転生世界が狭すぎる!

たっちゃん

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第二章・狭い島での闘争編

34 街での噂に尾ひれがついて

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 夜、暗くなってから水竜爺さんがやってきた。何故か爺さん、島の北側の岩場から上陸してきて、こそこそと隠れるような動きをしている。

 どうやら俺が以前、対岸の森の中で頼んでたものを、大人買いして持ってきてくれたらしい。

 買ってきて貰ったものの中にタオルが数枚あるのだが。このタオル、濡れてんじゃねーか・・・。
 水の中を泳いできたから当然だけど。はは・・・。タオルは洗って乾かさないといけないが、気になるのは石鹸だ。どっさりと持ってきてくれたけど、原型はトドメてるようだ。これも乾かさなければ。

 とりあえず一つ手に取ってみると、香料が僅かに入ってるノーマルな石鹸らしい。でも汚れは落ちるみたいなので、文句は言わないことにする。報酬はいつもどおり鮭っぽい魚「ケジャ」の塩焼きだ。それに加えて街で売ってるパン。なんか普通の食事になってきたな。

 きゅ~助が既に狭い部屋で寝息を立てる中、俺はケジャに塩をまぶし、焼いて頂いたけど、爺さんも満足していた。明日も作れだと・・・。

 爺さんに頼んだものは、他に鉄鍋、調味料、パンなどの食い物。あとこの世界の仕組みを記した百科事典だった。神スマホで調べるには現段階では限界があったので、百科事典を希望したのだった。どうやら簡易な本はあったらしい。ペラっとめくってみると異世界の文字がびっしりだが、何故か俺は読むことができている。

「ところで、なにか対岸に怪しい集団がいるようじゃな」
「ああ、気づいたんなら、追っ払ってくれたらいいじゃない」
 それで島の裏手から上陸したのか。

「ワシが追っ払ったら、余興がなくなるじゃろが」
ワシの余興・・・。つまり俺が奴らとイザコザするのを、楽しみにしているらしい。

「お主、すっぽんぽんになったじゃろ」
「え?爺さん、俺の裸に興味があるのか・・・」
「ワシはなんとも思わんがな。対岸に、お主のすっぽんぽんを笑って盛り上がっておった奴らがおった。趣味の悪い奴らじゃな」
「え?あの連中、あんな離れた場所からここが見えるって、ありえなくない?」
「わりと高位の魔法使いがおってな。かなり遠目だが、魔道具で確かに見られていたようじゃな。油断したな。はっはっは」

 遠目だが、俺はすっぽんぽんを見られて笑われていたらしい。そこまで見えないと思って油断した。俺が何かと大勢にバカにされる役目というのは、日本に居た頃と変わらないみたいだ。

「そう言えばな。街でまたお主の噂が出回っていたぞ」
「え」

 俺は嫌な予感がし過ぎて布団に潜り込みたくなった。
「それは聞きたくないです・・・」
「まあ、情報収集と思って聞け。わしが入ったカフェで地獄耳を発動させてみたんじゃ。するとな、お主という盗賊は、訪れた司祭一行にひどい仕打ちをして追い払ったとか。1人は体長4メートルのおぞましき強さのギガントラビットに殺され、1人は盗賊の刀によって腕を失ったとか。神殿に安置されていた財宝を我が物として、売り払おうとしているとか。魔獣を使って国を滅ぼそうとしている、終わりの日の怪物だとか。存在するだけで迷惑みたいな話じゃったな」
「無茶苦茶か」
「あの町ではほとんど神の信仰は廃れているのに、こういう時だけ都合よく神を持ち出して、お主を悪く言い始めるのじゃな。ワシも呆れたが、ちょっと面白い展開ではないか。お主はもう街中の噂じゃった」

 爺さんが意気揚々と街の状況を語っているけど、俺にとっては良いことは何にもない。いろんな意味で、俺は叩きの対象になったらしい。
 そういえば日本では、常に各界の誰かが叩かれてたな。地に落とされた者を大勢でいじくって盛り上がることで、精神的なガス抜きが図られてるような世の中だった。所詮はここでも同じか。まぁこれも「神のおもちゃ」の呪いの一部に違いないように思えた。

「街のかわら版の紙切れでも記事になっておった。ほれっ」
 そう言って爺さん、バッグから紙切れを取り出した。
「あ、そのバッグて、もしかして異次元ポケットみたいなやつじゃないの」
「これはワシのじゃからな。まあお主も魔法鞄くらいはあったほうが良いかもしれんのう」
じゃあなんでタオルは濡れてたんだよ・・・。

 そう思いつつ、開かれたA4サイズほどの紙面に目を移すと、

<聖域の大盗賊、司祭一行に狼藉!死傷者多数!>
<近く討伐隊派遣か!?>
<最強の大盗賊あらわる!冒険者ギルドが凶悪大盗賊の討伐隊を大募集の可能性!>
<街の住人のコメント「大盗賊退治わくわくします」「盗賊に鉄槌を」「誰か悪党を早く殺せ!」>

 こんなタイトルや中身の記事が、びっしり並んでいる。俺ときゅ~助の似顔絵も描いてあるけど、どうみても極悪人っぽいイメージになってる。紙面に限っては、擁護する内容など一切なし。

「司祭一行に狼藉!死傷者多数!」って、何のことだかさっぱりわからん。
 あ、「何のことだか分かりません」これって悪者の言い訳のパターンだ。俺って完全にソッチのほうに引き寄せられてるな。あ、やっぱ冒険者ギルドあるのか。ギルドで討伐隊を大募集って、俺の思ってた異世界の理想と真逆だわ。完全に極悪人になってるな・・・ははは。

「この噂な。お主のことを、よく思ってない連中が広めておるんじゃろな。敵対する者が極悪人のほうが、何かと盛り上がるし、討伐の大義名分になるじゃろ。なにより他のことから目を逸したい者共からすれば、お主は格好の存在じゃ」
 俺はすぐ、先日この島に来た、40代いかつい顔したクアリーの顔を思い出していた。

「そもそもお主らがあんなものを掘り出したのも、連中の悪心を引き寄せた原因じゃろうな」
「そりゃまあ」
「きゅぁ~」
「あんな重たくて大量の財宝を、今更隠すのも面倒なんだけど」
 と言って俺は神殿内に所狭しと置かれた財宝の方を眺めた。

「ともかくじゃ。あやつら、これから仕掛けてくるかもしれんな。お主はどう出る?楽しみにしておるぞ、ほほほ」
 そう言って爺さんは立ち上がると、瞬時に暗い湖の中へと沈んでいった。
 え。助けてくれるんじゃないのかよ。

 どうすんだ俺。
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