喜雨

篁 しいら

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あの雨の日の一日

7.喜雨

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「いやしかし、今日は久々に降りましたね」
「そうですね、暫く雨が降らずダムもね。 干上がってるって、テレビで見ましたよ」
「そうですな、この雨が『キウ』になれば良いですね」
「『きう』……? 」
「雨を喜ぶって書いて『喜雨』きうです。 恵みの雨、に近い印象ですね」
「へぇー、知らなかったです。 流石ですね」
「いえいえ」

『喜雨』きう
私はスっとスマホを取り出すと、その言葉について調べた。

『喜雨(きう)-日照り続きのあとに降る雨。 慈雨。』

何も無くなったカップを見て、そして今の潤った幸せを再確認した。
また、ここの珈琲を飲みに来よう。私はそう心に刻んだ。
座った時とは違う心持ちで立ち上がる、いつの間にか置かれていた伝票を手に取り会計に向かった。
出迎えてくれた可愛い女性が微笑を浮かべながらこちらを見つめてくる。私は「美味しかったです」と伝えると、可愛らしい笑顔で「ありがとうございます」と返してくれた。

会計が終わり、傘を取って外に出た。 空には晴れ間が見え、少し夕暮れに近い蒼さが顔を出していた。
私は空を見上げて一つ息を吸い、背筋を伸ばして歩き出す。
暗い気持ちで出ていった自分の家を見据えながらも、心は満たされて踊っている。

さぁ、明日からどうしようか。

そんなことを考えながら、私は水たまりの水と気持ちをはねさせた。


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