8 / 32
8話 ひつじの冒険
しおりを挟む
朝日と共に目を覚ましたぽむの隣ではご主人が眠っていた。
自分が足を引っ張ったせいで大怪我をさせてしまったのに優しく大丈夫だよと言ってくれたことを忘れることはない。
そしてあんなことは二度とあってはいけない。
強くならねばならない。
ぽむの目に火が灯る。
今日、ご主人は一日中寝ている。
何やら忙しいらしくずっと寝るらしい。
ぽむはチャンスだとばかりに身を起こして、すやすやと眠るご主人の寝顔を目に焼き付けて身支度を始める。
顔を洗い、クシで毛を整え、魔導書を持てば準備はバッチリ。
離れて行動することに寂しさを覚えて悲しい表情を一瞬だけ見せるが、怪我を負った時のご主人を思い出せば、そんな気持ちは払拭される。
扉を開けばぽむの冒険が始まる。
ルキファナス・オンラインの従魔というのは、自由に行動することができる。
死んだ際のデスペナルティはプレイヤーと同じ。
つまり主人が不在の際でも一人で強くなることができる。
しかし、ほとんどの従魔はそんなことをしない。
なぜなら主人と離れることはダメだと心の奥底に刻み込まれている。
命令でもされない限りは望んで主人と別行動は取らない。
テイマー側も極力、従魔が嫌がる命令はしない。
信頼度が下がれば従魔契約が切れてしまう。
宿を出たぽむは不安が一気に押し寄せてきていた。
いつもなら隣にはご主人がいて、人が多いときは抱き抱えてくれた。
いつもご主人についていくばかりで道もほとんど覚えていない。
キョロキョロと辺りを見回してもぽむの背丈では人が壁になって遠くを見ることができない。
それでもぽむは微かな記憶を頼りに目的地を目指す。
そこにいっても強くなれるかは分からないが、望みがあるとすればそこ以外には考えられない。
モンスターと戦ってレベルを上げる方法もあるが、それは選択肢から外している。
決して死ぬのが怖いわけではない。
もしも死んでデスペナルティになればご主人に迷惑をかけてしまう可能性がある。
歩いても歩いても目的地には辿り着かず、気づけば覚えのない通りに出ていた。
薄暗く表の通りとは別ものの雰囲気が漂っている。
「メェ」
とりあえず元の道に戻ろうと振り向けばダクトの上でふくよかな猫がくつろぎながらじっとぽむを見つめていた。
ぽむは危険を察知してすぐさま逃げるが、逃げる方向が元きた道と異なっていることに気づいたのは結構な距離を走ってからだった。
「なんにゃ、にゃあの顔を見て逃げるなんて失礼なひつじだにゃ」
猫はその様子をじと目で見ながら人語を喋った。
「めんどうだけど、報告はしておくにゃ」
§
帝都に蔓延る悪。
麻薬に人身売買は帝都でも問題視されているが未だに全てを排除することはかなっていない。
特に目をつけられているのがチャコルルファミリーだ。
チャコルルファミリーは今、勢力が二分していてお互いに争い合っている。
元々は義理堅く人情に厚いファミリーだったが、変わり始めたのは最近になってのこと。
麻薬に人身売買なんかには手を出さなかったチャコルルファミリーが他のファミリーと手を組んでメインの収入源にしようとしていた。
もちろん保守派はそれに大反発し、先代の首領であるチャコルル・シュトロフスを筆頭に改革派を断絶しようと動いている。
改革派の中心にいるのはシュトロフスの実の孫であるチャコルル・キリロフス。
父である首領・ボチャロフスが病気で倒れているのをいい機会にキリロフスは首領の座を狙っていた。
ボチャロフスが倒れたのはキリロフスが毒を盛ったのではとも言われており、改革派の人数は少ない。
しかし、他のファミリーを仲間につけていて優勢なのは改革派だった。
しかも一部の貴族の助力もあると噂が流れていた。
そういう事情もあって現在の帝都の裏は随分ときな臭いことになっている。
そんなキリロフスのシマである路地に迷い込んだ一匹のひつじ。
しかも、本人は自覚していなくてもかなりの人気がある。
「おいおい、こんなとこに噂のひつじがのこのこ歩いているぜ」
「高値で売れるぜ。今月のノルマどころか半年分になるかもしれねぇ」
たまたま歩いていたチャコルルファミリー改革派の二人の男はひつじを見て笑みを浮かべる。
「メッ、メェ」
「逃げんじゃねえぞ、下手に傷つけると値が下がるかんなぁ」
