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優しい温もり
しおりを挟む痛みに目が覚める事なく、普通に意識が戻ったのはいつぶりだろう…
頬を何かに触れられる気持ちよさに気絶していた意識が浮上する…誰も来ない地下室で何に撫でられているのかわからない…でも、痛みじゃない…温かい誰かの手のような…
『勇者、遅くなってすまないな…まだ心は生きているか…?』
うそ…………
ああ、これは…現実じゃない…夢の中だ
ぼくが葬った魔王様の声がする…
ぼくが白い魔石にしてしまったあの優しい魔王様の………
この頬を撫でてくれる温かい手………これは魔王様?
痛みに苦しむぼくは自分の都合の良い夢を見始め現実から逃げようとしてるんだ…
いい夢だ…ちょうどいい素敵な夢…
ぼくは魔王様に謝りたい…謝りたかった…
ゆっくりと目を開ける、白い壁ではなく、目の前には綺麗な青…ぼくの姿を映す程綺麗な青い瞳…整った顔立ちに銀髪………
余りにも都合がいい夢に心が躍る…魔王様が心配そうにぼくを見つめてくれる……
目の前に魔王様がいる……
少し屈んだ魔王様はぼくの顔を覗き込み、頬を優しく撫で、痛みで泣き腫らした涙を拭ってくれた…
優しい温もりが手から伝わってきて夢の中なのに涙が溢れる
目の前の魔王様はぼくの首に触れると、遠くに何かを投げ捨てた…白っぽい宝石が付けられた何かを…
何を投げたか理解はできなかった
何故だろう…首の痛みが何故か無い、あのチョーカーの締めつけ感もない…喉を焼かれるような熱さもない
ああ、本当に素敵な夢なんだ…ぼくはこんな都合のいい夢を求めてしまうほど壊れていたんだな…
激痛から、未来に希望の持てない現実から逃れ、あの魔王様に再び会える素敵な夢…
せめてあの激痛が再び襲ってくるまで、この温もりを…魔王様の優しい表情を感じていたい、そう思い頬を撫でる手にすり寄るように頭を動かすと魔王様は一層優しく微笑んでくれた
その微笑みが胸に刺さる、罪を犯したぼくにはあまりにも綺麗な笑みだから…
「っ…………魔王様………あの、ぼく…………あなたに酷いことを…あなたの国民にも酷いことをしてしまいました…ごめんなさい…本当にごめんなさい………」
なんと謝罪していいかわからなかった…ぼくの意思ではない、でもぼくが魔王様を魔王様の国民を…捻り潰して消してしまったのだから…
『よい、それはお前の本心無いことはわかっている…女神の呪いを受け、動かぬ身体を良いように使われていた事も知っている…勇者に罪はない…』
夢の中の魔王様はなんて優しいのだろう…ぼくに罪はないと言ってくれる…都合のいい夢にし過ぎたよぼく…………
ガチャリと音がする、何の音だろう…と考えるまもなく、手足に浮遊感を覚えたぼくは魔王様に抱き締められていた…
あの音は、ぼくの拘束を外してくれた音だった
大きな身体に抱きしめられ、魔王様の体温に包まれている気持ちになった…ずっと拘束されたまま打撲の跡が広がる手足を撫でられる
魔王様が優しくぼくを慰めてくれるあまりにも素敵な夢…………首輪も拘束も外してくれるこんな素敵に夢を見てしまったら…ぼくは激痛にもう耐えられないかもしれない…
また、あの激痛で目を覚ます事が怖い…
「魔王様………魔王様………お願いです…ぼくを殺してください…あの激痛がこわい…魔王様と一緒にいたい…………夢から覚めるくらいなら死にたい…………」
『勇者よ…ならぬ、死は選んではいけない…
現実を見るのが怖いのもわかる…が、夢…………夢か、そうだな…
ふむ…………なぁ、勇者よ現実が辛いのなら現実を捨て、我と醒めぬ夢を見よう
我は勇者が我が城に来たとき、お前の悲痛な叫びから、瞳から本心を見た…お前の夢は愛されること、愛を知ること…そうだろう?
醒めぬ夢の中で我がお前を愛そう…永遠に、互いの精神が自然に返るその時まで、長い時を共に過ごそう…』
夢の世界から現実に戻りたくない僕への言葉…
醒めない夢の中でぼくは魔王様に愛される?
愛されると言う意味を教えてくれる?
あのお姫様様のような愛じゃないですか?ぼくは父や義母が見せたあの愛が知りたい…幸せな愛を知りたいんだ…
魔王様のぼくを見つめる目が、頬を撫でてくれる手が、抱き締めてくれる腕が…心地いい
魔王様とずっと夢の中で暮らせるなら、この激痛と孤独の世界から抜け出せるなら…それは死ぬよりも幸せな事だ
「夢の中がいい…此処にいたい…………魔王様…ぼくを…………愛して…………………」
これまで以上に魔王様が優しく微笑む
抱き締められたまま、とぷりと何かに解ける気持ちになり僕の記憶は途切れた…………………
この日、真っ白な部屋で、国の礎として女神の愛を受ける牢獄から勇者が消えた
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