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色んな記憶を見てきたが、幼少期の私についてきちんと話をしておこう。
祖父のお陰で話す事ができるようになった私だが、難点が大きく二つあった。
一つは私のコンプレックスである、非常に大きな声だ。 他人にはよく羨ましいだの長所だの言われる訳だが、私にとっては渋い顔を無意識にしてしまうぐらいには、コンプレックスである。
なぜなら、女子に不評だからだ。 故に小声がデカくてヒソヒソ話が出来ないだの、噂を言いふらされそうだの、果てには難聴なんでしょだの、名誉毀損なら勝訴間違いなしセリフを言われたりした。
とはいえ仕方がない、これは祖父に育てられた弊害の1つだろうと諦めている。 因みに、私の聴覚は人が小声で話している会話を聞き取れるレベルには耳が良い。 流石に最近はモスキート音は聞こえなくなったので、凄く歳を感じる。
もう一つは、現在大分なりを潜めたところか努力をして矯正出来たもの、正義厨だ。
清く正しく美しく、正しいことは美しく清く生きれば良い子の理論。
今では唾を吐きつけるか、灯油にどっぷりつけて燃やしてやろうかと思うぐらいに嫌悪する言葉だが、幼少期の私は本気で言葉を信じていた。
そのため、正しいことをしていない人を見ると誰彼構わず注意する。 注意の仕方も過激だ、1つ悪いことを見つけたら、怒涛のような台詞を拡声器に近い大声で捲したてるのだ。 皆は何も分からないまま子供の言葉を身に受けて、苦笑いしたり本気で怒りながら離れていく。 それを正義は勝つ!と勘違いし、エッヘンと胸を張ってドヤ顔していた。
そして突然現れた少年にコテンパンに負かされ、その正義厨は暫くなりを潜め、自我が壊れた時代に一度暴走し一通りやり尽くし、やったことに関して大反省し、現在は正義どころか正しい物事に対して、何一つ興味が無くなるまでに矯正が完了している。 これは大成長だなと胸を張れる。
そんな厄介なクソガキが、幼稚園というコミュニケーション能力が一番ものをいう空間に放り込まれた場合にどうなるかは想像にかたくないだろう。
めっっっちゃ、嫌われた。
もうめっちゃ嫌われた、父親の仕事関係の子供たち以外に友達と呼べる人は居なかった。 そして家でも嫌われた、なにかあれば私が泣き叫んで喘息を起こし、自分とパチンコのことにしか興味がなく、事情を何も把握していない父親から各家人一人一人ずつ罵倒していく。 そしてさらにまた泣くのその繰り返し、地獄の無限ループである。
好かれるはずがないのだ。
そんな私を唯一愛してくれていたのが、祖父だった。 祖母は、私は可愛い孫の一人程度の認識だと思う。
そんな私がある事を言われ、幼稚園にもお家にも帰りたくないと祖父に頼み、土日のお泊まりを1日増やしてくれた。 時期は忘れたが、とても太陽が暖かい日であったことは覚えている。
私は祖父のトラックの助手席に座り、体育座りをしながら黙っていた。 祖父はあまりに珍しい私の様子に、ラジカセすら流さず沈黙のまま運転を続けた。
祖父が所有している山にトラックが入っていく、勿論私たちだ。 軽トラック一台しか入らない道を、アクセルとブレーキ、エンストと急発進を繰り返しながら登っていく。
祖父が駐車スペースにしている砂利の場所につき、いつも通り荒々しく駐車した。 祖父は一番小さい音でラジカセを掛け始め、私に話しかけた。
「しいら、帰りたァないッチャあ珍しいがネェ。 どうしたンね?」
俯いたまま車に揺られていただけの私に、かなり不安げな声を祖父は出す。
私はしばらく黙っていたが我慢の限界が来て、涙が溢れ出した。 そして涙に釣られたように言葉が、私の口から零れ出した。