男はナイフを手に持ってひつじに近づく。
ぽむはファイヤボールを放った。
しかし、簡単に弾かれる。
「なんだぁ、このガキのお遊びみてぇな攻撃は」
「メェメェメェメェ」
ファイヤボール、ダークボールを連発すれども男たちにはダメージを与えることができない。
短い足を回転させて逃げても速度はほとんど出ていない。
簡単に男に回り込まれ挟まれてしまった。
汚い路地に爽やかな風が吹く。
爽やかな風は言葉をのせていた。
「僕のお客に何かようかな?」
「でっ、出てきやがれ。どこにいやがる」
「ここで帰れば手荒な真似はしない」
「俺らチャコルルファミリーを舐めてんのか」
爽やかな風から一転、強風が路地を抜けていく。
二人の男の首筋に血が流れる。
傷は浅いが本気になれば首を落とせると匂わせるように。
ナイフが根元から真っ二つに割れて地面に落ちる。
「ヒィっ」
「くそがっ、逃げるぞ」
二人は路地の奥へと逃げていった。
自分が足を引っ張ったせいで大怪我をさせてしまったのに優しく大丈夫だよと言ってくれたことを忘れることはない。
そしてあんなことは二度とあってはいけない。
強くならねばならない。
ぽむの目に火が灯る。
今日、ご主人は一日中寝ている。
何やら忙しいらしくずっと寝るらしい。
ぽむはチャンスだとばかりに身を起こして、すやすやと眠るご主人の寝顔を目に焼き付けて身支度を始める。
顔を洗い、クシで毛を整え、魔導書を持てば準備はバッチリ。
離れて行動することに寂しさを覚えて悲しい表情を一瞬だけ見せるが、怪我を負った時のご主人を思い出せば、そんな気持ちは払拭される。
扉を開けばぽむの冒険が始まる。
ルキファナス・オンラインの従魔というのは、自由に行動することができる。
死んだ際のデスペナルティはプレイヤーと同じ。
つまり主人が不在の際でも一人で強くなることができる。
しかし、ほとんどの従魔はそんなことをしない。
なぜなら主人と離れることはダメだと心の奥底に刻み込まれている。
命令でもされない限りは望んで主人と別行動は取らない。
テイマー側も極力、従魔が嫌がる命令はしない。
信頼度が下がれば従魔契約が切れてしまう。
宿を出たぽむは不安が一気に押し寄せてきていた。
いつもなら隣にはご主人がいて、人が多いときは抱き抱えてくれた。
いつもご主人についていくばかりで道もほとんど覚えていない。
キョロキョロと辺りを見回してもぽむの背丈では人が壁になって遠くを見ることができない。
それでもぽむは微かな記憶を頼りに目的地を目指す。
そこにいっても強くなれるかは分からないが、望みがあるとすればそこ以外には考えられない。
モンスターと戦ってレベルを上げる方法もあるが、それは選択肢から外している。
決して死ぬのが怖いわけではない。
もしも死んでデスペナルティになればご主人に迷惑をかけてしまう可能性がある。
歩いても歩いても目的地には辿り着かず、気づけば覚えのない通りに出ていた。
薄暗く表の通りとは別ものの雰囲気が漂っている。
「メェ」
とりあえず元の道に戻ろうと振り向けばダクトの上でふくよかな猫がくつろぎながらじっとぽむを見つめていた。
ぽむは危険を察知してすぐさま逃げるが、逃げる方向が元きた道と異なっていることに気づいたのは結構な距離を走ってからだった。
「なんにゃ、にゃあの顔を見て逃げるなんて失礼なひつじだにゃ」
猫はその様子をじと目で見ながら人語を喋った。
「めんどうだけど、報告はしておくにゃ」
§
帝都に蔓延る悪。
麻薬に人身売買は帝都でも問題視されているが未だに全てを排除することはかなっていない。
特に目をつけられているのがチャコルルファミリーだ。
チャコルルファミリーは今、勢力が二分していてお互いに争い合っている。
元々は義理堅く人情に厚いファミリーだったが、変わり始めたのは最近になってのこと。
麻薬に人身売買なんかには手を出さなかったチャコルルファミリーが他のファミリーと手を組んでメインの収入源にしようとしていた。
もちろん保守派はそれに大反発し、先代の首領であるチャコルル・シュトロフスを筆頭に改革派を断絶しようと動いている。
改革派の中心にいるのはシュトロフスの実の孫であるチャコルル・キリロフス。
父である首領・ボチャロフスが病気で倒れているのをいい機会にキリロフスは首領の座を狙っていた。
