15 / 17
15話 料理人
しおりを挟む
対談の終わった翌朝、一人で今後について考える。
辺境伯との対談は失敗に終わったと言っていいだろう。
しかし、最初から簡単に事が進むなんて思っていない。
何とか首の皮一枚残せたと考えれば御の字か。
辺境伯は貴族でありながら商売人という肩書きを持つ。
むしろ、本人は貴族よりも商売人であることに誇りを持っていると感じる。
商売人であれば王国に残る方が利があると突きつける必要がある。
コンコン……
「オリヴィア様、準備が整いました」
カーンに呼ばれ馬車へと向かう。
すでに出発の準備がされている。
昨日の今日でみんなには悪いと思うが、だらだらしている時間がない。
辺境伯の見送りなどはなく、代わりに案内人として腕の良い料理人がついてくることになった。
「初めましてじゃ、料理人をしてますガーデイフと申しますじゃ」
思っていたよりもお年寄りのおじいちゃんだった。
この馬車にはクレアとガーデイフさん、身の回りの世話をしてくれるカンナが乗っている。
カンナは王室メイドで少しおっちょこちょいなところもあるけど、年齢が近く気軽にお話ができる。
ただ、ガーデイフさんがいて馬車の中はちょっと気まずい。
何を喋ればいいんだろうか。
そう考えているとカンナが口火を切った。
「おじいちゃんの料理美味しかったよ」
「喜んでもらえてありがとうじゃ」
「あの腕だったら王宮でも通用するね、そう思いますよねオリヴィア様!!」
「えぇ、そうね」
さすがは陽に全振りしているような性格のカンナだ。
「オリヴィア様、この領地はどうでしたか?」
「活気があって王都にも負けない経済レベルだと思うわ」
「少し前まではこんな笑顔はなくてのぅ。年寄りの昔話をいいかのぅ?」
「もちろんですとも」
「十数年前は辺境の名に相応しい、いい言い方をすれば自然に囲まれた領地じゃった。ただ、絶景では腹は膨れんでのぅ、生活は厳しく笑顔のない領地じゃったなぁ……」
遠くを見つめる目は景色ではなく過去を見ているのだろう。
「特に今の領主の前の領主が酷くてのぅ、領地経営なんて何一つ分からずに、貴族に良いように使われて、むしり取られてそれはそれは酷い生活を領民に課していたわい」
「えー、でも私はあの領主あんまし好きじゃないなぁ。王国を捨てるって言ってたし、オリヴィア様の提案も聞く耳持たないって感じだったし」
「ほっほ、そうじゃなぁ……あんたらからすれば酷い領主に見えるかもしれんが、あの領主に変わってから領民の生活はガラッと変わって今の笑顔の溢れる領地になったんじゃ。領民からの信頼も厚い。ワシはできれば穏便に事を済ませてほしいと思っていますじゃ」
「もちろんですとも。私も争いがしたいわけではありません。そのために今、彼の国に向かっているのです」
辺境伯との対談は失敗に終わったと言っていいだろう。
しかし、最初から簡単に事が進むなんて思っていない。
何とか首の皮一枚残せたと考えれば御の字か。
辺境伯は貴族でありながら商売人という肩書きを持つ。
むしろ、本人は貴族よりも商売人であることに誇りを持っていると感じる。
商売人であれば王国に残る方が利があると突きつける必要がある。
コンコン……
「オリヴィア様、準備が整いました」
カーンに呼ばれ馬車へと向かう。
すでに出発の準備がされている。
昨日の今日でみんなには悪いと思うが、だらだらしている時間がない。
辺境伯の見送りなどはなく、代わりに案内人として腕の良い料理人がついてくることになった。
「初めましてじゃ、料理人をしてますガーデイフと申しますじゃ」
思っていたよりもお年寄りのおじいちゃんだった。
この馬車にはクレアとガーデイフさん、身の回りの世話をしてくれるカンナが乗っている。
カンナは王室メイドで少しおっちょこちょいなところもあるけど、年齢が近く気軽にお話ができる。
ただ、ガーデイフさんがいて馬車の中はちょっと気まずい。
何を喋ればいいんだろうか。
そう考えているとカンナが口火を切った。
「おじいちゃんの料理美味しかったよ」
「喜んでもらえてありがとうじゃ」
「あの腕だったら王宮でも通用するね、そう思いますよねオリヴィア様!!」
「えぇ、そうね」
さすがは陽に全振りしているような性格のカンナだ。
「オリヴィア様、この領地はどうでしたか?」
「活気があって王都にも負けない経済レベルだと思うわ」
「少し前まではこんな笑顔はなくてのぅ。年寄りの昔話をいいかのぅ?」
「もちろんですとも」
「十数年前は辺境の名に相応しい、いい言い方をすれば自然に囲まれた領地じゃった。ただ、絶景では腹は膨れんでのぅ、生活は厳しく笑顔のない領地じゃったなぁ……」
遠くを見つめる目は景色ではなく過去を見ているのだろう。
「特に今の領主の前の領主が酷くてのぅ、領地経営なんて何一つ分からずに、貴族に良いように使われて、むしり取られてそれはそれは酷い生活を領民に課していたわい」
「えー、でも私はあの領主あんまし好きじゃないなぁ。王国を捨てるって言ってたし、オリヴィア様の提案も聞く耳持たないって感じだったし」
「ほっほ、そうじゃなぁ……あんたらからすれば酷い領主に見えるかもしれんが、あの領主に変わってから領民の生活はガラッと変わって今の笑顔の溢れる領地になったんじゃ。領民からの信頼も厚い。ワシはできれば穏便に事を済ませてほしいと思っていますじゃ」
「もちろんですとも。私も争いがしたいわけではありません。そのために今、彼の国に向かっているのです」
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
奪われたものは、もう返さなくていいです
gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる