最強の触手使いは世界をまたにかける

セフェル

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1話 はじまりの朝

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 小鳥のさえずりが朝を告げる。
 雲一つない青空は今日という記念すべき日にふさわしい。
 今日は栄えある魔法学校の入学式、ヴェルリア王国の首都『ヒュペロイ』は空から見ると円形に都市が造られている。そして、その中心にある中央区に魔法学校は存在していて、この国では15歳を迎える子供は魔法学校へ入学し5年間勉学に励むことになっている。
 夢と希望に満ち溢れた子どもたちは白を基調とした新品の制服を見に纏い、そこを目指して続々と歩みを進める。

 そんな中、異様な雰囲気を醸し出す1人の少年がいた。短髪に赤髪の彼の名前は『クライ・バートナー』。
 クライは年齢に見合わない分厚い本を片手に持ち、目を充血させ、その下に大きなくまを作って独り言を呟いている。
 これから学校生活を共にするはずの同級生たちも少し距離を取って歩く。
 クライの背後から猛スピードで近づく1人の影があった。長い銀髪をなびかせ、颯爽と近づいてきた彼女がクライの頭を平手打ちすると、気持ちのいい音が青空に鳴り響いた。
 頭を叩いたのは幼馴染の『エレナ・ブライゼ』だった。

「あんた、なんでこんな日にそんな暗いのよ」
「痛いなぁ、楽しみすぎて昨日寝れなかったんだよ」
「また、冒険物語か英雄物語でも読んでたんでしょ」
「いーや、昨日はこれを読み返してた」
 クライは持っていた本をエレナの目の前に差し出す。表紙には『スキル大全』と書かれている。
「そっちだったか」
「そりゃそうだろ、この中のどれかが今日から使えるようになるんだぞ。復讐しとかなきゃダメだろ」
「別にどれだけ読んだって結果は変わらないでしょ」
「全く、エレナは分かってないなぁ。読んでればそのスキルをすぐに理解できるだろう」
「はぁ……」
 エレナは目を輝かせて熱弁するクライを見て呆れる。
 クライは英雄や冒険者に憧れている。そして、それらの物語を語る上で欠かせないモノが『スキル』だ。
 スキルは神の加護により、1人に一つ与えられる力のことで、有名な英雄や冒険者はこれを駆使して強大なモンスターを倒したり、凶悪事件を解決する。
 彼が15歳の子どもであることを考えれば健全に思えるが、その熱量は度を超していた。
 エレナも散々、英雄ごっこや冒険者ごっこに付き合わされていた。

 20分程歩いていると、大きな赤い旗が見えてくる。旗の掲げられた門をくぐると街並みが一段と変わり、建物は豪華絢爛なものが増え道も綺麗に舗装されている。
 目的地の『ヒュペロイ魔法学校』や国内外の知識が集められている『国立大図書館』、さらに子どもたちの憧れでもある『冒険者ギルド』など、ここ中央区は国が運営する公共施設が多く立ち並んでいる。
 入学する生徒のほとんどがここに足を踏み入れるのは初めてとなるので、キョロキョロと辺りを見渡す子どもの集団は毎年の恒例になっていた。
 クライも憧れの地に足を踏み入れ感動に浸る。

「危ない!!」
 クライはエレナに手を引かれて道の脇へと引っ張られる。
 すぐ横をスピードを出した馬車が通り去っていく。
「エレナ、ありがとう」
「ぼーっとしてると危ないわよ。それにしても乱暴な運転して、これだから貴族は……」
 エレナは通り過ぎた馬車を睨みつける。馬車の側面には貴族の証である家紋が装飾されていた。そしてその馬車の行く先はクライたちと同じである。

「すげー、これが魔法学校か……ここに来るまでの建物も凄かったのに、これはまるで物語に出てくるお城みたいだな」
 クライは天高くそびえる建物を見上げて感嘆の声を上げる。真新しく美しい白壁は高いだけでなく横にも伸びていてその全貌はとてもではないが把握できない。
『ヒュペロイ魔法学校』は国の中でも王宮に次ぐ巨大な建物で王城を模して造られている。さらに学校に通う生徒は全寮制になるため、生徒が居住する巨大な寮や講義で使われる演習場、地下にある小さなダンジョンなどの広大な土地も有している。

 室内演習場に貴族も平民も関係なく集められて入学式は開催された。
 大量に用意されたイスは自由に座ることができる。クライとエレナは無難な中央あたりに座るが、オレンジ髪の小太りの男が近づいてくる。後ろにはひょろ長の男とガリガリ眼鏡の男の2人を引き連れている。
「おい、そこはイレス様が座ろうとしていたイスだぞ、すぐに退け」
 小太りの男の後ろにいたひょろ長の男はクライたちに向かって怒鳴りつけるが、クライはポカンとして無言でいる。
 怒鳴りつけてきているのが貴族だということはクライも知っていた。3人組の彼らの制服は国から支給されたモノだが貴族はそこに装飾品や刺繍やらで派手に着飾るからだ。
 しかし、なぜわざわざここに座りたがるのか理解ができないために無言になっていた。
「どうしてよ、どこに座ってもいいんだから自由でしょ」
 エレナは3人を睨みつけて言い返した。
「こっ、このお方は伯爵家のご子息イレス様だぞ」
 もう1人の小柄な眼鏡の男は精一杯の大声を出すと、小太りの男の紹介をして肩で息をする。
「この学校では貴族も平民も関係ないはずよ」
 魔法学校の理念として貴族と平民の立場に関係のない平等が謳われている。
 他国に比べるとこの国では貴族の力は絶対的なものではない。王の施策によって貴族の横暴が許されていないのだ。
「まぁまぁ、イスは他にもあるんだし移動しようよ」
 クライはエレナをなだめ、移動しようとする。
「待て、そこのお前は座ったままでいいぞ」
 イレスの目がエレナの体を舐めるように頭から足先までを往復する。
「ハァ、移動するから結構よ!!」
 3人から距離を空けて座ることにした。

「フン、あいつら平民の分際で生意気ですね」
「そうですよ、イレス様のせっかくのご厚意を無駄にするとは愚かですよ」
 2人は平民であるクライとエレナを見下し、冷たい眼差しを向ける。イレスは去っていくエレナを見て卑しく笑みを溢していた。
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