ボチャロフスが倒れたのはキリロフスが毒を盛ったのではとも言われており、改革派の人数は少ない。
しかし、他のファミリーを仲間につけていて優勢なのは改革派だった。
しかも一部の貴族の助力もあると噂が流れていた。
そういう事情もあって現在の帝都の裏は随分ときな臭いことになっている。
そんなキリロフスのシマである路地に迷い込んだ一匹のひつじ。
しかも、本人は自覚していなくてもかなりの人気がある。
「おいおい、こんなとこに噂のひつじがのこのこ歩いているぜ」
「高値で売れるぜ。今月のノルマどころか半年分になるかもしれねぇ」
たまたま歩いていたチャコルルファミリー改革派の二人の男はひつじを見て笑みを浮かべる。
「メッ、メェ」
「逃げんじゃねえぞ、下手に傷つけると値が下がるかんなぁ」
男はナイフを手に持ってひつじに近づく。
ぽむはファイヤボールを放った。
しかし、簡単に弾かれる。
「なんだぁ、このガキのお遊びみてぇな攻撃は」
「メェメェメェメェ」
ファイヤボール、ダークボールを連発すれども男たちにはダメージを与えることができない。
短い足を回転させて逃げても速度はほとんど出ていない。
簡単に男に回り込まれ挟まれてしまった。
汚い路地に爽やかな風が吹く。
爽やかな風は言葉をのせていた。
「僕のお客に何かようかな?」
「でっ、出てきやがれ。どこにいやがる」
「ここで帰れば手荒な真似はしない」
「俺らチャコルルファミリーを舐めてんのか」
爽やかな風から一転、強風が路地を抜けていく。
二人の男の首筋に血が流れる。
傷は浅いが本気になれば首を落とせると匂わせるように。
ナイフが根元から真っ二つに割れて地面に落ちる。
「ヒィっ」
「くそがっ、逃げるぞ」
二人は路地の奥へと逃げていった。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~
オイシイオコメ
SF
75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。
この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。
前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。
(小説中のダッシュ表記につきまして)
作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。
NewLifeOnline〜彼女のライバルはバトルジャンキー勇者だった〜
UMI
SF
第2の世界と言われるゲームNewLifeOnlineに降り立った主人公春風美咲は友達の二条咲良に誘われゲームを始めたが、自分の持つ豪運と天然さ、リアルの度胸で気付いたら友達が追いつけないほど強いトップランカーになっていく物語だ。
この物語はフィクションです。
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
じいちゃんから譲られた土地に店を開いた。そしたら限界集落だった店の周りが都会になっていた。
ゆうらしあ
ファンタジー
死ぬ間際、俺はじいちゃんからある土地を譲られた。
木に囲まれてるから陽当たりは悪いし、土地を管理するのにも金は掛かるし…此処だと売ったとしても買う者が居ない。
何より、世話になったじいちゃんから譲られたものだ。
そうだ。この雰囲気を利用してカフェを作ってみよう。
なんか、まぁ、ダラダラと。
で、お客さんは井戸端会議するお婆ちゃんばっかなんだけど……?
「おぉ〜っ!!? 腰が!! 腰が痛くないよ!?」
「あ、足が軽いよぉ〜っ!!」
「あの時みたいに頭が冴えるわ…!!」
あ、あのー…?
その場所には何故か特別な事が起こり続けて…?
これは後々、地球上で異世界の扉が開かれる前からのお話。
※HOT男性向けランキング1位達成
※ファンタジーランキング 24h 3位達成
※ゆる〜く、思うがままに書いている作品です。読者様もゆる〜く呼んで頂ければ幸いです。カクヨムでも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる