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望まぬ功績
しおりを挟むミシッ………グチャリ…………
ぼくが勝手に何かを唱えると…そんな音が、感覚が、気持ちになってぼくに流れ込む…
早朝から始まった初陣、魔族の討伐作戦…目の前の光景は何回目の地獄だろうか…
村を、町を…………大柄の騎士に着いて歩くのは体の主導権を奪われたぼく……
先陣を切る騎士たちが先に向かい、ある程度着いた先で人では無い者達を切り刻み、蹂躙する
そして………ぼくは勝手に唱えるんだ
「※※※※※※※※」と
ぼくの首は、何かを唱える度に酷く痛む…しかし血も何も流れない、本来なら歩くことすらできない程の痛みにもぼくではない身体は勝手に動き続ける
人では無い者達の町や村に着く度、何かを唱える度に何かを握り潰す気持ち悪さが全身を蝕んでいく………
これは勇者なのだろうか…………勇者ってこんな気持ちになるんだっけ………?
違和感、これは違和感だ
勇者に対する違和感…ぼくに対する違和感………
何かを唱える度に騎士たちは興奮し、ぼくを賞賛する
素晴らしい、素晴らしいと、歴代最強だと
こんなにも褒められたのは母が家を出ていく前だった…地区の発表会で…歌った時に唯一褒められただけ…そんな自分が褒め称えられている…
自分よりも大きな、強そうな騎士たちに褒められているのに…なのに、全く嬉しいと感じない…
歴代最強とはどう言うことなんだ…?勇者は…ぼくだけじゃ無いのか…?
「おおお!また一撃で!
流石です勇者様!もう6つ町と村を殲滅しました!素晴らしい!壊れずにここまでとは…!歴代最強ですぞ!」
「歴代最強確定でしょう!まだ魔力が全く尽きる気配もない…!なんと素晴らしい事でしょう!本日は大きな街も殲滅できそうですな!」
ざわざわと嬉しそうに剣を振り上げる騎士たちは各々言う、歴代最強と…
その意味を教えてくれない彼等はぼくをひたすらに褒め、本日最後の討伐作戦だと連れてこられたのは都市のように大きな街だった
何も知らず平和に暮らしているようにしか見えない光景に目眩がする…ここも蹂躙するのか?いや、これが人を襲ってきた魔族へ対する戦争なのか?
わからない…わからないよ……………
現実を見たくなかった、ぼくのしている事が正しいのかそうでないのか…それすらも知りたくなかった…
魔族を殲滅し、姫に愛してほしい、その愛を知るその為にこれは必要な事なんだ…
でも、どう見ても無抵抗の人じゃない者達が犠牲になっているようにしか見えない事が苦しい…だってぼくがどう見てもとどめを刺しているから
首の痛みが引かない…身体は動かない…
大きな都市を殲滅した時に、人では無い赤い髪の男がぼくの前に現れた時も何も答えられなかった
『お前は、これを望んでいるのか』
そう、問いかけられても答えるすべが無かった
気持ちの現われで涙が流れていたような気がする…ぼくの身体はぼくのであって、ぼくのではない
そんな気持ちになる程、自分でもどうしようも無いんだ…
初陣を終え、王城に戻ると大柄の騎士が成果だと言って大量の魔石を献上した
赤い髪の男は一際大きく美しい魔石になっており、王も姫もぼくを讃える…素晴らしい、歴代最強の勇者だと
自分で動かせない身体を豪華な部屋に戻され寝かされる…気持ち悪さはまともになったが首は痛いままだった
寝かされ少し冷静になるとあんなに色々な場所に連れて行かれたのに空腹を感じていない…ぼくは食事もトイレも結局していない…そういえば汗もかいていない…………なぜ?どうして?
それすらわからないまま、気が付くと眠ってしまった…
「女神様がとてもお喜びです!勇者様!私が貴方を愛する日も近いですわ!」
夢の中でさえ、アメリア姫の言葉が繰り替えされる
こんな状況でもぼくは愛してほしいんだ…
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