「じいちゃん、わたしのこと、みんなきらい、なん?」
→
祖父のお陰で話す事ができるようになった私だが、難点が大きく二つあった。
一つは私のコンプレックスである、非常に大きな声だ。 他人にはよく羨ましいだの長所だの言われる訳だが、私にとっては渋い顔を無意識にしてしまうぐらいには、コンプレックスである。
なぜなら、女子に不評だからだ。 故に小声がデカくてヒソヒソ話が出来ないだの、噂を言いふらされそうだの、果てには難聴なんでしょだの、名誉毀損なら勝訴間違いなしセリフを言われたりした。
とはいえ仕方がない、これは祖父に育てられた弊害の1つだろうと諦めている。 因みに、私の聴覚は人が小声で話している会話を聞き取れるレベルには耳が良い。 流石に最近はモスキート音は聞こえなくなったので、凄く歳を感じる。
もう一つは、現在大分なりを潜めたところか努力をして矯正出来たもの、正義厨だ。
清く正しく美しく、正しいことは美しく清く生きれば良い子の理論。
今では唾を吐きつけるか、灯油にどっぷりつけて燃やしてやろうかと思うぐらいに嫌悪する言葉だが、幼少期の私は本気で言葉を信じていた。
そのため、正しいことをしていない人を見ると誰彼構わず注意する。 注意の仕方も過激だ、1つ悪いことを見つけたら、怒涛のような台詞を拡声器に近い大声で捲したてるのだ。 皆は何も分からないまま子供の言葉を身に受けて、苦笑いしたり本気で怒りながら離れていく。 それを正義は勝つ!と勘違いし、エッヘンと胸を張ってドヤ顔していた。
そして突然現れた少年にコテンパンに負かされ、その正義厨は暫くなりを潜め、自我が壊れた時代に一度暴走し一通りやり尽くし、やったことに関して大反省し、現在は正義どころか正しい物事に対して、何一つ興味が無くなるまでに矯正が完了している。 これは大成長だなと胸を張れる。
そんな厄介なクソガキが、幼稚園というコミュニケーション能力が一番ものをいう空間に放り込まれた場合にどうなるかは想像にかたくないだろう。
めっっっちゃ、嫌われた。
もうめっちゃ嫌われた、父親の仕事関係の子供たち以外に友達と呼べる人は居なかった。 そして家でも嫌われた、なにかあれば私が泣き叫んで喘息を起こし、自分とパチンコのことにしか興味がなく、事情を何も把握していない父親から各家人一人一人ずつ罵倒していく。 そしてさらにまた泣くのその繰り返し、地獄の無限ループである。
好かれるはずがないのだ。
そんな私を唯一愛してくれていたのが、祖父だった。 祖母は、私は可愛い孫の一人程度の認識だと思う。
そんな私がある事を言われ、幼稚園にもお家にも帰りたくないと祖父に頼み、土日のお泊まりを1日増やしてくれた。 時期は忘れたが、とても太陽が暖かい日であったことは覚えている。
私は祖父のトラックの助手席に座り、体育座りをしながら黙っていた。 祖父はあまりに珍しい私の様子に、ラジカセすら流さず沈黙のまま運転を続けた。
祖父が所有している山にトラックが入っていく、勿論私たちだ。 軽トラック一台しか入らない道を、アクセルとブレーキ、エンストと急発進を繰り返しながら登っていく。
祖父が駐車スペースにしている砂利の場所につき、いつも通り荒々しく駐車した。 祖父は一番小さい音でラジカセを掛け始め、私に話しかけた。
「しいら、帰りたァないッチャあ珍しいがネェ。 どうしたンね?」
俯いたまま車に揺られていただけの私に、かなり不安げな声を祖父は出す。
私はしばらく黙っていたが我慢の限界が来て、涙が溢れ出した。 そして涙に釣られたように言葉が、私の口から零れ出した。
「じいちゃん、わたしのこと、みんなきらい、なん?」
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