上 下
15 / 32

15話 ひつじの撮影会3

しおりを挟む
「うわー、すっごく柔らかいですね」
「はい、チーズ」
 カシャッ。
「はーい、次の方お願いします」
 最初の方はチヤホヤされて機嫌良くしていたぽむだったが、さすがに数百人以上となると疲れも溜まってきたようだ。
 休憩を挟みながらファンサービスをしていると日も落ちてくる。

 そんなとき、スーツ男に囲まれた少女に順番が回ってきた。
「ぽむ様、はじめましてチャコルル・ロザリーアと言います。今日はあなたのために特別に準備してきたものがあります。ボランチオ、あれをっ!!」
 ボランチオはどこかと通信をとる動作をすると、同タイミングで付き添いで一番端にいたアーロが前に出る。
「ノア、イベントは終わりだ。残念だったな」

 一瞬、全員の視線がアーロに向いたが、すぐに空中に変わる。
 空中を昇っていく一筋の軌跡。
 ヒュルルルルルルルル……バァーン。
 花火が打ち上げられて、ぽむの顔が夜空に浮かぶ。

「メェェェ」
 ぽむは疲れも忘れて、目を輝かせ空を眺める。
「気に入ってもらえて良かったです」
 その様子を見るロジリーアも満足そうにしているし、会場の一人を除く全員が空を見てほっこりとしていた。

「ふ……ふ、ふざけるなよぉ。ボランチオさん、どういうことですか? 爆破は? 誘拐は?」
 唯一気に入らない顔をしていたアーロは怒声をあげる。
「なんのことだ?」
 アーロの急な問いかけに冷静に答えるボランチオ。

 なんのことはない、ただただボランチオが準備していた花火の火薬を見てアーロが勘違いをしていただけだった。
 ロザリーアがぽむを探していたのは単に見て触りたいから探していただけで誘拐なんてするつもりはなかった。
 ロザリーアは父のことが好きで義を重んじるファミリーが好きだ。
 兄のキリロフスの事は気に入らないと思っている。
 キリロフスとロザリーアでは全く方向性が違う。
 それがアーロの勘違いの理由だった。

「だったら一人でもやってやるよ」
 アーロは鎧を装着して剣を構えるが、すぐにチャコルルファミリーのスーツ男たちに囲まれて、銃を突きつけられる。
「こんな場で殺しはさせないでくれや」
 ボランチオは先ほどまでの静かな声色から怒気を纏った声色に変わる。
 その迫力にビビったのかアーロはすんなりと投降して会場を追い出された。

 しかし、事は簡単には収束せず、次の標的はチャコルルファミリーとなり、騎士団が取り囲む。
 元々が裏のマフィアということもあって目をつけられていたし、アーロが一緒にいたのも問題視された。

「よくも、この神聖な場にトラブルを……」
 ハンナは怒りを露わにしている。
「すまなかった。トラブルを持ち込むつもりはなかったんだけど」
 ロザリーアは悲しそうに俯く。
 楽しみにしていたイベントを自分の不手際で汚してしまったと思い込んでいた。

「ハンナ・フォレード、いくらなんでもお嬢にその口の聞き方は看過できねぇ」
 ボランチオがハンナを睨みつける。
 一触即発の空気が会場に流れる。
「待てボランチオ、たしかに今回の不手際はこちらにある」
「えぇ、当然です。お帰りを……」

「メェェェェェ」
 珍しくぽむが大きな声を上げて両者の間に割って入った。
「ぽむ様……」
「あー、待ってください。あいつとは知り合いでよく因縁をつけてきてたんですよ。ありがとうお嬢ちゃん、花火凄かったね。ぽむも大興奮だったよ」
 ノアは目の前の少女が裏のマフィアなんて事は知らない。
 ただ、スーツの男がガッチリとボディガードをして、花火を準備できる資金があることからどこぞの令嬢だと思っていた。

「では、許すんですか?」
「許すも何も悪いことしてないじゃないか」
「たっ、たしかに、ですが……」
「ぽむもそう思うよな」
 ノアはぽむも抱き上げて掲げる。
「メェェメェェ」
 ぽむは許す的な感じで大きく頷いた。

「ぽむ様ありがとうございます」
「ぽむ様の御心のままに」
 ぽむの一言で騒動は解決。
 その後も残った人全員と撮影を済ませてイベントは大成功を収めた。

「ノアさん、片付けは我々でやるので手伝って貰わなくても大丈夫ですよ」
 ハンナを中心に広場の撤収作業が行われていた。
「いやいや、準備を全てしてもらったんだから片付けぐらいは手伝うよ」
 ノアはゴミ拾いをする。
 ぽむは疲れてお昼寝をしていた。


§


「おいおい、ここにも脱走したひつじがいるぞ」
「丁寧にな、傷つけるとルネリッツさんにどやされるぞ」
「分かってるよ、あの人、従魔には優しいけど人使いは荒いんだよな。っと寝てるから問題ないな」
 従魔専門店の触れ合いコーナーは大盛況だっのだが、人が溢れすぎて混乱が起き、その隙に従魔が何匹か逃げ出して従業員の二人が駆り出されていた。
 よし、これでやっと帰れるぞ。

「メェ?」
 ぽむは目を覚ますと檻の中にいた。
 周りには真っ白いもふもふとしたモンスターが何匹もいる。
 捕まったと焦って檻を叩くがびくともしない。
 魔法を使おうにも魔法封じの檻のせいで威力がかなり低くされて全力で放った深淵業火アビスファイヤはミミズ程度の大きさの炎の帯となり、檻に当たって消える。

 かくして、ぽむは従魔専門店に連れて行かれてしまったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

インフィニティ・オンライン~ネタ職「商人」を選んだもふもふワンコは金の力(銭投げ)で無双する~

黄舞
SF
 無数にあるゲームの中でもβ版の完成度、自由度の高さから瞬く間に話題を総ナメにした「インフィニティ・オンライン」。  貧乏学生だった商山人志はゲームの中だけでも大金持ちになることを夢みてネタ職「商人」を選んでしまう。  攻撃スキルはゲーム内通貨を投げつける「銭投げ」だけ。  他の戦闘職のように強力なスキルや生産職のように戦闘に役立つアイテムや武具を作るスキルも無い。  見た目はせっかくゲームだからと選んだもふもふワンコの獣人姿。  これもモンスターと間違えられやすいため、PK回避で選ぶやつは少ない!  そんな中、人志は半ばやけくそ気味にこう言い放った。 「くそっ! 完全に騙された!! もういっその事お前らがバカにした『商人』で天下取ってやんよ!! 金の力を思い知れ!!」 一度完結させて頂きましたが、勝手ながら2章を始めさせていただきました 毎日更新は難しく、最長一週間に一回の更新頻度になると思います また、1章でも試みた、読者参加型の物語としたいと思っています 具体的にはあとがき等で都度告知を行いますので奮ってご参加いただけたらと思います イベントの有無によらず、ゲーム内(物語内)のシステムなどにご指摘を頂けましたら、運営チームの判断により緊急メンテナンスを実施させていただくことも考えています 皆様が楽しんで頂けるゲーム作りに邁進していきますので、変わらぬご愛顧をよろしくお願いしますm(*_ _)m 吉日 運営チーム 大変申し訳ありませんが、諸事情により、キリが一応いいということでここで再度完結にさせていただきます。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

NewLifeOnline〜彼女のライバルはバトルジャンキー勇者だった〜

UMI
SF
第2の世界と言われるゲームNewLifeOnlineに降り立った主人公春風美咲は友達の二条咲良に誘われゲームを始めたが、自分の持つ豪運と天然さ、リアルの度胸で気付いたら友達が追いつけないほど強いトップランカーになっていく物語だ。 この物語はフィクションです。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...