最強の触手使いは世界をまたにかける

セフェル

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5話 触手とは

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 マナについての講義が終わり、ロゼリア先生からスキルの種類が説明されると少しの休憩を挟んでスキル科目の講義が始まった。

 スキルは操作系、創造系、そしてそれ以外の特殊系の3つのタイプに分類されている。
 俺の『触手操作テンタクルキネシス』とエレナの『重力操作グラビキネシス』は操作系でスキルの名前に操作とついていればそうなので分かりやすい。

 トイレから教室に戻ると教壇には3人の講師が並び、中央に白髭を蓄えた学年主任のシュトロン、向かって左に我らがロゼリア、右にフードを被り、サングラスをしている怪しい男。名はグレイというらしい。
 いつもの教室なのに雰囲気が違う。
 シュトロンが講義を始めた。
 内容は3タイプについてだった。

 操作系は各々に与えられたスキルの通りに対象物にマナを流すことで操作することができるが基本はマナを使って対象物を出すことができる。
 そうでもなければ『触手操作テンタクルキネシス』なんて、使うタイミングがない。
 創造系は素材を使用してスキルを発動させる。
 操作系と違って無から作ることはできない。
 操作系と創造系以外の特殊系。
 10分もかからない簡易的な説明だけするとシュトロンは教科書を教卓に置いて一言発した。

「では皆さん、演習場に行きましょう」
 生徒の大半は決して口には出さないが「えっ、もうかよっ」と心の中で突っ込みを入れる。
 1人だけがシュトロンの真横で堂々と異を唱える。
「えっ、今日の予定では演習場は使わず座学と聞いてたんですが」
 サングラスをしているので表情は読めないが、本当に嫌なのだけは伝わってくる。
 グレイの抵抗むなしく無理やり連れてこられぐったりとしている。

 開放的な空気を肺に取り込み、心地いい風が肌をなでる。
 とうとうスキルを使えるということが心を軽やかにしてくれる。

「とりあえず発動させましょうか。全身に流れるマナを指先に集めて自分のスキルをよくイメージして力いっぱいに放出してください」
 またもシュトロンの簡易的な説明だが生徒は待ちに待ったスキル使用の許可でやる気に満ち溢れていた。
 操作系は自分のスキルを外に出すことを目標にする。
 対象物にマナを流しての操作は行わない。初めの段階でこれをしてしまうと変な癖がついて、無から対象物を出すことができなくなってしまうらしい。
 対象物というのは『火炎操作パイロキネシス』なら火を思い浮かべ、『水流操作アクアキネシス』なら水を思い浮かべる。

 ここで俺は疑問に思う。
 いや、今までも頭の隅にあって目を背けてきたが『触手操作テンタクルキネシス』は何を思い浮かべればいいのだろうか?
 触手のイメージといわれてもなかなかに難しい。

 とりあえず言われたとおりに全身のマナを指先に集めて触手をイメージする。
イメージしたのはイカやタコのような軟体動物の触手。
 しかし、うまくいかない。
 太陽の位置も刻一刻と変化していき時間だけが過ぎていく。
 相談をするには憚られる状況ではあるがそうもいっていられない。
 周りではスキル発動した者がちらほらと現れている。

 ロゼリア先生は男女から絶大な人気があり、近づくことができない。
 グレイも女子生徒に囲まれていて近寄れない。
 あの怪しさで人気があるのが不思議だ。
 シュトロン先生だけポツンと1人で授業を眺めている。
 あれは話しかけていいものなのか、暗黙の了解で話しかけてはいけないルールでもあるのだろうか。

 しかし、現状を打破するには……
「シュトロン先生、よろしいですか?」
「クライ君、申し訳ないが新スキルについて教えるのはワシでも難しいんじゃよ」
 レアスキルなどは珍しいために使い手が少なく、情報もあまり出回らない。
 ゆえに習得が難しいのだ。それが新スキルともなると、情報は0ですべてが手探りになる。

 シュトロンは白髭を触りながら続ける。
「見ているとよく集中できているし、マナのコントロールも悪くない。やはり明確なイメージの問題かもしれないのう」
 クライは下を向いてとぼとぼと歩く。

 自分が離れてからシュトロンの元には教えを乞う生徒が殺到しているのにも気づかないほどに考え込む。
 ふと、顔を上げるとエレナの姿が目に入った。
 地面に置いた空き缶を両手で覆い被せ力を込めているようだ。
 だが空き缶に変化はない。
 エレナも苦戦しているようで悔しげな表情を見せている。
重力操作グラビキネシス』も珍しいスキルではあるが、そのスキルで有名な冒険者がいるため、詳細などは意外と知られている。

「おーい、苦戦してるのか?」
「はあ、はあ、ちょっとだけね、でももう少しでいけそうなのよ。そっちはどうなの?」
「全然よくないよ、触手ってなんだよって感じ。というかさ、空き缶じゃなくてもっと柔らかい素材にすればいいんじゃないの」
「いいの、これを潰すって決めたんだから」

 エレナは昔から頑固なところがある。
 殺意すら感じるが……
 そんなにも、飲んでも太らない激甘フルーツジュースと書かれたその空き缶を目の敵にするのか。

「エレナさん、空き缶を潰しても飲んだ事実は消えな……」
 発言の途中で空気が変わるのを感じた。
 陽光を受け春の温かさを感じていたが、今は乾いた空気の中で全身に悪寒が走り、冷や汗が止まらない。
 周りの人間もこの変化に気づいたのか不穏な空気が走る。
 静寂の中、エレナは俺にだけ聞こえる小声で弦いた。
「殺すぞ……」
 地面に置かれた空き缶は巨大モンスターに踏みつぶされたかのようにぺしゃんこになっていた。

「わあ、発動したんだね、おめでとう」
 そういうと、俺は演習場から逃げ出した。
 講義とはいっても休憩は各々が好きなタイミングでとってもいいので、飲み物と軽食を買って外のベンチに腰を掛け空を仰ぐ。

 シュトロン先生の話ではイメージの問題といっていたが、イメージ自体は明確にできていると思う。軟体動物の吸盤のついた触手。
 だがそれではダメらしい。
 うーん、分からない。

 ぼーっと横を見ると道が続いている、横に広く、整理された通りのすぐ脇には街路樹が等間隔で植えられている。
 ベンチ横にはゴミ箱が設置されていて、道にはゴミーつ落ちていない。
 それどころか、落ち葉の一枚すらもない。
 これがこの一画だけではなく、学校の敷地内のほとんどが完壁に掃除されている。

 それもこれも直径30cm程の水色で半透明のゼリー状のモンスターのおかげだろう。
『クリーンスライム』と呼ばれるモンスターに危険性はなく、ゴミを食べて生きている。

 それらが通った道は給麗になるため学校の敷地内で数十匹が放されている。
 今も目の前でクリーンスライム数匹が跳ねているが、跳ねるたびにゼリー状の柔らかな体がぷるんと揺れて、なんとも愛らしい。
 そんなほのぼのとした光景に癒されていると「ぴぎゅっ」 という声が聞こえた。

 音のする方を見ると、1匹のスライムがゴミ箱に落ちたようで出てこようと網から体を伸ばす。
 通常時は球体だが流動して形を変えることができるのだ。
 小さな無数の穴から細長いゼリー状の体がプルプルと動きながら出てくるがそれは途中で止まった。先ほどまでの愛らしい姿はそこにはなく少し気持ち悪い。

 伸びた体をゴミ箱へと戻すと再び元の球体が姿を表す。
 スライムの体は流動形でどんな小さな隙間も通れ
ると思われがちだが、そんなことはない。
 確かにゼリー状の部分はそうなのだが本体である核は形を変えることはできない。

 ゴミ箱に落ちたクリーンスライムの核は5cmほどだろうか、つまりその大きさよりも小さな穴は通れないのだ。
 スライムをゴミ箱から救出して道に置き、軽食を少し分け与えてあげる。
 表情は一切分からないが体をプルプルと震わせて喜んでいるような気がする。
 そのスライムは他のスライムと合流して次の掃除に向かっていくが、なんともマヌケな奴だった。
 まずゴミ箱に落ちるのもそうだし、他のスライムと比べると跳ね方が歪で真っすぐ飛ばずにジグザグに進んでいる。

 スライムにも個性があるんだなと実感した瞬間である。
 そして思うのはやはりモンスターなのか網から出てこようとするときのそれといったら……
 何本ものににゅるにゅるした触手が近づいてきて、スライムかわいいなという気持ちが一気に遠のいてしまった……
 ん、触手? 頭に電気が走る。
 気づいてしまった。これだっ!!
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