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第二章・狭い島での闘争編
23 水竜爺さんとの契約
しおりを挟む水竜爺さんが自分で魚を取ってきたので、俺は不器用に三枚におろし、かまどで塩焼きにして振る舞った。いつもの小魚じゃなくて鮭に似た魚で、味も鮭によく似てた。
爺さんは人間の姿になって飯を食いに行くことがあるけど、ここで料理を食ったのは久しぶりらしい。
そういえば、俺は不安に思っていることがいくつかあった。
一つはこの狭い島の植物が枯渇してしまうことだ。きゅ~助が食い、俺は燃料にしたり紙を作ったりする。だからあと何日持つかというのは不安の種だったのだ。
そんな時、湖の管理者である水竜爺さんがお出ましになったわけだ。これは問題解決にうってつけの瞬間にちがいない。
「あのー、お願いがあるんですけど」
「なんじゃ言ってみろ」
俺はこの島の問題をあらいざらい話してみた。すると、
「そんなことなら容易いぞ。対岸に植物は生え放題で、数百年来、誰も手を付けないしな」
「まじっすか」
「何なら、島を出て湖畔に住めば良いではないか?」
「それはちょっと。この島に愛着を感じてしまっているので」
「それならここに住むしかないじゃろな。そう言えば、使っていない小型の船があるから、ワシがちょいと直して曳いてきてやろうか」
「まじっすか。直せるの?」
「無駄に長く生きてきたのでな。趣味は多いのじゃ」
でも船の動力が俺ときゅ~助だけじゃ心もとないんだが、って話になると、
「ではワシに支える下っ端の魔物に引かせればよいだろう。その代わり」
「その代わり?」
「時々焼き魚を食わせてほしいんじゃが」
とか条件をつけてきた。焼き魚くらい自分で焼けばいいと思うのだが、俺に調理させたいらしい。俺が了解すると、爺さんは湖の底へと沈んでいった。
・・・
それから音沙汰がなくなって、1週間後。
水竜の爺さん、なんかいきなり訪ねてきて、船を持ってきた。しかもでっかいワニみたいな魔獣を連れて。
そいつは水竜爺さんほどではないけど全長5メートルほどもあって、ひたいには普通のワニにはない角が生えている。
「こいつはアルガラゴンという種類でな。簡単に言うと70年前からワシの子分じゃ」
「ガウ~」
ワニ魔獣がうなり声を出した。どうやらワニは獰猛さは無く、人の言葉を理解してるらしい。船の動力源のくせに、俺よりずっと強いようだった。
俺はこっそりと「が~助」という名前を付けた。
「そういえば聖域では魔獣は、生きづらいっていう話があったけど、大丈夫なの?」
「それはもう昔のことじゃな。幽宮の聖女が現役バリバリの100年ほど前なら効き目があったが、聖女が消失して以降の壊れた結界など、魔獣になんの効き目もないわい。教会は結界を形式的にだけ継承しているようじゃな」
あ、中身がぜんぜん無くても、形式だけで認められてるっていうアレか。それにしても、結界を再現できる聖女はもういないってことなのか。
譲り受けた木造船は、放置されたカヌーと同じくらいの全長3メートルほどだが、2倍くらい幅と高さもあり、一回あたりの荷物輸送量も確保できそうだった。
これは神殿を修理する時のための船で、もう10年も使わなくなって老朽化する一方だったが、ここ1週間で直してきたらしい。船を直せるってすごいなウォーロチ爺さん。
船はイケスの近くの岩場に係留することにした。
「爺さんありがとう。でもなんかこんなでっかい魔獣が普段から島にいると、面倒はどうしたらいいの」
「なに、普段はその辺に放置しておけば、勝手にメシは食ってるから手間いらずじゃろ。用があるときだけこの笛を吹いて呼べばよい。こいつは10キロ先でも笛の音なら聞き分けるぞ。人の言葉は理解できるし、その笛を持つお主には逆らわぬ。それに敵襲があったときも、こいつは役に立つぞ」
なるほど。爺さんは貝殻でできた笛を取り出して俺に渡した。吹き鳴らしてみたが、ピ~というほんの小さな音が出るだけだ。でも角ワニは反応してこっちを見てる。
なぜかきゅ~助もワニと同時に反応して、こっちを見てる、なんでだよ・・・。
ピ~。
「きゅ?」同時に振り向くワニときゅ~助。
ピ~。
「きゅ?」同時に振り向くワニときゅ~助。
面白い・・・プルプル。
水竜爺さん、さり際に変なことを言い出した。
「お主、用心することじゃ。これから人間が牙を剥き始めるかもしれん。何かあったらワシを呼べ」
そう言って爺さんは湖に沈んでいった。一体何が起ころうとしているんだ。
<アルガラゴン(が~助)のステータス>
水竜のしもべ、名無し太郎の船頭
Lv35
体力1009、魔力508、攻撃1060、防御1304、俊敏619、知力85
レベルアップまで経験値5102
体長508センチ、体重1.4トン、75歳
水魔法LV41
スキル 流泳LV33、硬化LV29、察知LV28、隠者、溜力、獰猛
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
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