最強の触手使いは世界をまたにかける

セフェル

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6話 シュトロンの悩み

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 魔法学校の講師になって60年以上、気づけば友人の1人である校長に次ぐ勤続年数を誇っていた。
 人間にとっては長く感じるかもしれないが長命のドワーフからするとそれほどでもない。

 シュトロンは自分に用意された部屋でお茶をすすりながら、生徒名簿を眺める。
 ワンルームのそれほど広くない部屋。
 壁一面に本棚が並び、そこに入りきらない書物は乱雑に床へ積み重ねられている。
 机にイス、本棚と木製の家具はシュトロンが着任した当初はまだ安っぽい薄茶色だったが今は深みのあるダークブラウンに変化していて時代の流れを感じさせる。

 今年の新入生は例年に比べて面倒になりそうな予感がしていた。
 というか、面倒ごとになる可能性が高いために前線に戻されたのだと考えている。
 ここ数年は生徒と関わることは少なく講師を指導するのを主としていた。

 生徒を相手にするのは久々である。
 長い講師生活の中で手を焼かされたのは現国王を指導していた時だろう。
 今では優しき賢王などと民からの信頼も厚いが当時はただのやんちゃ坊主であった。
 その頃、シュトロンは鬼講師と呼ばれ恐れられていたのが懐かしい。

 思い返すと自身もまだ若かったなと恥ずかしくなってしまう。
 旧友と昔語りでもしながら、酒でも一杯ひっかけたくなるが、それは仕事終わりまでお預けだと自らに言い聞かせる。
 そんな機会が訪れるのであれば、悩みでも聞いてもらいたい気分でもあった。

 シュトロン最大の悩みは生徒から距離を置かれているということだ。
 確かに昔は舐められないように威圧をしていたが、今はそんな恥ずかしいことはしていない。
 やはり問題は顔なのだろうか?
 元来ドワーフの顔というのは武骨なもので、それが生徒にいらぬ恐怖を与えているのかもしれない。
 酒を浴びるように飲んだ次の朝は自分でも鏡を見て驚くほどの顔をしていることもある。

 しかし、今更どうすることもできない。
 シュトロンは壁にかかる鏡を前に笑顔の練習を始めた。
 やればやるほどに恐ろしさは増していき、結局は無表情が一番という結論に至る。
 表情を変えずに廊下を早足で進む。
 通り過ぎるたびに生徒から悲鳴が聞こえるのは気のせいだと無視することにしている。

 それよりも、笑顔の練習に没頭するせいで待ち合わせの時間から大幅な遅れをとっている。
 待ち合わせしている部屋に入ると二人の講師が待っていた。

「ロゼリア先生、グレイ先生、遅くなり大変申し訳ない」
「いえ、お忙しい中わざわざお越しいただき、こちらこそ申し訳ありません」
 ロゼリアは恭しく一礼をする。
 この集まりはスキル科目の講義をどう進めていくか、分担はどうするのかを話し合うためにロゼリアが声をかけたのだ。

 なんせこの三人の組み合わせは非常にバランスが悪い。
 どこかの馬鹿どもが好き勝手にしているせいでこ
んなことになっているのだ。

 そのため生徒を正しく指導するためにも打ち合わせは重要である。
 しかし、シュトロンが遅刻したことによりそれほど綿密に打合せすることもできず、とりあえず流れに任せて、お互いにサポートするという、全く中身のない状態で講義がはじまってしまうことになる。

 蓋を開けるとシュトロンの予期していた通り、いや、それ以上に凄惨な結果となっていた。
 ロゼリアの元には男女関係なく多くの人間が教えを乞うために殺到している。
 そして、怪しいサングラスのグレイにまでも女性が集まる。

 シュトロンの元には強力な結界でも張っているかのように近づく生徒は現れない。
 シュトロンから近づくとそれと同じ距離、生徒は離れる。
 もはや虐められているのかと心が打ち砕かれそうになる。
 そんな拷問を受けていた中、転機が訪れた。
 とうとう1人の生徒が近づいてきて声をかけてくる。
 講師陣の間でも話題に上がっている、クライ・バートナーだ。
 やっと訪れた生徒からの質問に答えられずさらに落ち込む。
 新スキルについて聞かれても分かることなどあるはずがない。

 無難な受け答えをするとクライは去っていった。
 また生徒たちと溝が深まったと思っていた矢先だったが「シュトロン先生に話しかけてもいいの?」などと生徒の中から声が漏れ、1人また1人とシュトロンに質問をする生徒は増え、気づけばロゼリアとグレイを超える程の生徒が押し寄せていた。

 ああ、初々しく可愛い生徒達に囲まれ、作り笑いではない、心からの笑顔が自然と零れ落ちる。
 一瞬、空気が変わったのは気にしないでおこう。無表情に戻して生徒と接することを心に誓う。
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