みち

篁 しいら

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寝耳に水だろう、祖父は大層びっくりしてはぁ?!と声を上げた。
私の方を向き感情のまま怒鳴りながら、祖父は質問してきた。
「誰がそなン事言ったチヤ!?」
車内に2人しかいないにもかかわらず、車の窓ガラスが小刻みに揺れた。 私は声に怯えながらも、祖父の質問にきちんと答えた。
「ようちえんの、こと、おにいちゃ…んと、おかあさん……っ!」
そこまで言い終わると同時に私は声を上げて泣き出した、前者は予想はついていたらしいが、後者の2名に関しては予想してなかっただろう。 祖父はギリリと歯ぎしりし、思いっきりクラクションを鳴らした。 自分の敷地内なので鳴らし放題ではあるのだが、すぐ下の広場で抗議が始まる。
郷土料理用に飼育していた山羊達には多大なる迷惑をかけたらしく、クラクションとセッションするようにメエメエ鳴き続けていた。
私も祖父もお構い無しに、わんわんギャーギャーの巨大感情大合唱が行われていた。 勿論ながら、その間ずっと祖父の口から放送倫理検証委員会どころか日本の全ての人権団体を敵に回すような発言を迷いなく捲し立てていたことは記載しておこう。 昭和の、しかも戦中を生き抜いてきた御仁方には、今の平和な常識なんぞ考えていたら戦中に飯など食えないと言われて終わるだけの話である。

お互い感情を出し尽くし、肩で息をしながらしばらくボーとした。 私は窓越しに空を見る、とても綺麗な青だった。
そんな私の様子を見た祖父が、何かを思い出したかのように閃くと、徐に提案してきた。

「しいら、じいちゃんの畑こンか?」
「え? どっち?」
「タンカン畑の方ヨ!」
「タンカン!」

私はタンカンと聞いて声色を上げた、私の好物の一つである。
タンカンとは、その地域名産の蜜柑である。 一般の蜜柑よりも酸味が強いが、噛むときちんと柑橘類特有の柔らかな甘味が口の中に広がる。 市場に出回りやすいのはゼリーかジュースだが、最近ではお酒などでも販売されている……だった気がする。
正直自信は無いが、1度タンカンの酒とすももの酒を送って貰いものの数日で水のように呑みきってしまったので、私自身が忘れてしまっている。
多分あったと思うので、気になる方はチェックして見てほしい。
それは端に置いといて、祖父と私の話に戻ろう。
祖父のタンカン畑はそこよりも少し奥に入り、エンジン式のトロッコに乗って移動する仕様であった。 もしかしたら見たことがない人の方が多いかもしれない、想像に近いのは『マインクラフト』で移動に使うトロッコである。
私は「タンカン、タンカン」と歌を歌いながら、祖父とトロッコに乗る。 落ちないように支える祖父の手は優しい、その間にも熱帯雨林気候特有の大きな広葉樹や葉の長い針葉樹林を通り抜けて目的地まで向かう。
私は祖父を見上げた。 農作物中の祖父は麦わら帽子を被る、昭和風のイケメンである祖父にはよく似合っていて、『麦わら帽子が似合う男』を競う大会があれば、一般人枠でいい位置に行ける自信しかないぐらいだ。

呑気に歌を歌う孫を見ながら何を考えていたのか、祖父はトロッコの終着点に降りて直ぐに私を抱き抱えて移動する。 その間はずっと無言であったが、この時期は山の中で毒蛇の産卵の時期にも被るため警戒もしていたのだろう。
視界が開ける。 祖父が山の中をくり抜いて綺麗に整列されている、地域名産タンカンの一部の木達が主人の到着を出迎えた。
私は祖父に優しく地面に降ろされた、ぴよぴよ鳴る靴で上を見上げながら歩いてみると、いつもと様子が違っていた。
よく良く考えれば分かるのだが、タンカンの収穫時期は12月から1月まで。 暖冬の年は12月末から2月に入る時期であり、毒蛇の産卵の時期が重なるこの時期に長袖でなく半袖で山に入るのは自殺行為に他ならない。
それでも祖父がここに来たのは、二つ理由があったと今では勘づく。

一つは身体を動かさないと気が済まないぐらい、気が立っていたため。
もう一つは、私にこの時期でしか得ることが出来ない話をするためだ。

祖父は私が遠くに行かないように、大きな声で私にある事を質問した。



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