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私が帰宅した直後、車庫の方から音がした。 玄関に鞄を置いた瞬間に砂利を踏みつける重めのタイヤ音が聞こえ、私はそのまま勝手口側の車庫に走る。
当時我が家は部活の送迎が多かったため、ワゴン車を使っていた。 その助手席からは母親が、そして少し遅れて父親が、暗い顔をして降りてくる。
私は2人の様子を気にすることなく近付くと、ただいまとという挨拶の後に捲し立てた。
「父さん母さん、私、じいちゃんとこ行かなきゃ! 約束だから、連れてって欲しい!!」
2人は顔を合わせ、そしてゆっくり私を見た。 母親は少し落ち着きなさいと諭した後、口を開いた。
「実はさっきやっと、じいちゃんは状態が安定したのよ」
「え、ほんとに!?」
私はホッとした、その様子を見て2人も少し安心したようにため息を着く。 父親は私の肩に手を置いて、状況を話し始めた。
「じいちゃんはさっきまで、親戚の人たちと会って話しとったぐらいには安定したんよ。 父さんはこの後大阪と東京から来るじいちゃんの兄弟を迎えに行くから、その後にみんなで行こう」
「え、けど、やくそく………」
約束に拘る私を見て、母親が心配そうに口を開いた。
「しいらあんた寝てないでしょう? 目の下クマだらけよ。 会いに行くにしても少し寝てご飯食べて、元気な姿でじいちゃんに会いなさい」
「え、マジ?!」
私は慌てた、高校の校則を律儀に守っている人間だったために手鏡どころか化粧品すら触ったことなどなかった。 私は車のサイドミラーで自分を見る。
確かに、いつもと比べたら目の下にクマが出来ており、昨晩の帰宅後に泣きすぎて瞼も腫れている。 さらに血の気がない、ただでさえ童顔なのにここまで青白いと、ホラー好きの父親と幼少期の時によく見ていた、キョンシーの映画みたいじゃないか。
ちなみにだが、多分そのせいで私はチャイナ服が好きだし民族衣装はとても好きであり、1番好きなのは日本の着物である。 ここでは全く関係ない話だが語らせて貰おう。
「はげー、最悪じゃや」
「そうよ、最悪じゃなくせなあかんよ。 ほら、中に入ろ」
母親が玄関に回る、父親は胸元のポケットから煙草を取りだし火をつけて、体と肺に煙をくぐらせた。
「何かあったらすぐ電話する、だから家で待ってろ」
当時はまだ珍しい携帯電話を、父親はポケットから取り出して見せてくる。 私はそれを見て溜息をつき、悪態をつく。
「まぁた会社の携帯電話使ってる……怒られても知らんからや」
「まぁ、許可は貰ってんでしょ」
母親もあまりいい感情はないらしく、おなじくため息をついた。
その後は制服を着たまま少し寝たが、百均で買ったMY鏡を見てもやはりクマは取れてはいなかった。 姉に顔を洗ってこいと言われ、洗面所兼風呂場に向かう。紺色を基調としたジャンパースカートは脱ぎづらい、私はタオルを一枚襟首に巻き付けて顔を洗った。
寝ている間に姉が作ってくれていたカレーと、母親が簡単に用意した味噌汁が並ぶ。 何故カレーに味噌汁が並ぶかは誰にも分からない、聞いても母親が答えないので誰も知らないのである。 ただ、我が家では素麺以外は味噌汁が付いていた。
兄も揃い4人で手を合わせた時、車庫の方から車が入ってくる音が聞こえた。
車が止まる音と同時に車のドアが開く音、サンダルを引きずりながら駆け寄ってくる足音。
勝手口が開く、そこから叫んだ父親の声に私たちの空気は一瞬で凍りついた。
「親父の容態が!早く準備しろ!!」
→
当時我が家は部活の送迎が多かったため、ワゴン車を使っていた。 その助手席からは母親が、そして少し遅れて父親が、暗い顔をして降りてくる。
私は2人の様子を気にすることなく近付くと、ただいまとという挨拶の後に捲し立てた。
「父さん母さん、私、じいちゃんとこ行かなきゃ! 約束だから、連れてって欲しい!!」
2人は顔を合わせ、そしてゆっくり私を見た。 母親は少し落ち着きなさいと諭した後、口を開いた。
「実はさっきやっと、じいちゃんは状態が安定したのよ」
「え、ほんとに!?」
私はホッとした、その様子を見て2人も少し安心したようにため息を着く。 父親は私の肩に手を置いて、状況を話し始めた。
「じいちゃんはさっきまで、親戚の人たちと会って話しとったぐらいには安定したんよ。 父さんはこの後大阪と東京から来るじいちゃんの兄弟を迎えに行くから、その後にみんなで行こう」
「え、けど、やくそく………」
約束に拘る私を見て、母親が心配そうに口を開いた。
「しいらあんた寝てないでしょう? 目の下クマだらけよ。 会いに行くにしても少し寝てご飯食べて、元気な姿でじいちゃんに会いなさい」
「え、マジ?!」
私は慌てた、高校の校則を律儀に守っている人間だったために手鏡どころか化粧品すら触ったことなどなかった。 私は車のサイドミラーで自分を見る。
確かに、いつもと比べたら目の下にクマが出来ており、昨晩の帰宅後に泣きすぎて瞼も腫れている。 さらに血の気がない、ただでさえ童顔なのにここまで青白いと、ホラー好きの父親と幼少期の時によく見ていた、キョンシーの映画みたいじゃないか。
ちなみにだが、多分そのせいで私はチャイナ服が好きだし民族衣装はとても好きであり、1番好きなのは日本の着物である。 ここでは全く関係ない話だが語らせて貰おう。
「はげー、最悪じゃや」
「そうよ、最悪じゃなくせなあかんよ。 ほら、中に入ろ」
母親が玄関に回る、父親は胸元のポケットから煙草を取りだし火をつけて、体と肺に煙をくぐらせた。
「何かあったらすぐ電話する、だから家で待ってろ」
当時はまだ珍しい携帯電話を、父親はポケットから取り出して見せてくる。 私はそれを見て溜息をつき、悪態をつく。
「まぁた会社の携帯電話使ってる……怒られても知らんからや」
「まぁ、許可は貰ってんでしょ」
母親もあまりいい感情はないらしく、おなじくため息をついた。
その後は制服を着たまま少し寝たが、百均で買ったMY鏡を見てもやはりクマは取れてはいなかった。 姉に顔を洗ってこいと言われ、洗面所兼風呂場に向かう。紺色を基調としたジャンパースカートは脱ぎづらい、私はタオルを一枚襟首に巻き付けて顔を洗った。
寝ている間に姉が作ってくれていたカレーと、母親が簡単に用意した味噌汁が並ぶ。 何故カレーに味噌汁が並ぶかは誰にも分からない、聞いても母親が答えないので誰も知らないのである。 ただ、我が家では素麺以外は味噌汁が付いていた。
兄も揃い4人で手を合わせた時、車庫の方から車が入ってくる音が聞こえた。
車が止まる音と同時に車のドアが開く音、サンダルを引きずりながら駆け寄ってくる足音。
勝手口が開く、そこから叫んだ父親の声に私たちの空気は一瞬で凍りついた。
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