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世界は平和になりました
しおりを挟むこれが夢だったら幸せだったのかもしれない、何度も何度もそう思う…………
いや現実も帰りたいかと言われれば帰りたくはない…出て行けと捨てられてしまったぼくに居場所は無いのだから…
この世界に召喚され、数日?数週間?時間の感覚がわからないまま日々が過ぎた
魔族を魔石に返る魔法なのか魔術なのかを自分の意思以外で使わされ…毎回のように肉をすり潰す嫌な感触と首の激痛に苛まれ、身体の自由を奪われたまま過ごす日々は地獄でしかない
今日も意識を失い忘れていた首の痛みで目が覚める、部屋の中には毎日同じ場所に……大柄の騎士が既におり直ぐにぼくの元へ来る
いつも、いつからそこに居たかわからないがとても楽しそうな…甲冑で顔が見えない筈なのに、楽しそうな雰囲気でぼくを呼ぶんだ、「勇者様、任務の時間ですよ」と
行きたくない、もう…いやだ…
そう考えてもぼくの身体は、ぼくの言うことを聞かない…歩きたくないのに、前に進みたくないのに…後を着いて歩く事をやめられない
あと一歩まで魔王に近づいていると大柄の騎士が楽しそうに言う、玉座の間では王も王女も周囲もぼくを褒め称え魔王討伐を心待ちにしている…
でも、全くその事実が嬉しく無いんだ
逃げ出したいが身体の自由を奪われたぼくにとってアメリア姫に愛されたい、愛されることを知りたい、愛して欲しい……………それだけが心の拠り所…
愛される意味を知るためにこの試練があるのだと、ぼくの手でトドメを刺された魔族達が夢に出てきてしまってからも、壊れそうなぼくはそう考える事にした
魔王を倒せばこの生活は終わる…アメリア姫に愛される…………愛されるんだ…………
今日もぼくは勇者として働く…………
『勇者よ、我にはお前が泣いているように見える…それがお前の本心か?』
姫から愛されるための魔王討伐
その日は突然来た…
騎士団に連れられ、本日の殲滅のため大きな城のある街に来たときだ
周囲に謎の圧が掛かり、ぼく以外の騎士は膝をつく…突然の異変に混乱していると魔王様と呼ばれた男がぼくの近くにいた大柄の騎士達を振り払い、ぼくの顔を覗き込み笑った
その後の記憶は曖昧だった…おそらく連れ去られたのだろう、城の中と思う場所に連れて来られる
ベッドに押し倒され、再び顔を覗き込まれたぼくに魔王は話しかけてきた
お前が勇者かと、そしてこれまでの行いは本心かどうか問いかけて来る
目の前にいる魔王様と呼ばれた男は銀髪に青い瞳の美しい人にしか見えない…優しげな表情の人だった
アメリア姫とは違う本当に綺麗な瞳にぼくの姿が映る…泣いている、真っ青な顔でぼくは泣いているんだ…
魔王様と呼ばれた男の言葉が刺さる
この殲滅作戦は本心かと、ぼくの望んだ事なのかと………言いたいよ、もう嫌だって言いたい…
ぼくの本心じゃない、本心なんかじゃない…でも身体が動かないんだ………
愛してほしいと願う代償が他者の命なのはおかしい、それは本当に愛されるということなのかぼくはわからない…ぼくは愛された事が無いからわからない……
身体が動かず、口も動かない…涙を流すことしか出来ないぼくをじっと見つめてくる魔王…
『勇者?、…………ああ、そうか…話せないのか……あの女神の呪はここ迄酷い物になっているのだな…
我にはお前の目には罪悪と渇望が見える…
何を渇望している?勇者よ…呪いの侵食を拒んでまで望むその渇望は何だ…?』
呪い…呪いってなんだ…?侵食されている?何を言っているんだ…?
渇望…渇望…って?
ぼくは、ぼくは…ただ愛されたい、愛を知りたい…こんな酷いことをしてぼくは本当に愛されるの?愛って何なんだよ…それが知りたいだけなのに…
喋りたい、ちゃんと伝えたい、ぼくが望んでるのは渇望してるのは殲滅でも蹂躙でも虐殺でもないんだ…………
動かない身体を動かそうと、痛みを堪え無理矢理言葉を出そうとするなんて考えてもみなかった…少しでも自分の身体じゃない現状に反抗しようとすると首も喉も焼けるように痛い…
痛いけれど…何故か魔王はぼくの話を聞いてくれる…そんな気持ちにしか湧いてこなかった…
「ぼっ………………ぁ゙っ…………ァ゙ぃじで…………ぼジィ゙……………」
必死に言葉を振り絞った、血を吐きそうな程…首が痛い…魔王に言葉は伝わったのか…わからない
不意に何かを吸われる違和感と激痛の前触れが起きる、これは……まさか………
自分でない身体が何かを唱えようとする…だめだ、やめて、使いたくない、もうそれを唱えたくない…嫌だ、魔王の言葉を聞いてない…やめてやめてやめてやめてやめて……………
「ァ゙ァ゙ァ゙っ………ャ゙ァ゙ッ゙…………ッッ゙…………ニゲッ……………※※※※※※※※」
唱えてしまった
止められなかった…
首に激痛が走る、何かをごっそりと抜かれる感覚に目眩と気持ち悪さが止まらない
いやだ、いやだ、いやだ、ぼくはこんなこと望んでいないのに…!!!涙で潤む視界に、目の前の魔王はそんなぼくを見て何故か微笑んでいる
頬に何かが触れる……これは…魔王の手だ………
頬を撫でられ、唇も優しく撫でられ、魔王は何かを言った
『 』
ぐしゃり………………
手のひらに広がる気味の悪い感触に涙が溢れる…
何を言ったのか、聞こえなかった…聞き返す事すらもぼくには出来ない
身体が動かないのもある…でも、そうじゃない…
もう、答えてはくれないんだ
魔王は…魔王様はぼくの目の前で美しい白い魔石に変わってしまったのだから
女神の神託により召喚された勇者により
この日、魔王を始めとする魔族、魔獣全ては浄化された
世界に平和が戻ったのだ
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