことを後悔し、真っ当な人間になりたいと涙する程の事があったのか…？
先日行われました誕生日会…あの場で池に落ちた以外に何が…？


自分がカイン様の尻に酷い事をすると思われる何があったと言うんだ…
わからない、でも自分はカイン様の時々見せてくれる優しい目が好きだ、そして寂しさからどうしようもない気持ちを、自分にぶつけてくれる事が別に嫌じゃない

これからも誠心誠意仕えよう、尻が危険に晒される事態があるかもしれない、その時は自分がカイン様の尻を守れる従者となる



手のひらに治癒魔法を更に強く乗せ、カイン様の尻に出来てしまった痣を撫で、抱きしめるように背中を擦ると眠っているはずなのにカイン様は自分にすり寄って来てくれた


…………可愛い



主に思うことでは無いから内緒だが、弟みたいで可愛いんだカイン様