黒騎士爆走物語

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従業員は動き出す2

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ただ、しかし。
事情を知っている身としては気の毒に、という感情が湧いているものの、黒騎士そのものに問題はない。
テンリィがやべぇ、と感じた目下の原因は──。

「キュー」

テンリィは視線を横に投げかける。
操作盤の前に陣取るキューは、動かない。

壁の部屋から隙間に身体をねじ込み、バックヤードへ入り込んでしまった彼が監視カメラで追えなってしまってから、しばらく。
研究棟のカメラでようやく映った黒騎士は、鎧を震わせ泣いていた。
先程の撮影機器とは接続系統が独立しているため、今回の映像は音声もしっかり聞きとれる。
故に、黒騎士の慟哭も、怨嗟の声もばっちりこちらへ筒抜けた。

『スライムを実験動物として扱い、無慈悲に何体も殺した悪逆非道の黒幕』として認定されてしまったキューは、黒騎士の映っている画面を食い入るように見つめていた。
あまりの勘違いに絶句しているのだろうか。
そちらの方がだいぶいい、とテンリィは小さくため息をついた。

「キュー!」
「うぉ」

声を張り上げると、瞬きすらしていなかった身体がびくりと反応する。
なぜ呼ばれたのか理解していない様子のキューへもう一度名前を呼び、テンリィは従業員として指示を伺う。

「どうするんです、これから」
「あぁ……そうだな、完全に敵とみなされちゃったしな……」

質問に受け答えはするものの、キューの様子はどこか上の空だ。
しばらくうろうろとさまよった視線は、また黒騎士の姿に固定される。

「なぁ、テンリィ。あいつは今、仲間が死んでいると思って泣いているんだよな」
「ええ、そうでしょうね」
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